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番外編 聖なる夜に

番外編です。

これを本編の未来と見るかIFストーリーと見るかは、貴方次第だ。

夜、街灯が照らす道を歩くバイト帰りの僕は、視界にチラついた白いものに気がついて、ふと空を見上げた。


「あ…雪だ……」


もう年末がすぐそこまで迫っている。

今日はまた一段と寒かったから、雪が降ってもおかしくない。


「あんまり遅くなると拗ねちゃうかな…早く帰ろう。」


普段はクールで大人な女性である彼女が雪にはしゃぐ姿を想像して、僕は頬を緩めた。

右手に提げた、バイト先の創作料理屋で貰った余り物のチキンが冷める前に、彼女の待つ家に帰ろう。






「ただいまー。」


そういえば、もうこのマンションに住み始めて6年が経つのか。

唐突にそんな事を考えながら、自宅の扉を開けた。


「おかえりなさい。」


玄関で靴を脱いでいると、リビングからパタパタと歩くスリッパの音が聞こえた。

先月買った、冬用のモコモコした可愛らしいスリッパに違いない。


「遅くなってごめんね。」


「気にしないで。今日は特に忙しかったでしょ。お疲れ様。」


謝りつつ顔を上げると、彼女は慈愛に満ちた聖母のように微笑んだ。

美しいと可愛いがこれほど見事に調和して両立する事ってあるんだね。


「昨日に引き続き、予約がパンパンに詰まってたよ。」


「仕方ないわよ。クリスマスだもの。」


「そうだね。」


相変わらず柔らかな彼女の微笑み。

この顔、好きだな…なんてしみじみと思いながら、僕は改めて口を開いた。


「……ただいま、冬華さん。」


「おかえりなさい、誠君。」






「それじゃ…メリークリスマス。」


「Merry Christmas.」


無駄に発音の良い冬華さんの言葉を聞いて小さく吹き出すと、冬華さんは悪戯っぽく笑った。

意外とお茶目なところを可愛いなぁ。

ていうか発音良すぎでしょまじで。


「んっ…ふぅ、美味しいわ。」


「……本当だ。これ凄く美味しいね。」


冬華さんに続いて高級そうな赤ワインを一口含み、その芳醇な香りと複雑な味に唸る。

僕は今年で22歳になった、もう大学4年生である。

お酒くらいは普通に飲めるようになった。

なお、弱くはないが特別強くもない。


「お義父さんとお義母さんにお礼言っとかないと。明日にでも電話しようかな。」


「あら、私から言っておくから良いわよ。」


「駄目だよ。こういうのはしっかりしとかないと。」


僕がゆっくりと首を振ると、冬華さんは苦笑した。


「…相変わらず歳の割にきっちりしてるわね。そういうところを父と母に気に入られているのだろうけれど。」


この高級ワインは冬華さんのご両親にいただいたものだ。

一昨年に初めてお会いして以来、何かと良くしていただいている。

最初は厳格そうなお義父さんでビクビクしていたが、とある事が原因で急にフレンドリーに接していただけるようになった。

折角の良好な関係を悪くしない為にも、礼節を持って接しなければならない。



「ほら、これ食べてみてよ。ちょっと冷めちゃったけど、まだ温かいよ。」


丸皿に持ったフライドチキンを指すと、冬華さんは目を輝かせて嬉しそうにした。

相変わらず普段とのギャップが可愛いすぎるんだよな


「美味しそう!とっても良い香りね……いただきます。」


家の中では遠慮しない冬華さんは豪快に齧り付く。

いや、豪快に食らいついているつもりだろうが、根っからの上品さがあるから男の僕からしたら可愛らしくハムッとしているようにしか見えない。

それでも冬華さんは一生懸命にモムモムと咀嚼し、キラキラした目を見開いた。


「おいひぃ!!」


「わかったから、ちゃんと食べてからね。」


「むっ…もむもむ……んくっ……美味しい!」


僕の言葉に不満げながらもちゃんと噛んで飲み込んだ冬華さんが、仕切り直すように言った。


「ふふっ、良かった……それ、僕が作ったんだよ。」


「そ、そうなの!?」


冬華さんが大袈裟に驚く。

そういえば家で作った事はなかったかもしれない。

昨年のクリスマスは冬華さんのご両親と一緒に外食したしね。



「カリカリしててとっても香ばしいわ……味もしっかりしてるのね。」


「部位の切り取りから下味つけて揚げるところまで全部自分でやったからね。結構自信作だよ。」


「本格的ね。流石は誠君だわ。」


次のチキンに手を伸ばしながらそう言った。


「でも、フライドチキンって珍しいわね。」


「基本的にはローストチキンだよね。」


「うちも昔からそうだったわ。」


昨年、食事に連れていっていただいた時もローストチキンが出たな。

あれは美味しかった。


「うん、そうだと思ったから、たまにはこういうのも良いかなって。……ローストチキンの方が良かったかな?」


「いいえ、新鮮で楽しいわ。それにこんなに美味しいんだもの。文句なんて1つもないわよ。」


冬華さんの笑顔を見て安堵した。

意外にジャンクなものも好きだから、喜んでくれるとは思ってたけどね。




「はむっ…んむむ……どれも美味しい…幸せだわ。」


蕩けたように頬を緩める冬華さんを見ていると、僕までニヤけてしまう。

ローストチキン以外にも昨日の内に作っておいたポテサラとか、冬華さんの好物もいっぱいだからか、かなりご機嫌な様子だ。


「大袈裟だなぁ。」


「大袈裟なんかじゃないわよ。貴方の手料理を毎日食べられるなんて、やっぱり同棲して良かったわ。」


冬華さんが住んでいた903号室は、今は別の人が家族で住んでいる。

冬華さんは2年前の秋から僕の家に越してきていた。


「同棲して良かったのは料理だけ?」


「そ、そんなわけないじゃない!」


僕が寂しげな表情で問うと、冬華さんは慌てて手をパタパタと振った。

その仕草が可愛すぎて、耐えきれずに破顔する。


「……ぷっ…くくくっ…」


「え………も、もう!」


揶揄われた事に気付いた冬華さんが顔を赤らめた。



「それで、料理だけじゃないなら、何ですか?」


「ぅ……それは……い、色々よ。」


「色々って?」


「ぇ…ぅ……うぅ……」


冬華さんは顔を赤らめて目をキョロキョロとさせた後、小さく俯いて目をそらしながら口を開いた。


「ま、誠君と……一緒にいられる、事…とか…?」


「…………。」


「な、何か言っ…きゃっ!?」


無言の僕に口を尖らせる冬華さんを、思わず抱き締める。


「ちょ、ちょっと急にな…んんっ!?」


そして慌てる冬華さんに口付けをした。

柔らかな唇の感触と、心が落ち着く良い匂い。

彼女をこんな風に愛する事のできる僕はなんて幸福な奴だろう。

そう思った。



「冬華さん、好きです。」


これまで何度も口にした言葉。

もう聞き慣れたはずなのに、冬華さんは気恥ずかしげにはにかんでくれる。

その笑みが何よりも愛おしいと感じた。


「……私も、誠君が好きよ。」


「これからも一緒にいて下さい。」


「勿論よ……ふふっ、まるでプロポーズみたいね。」


「それはまたいつかします。」


「…待ってるわ。」


「はい………と、とりあえずご飯食べましょうか。」


「そ、そうね。」


正気に戻ったら何だか恥ずかしくなってしまった。

冬華さんも同じように笑っている。





「冬華さん、ご飯食べたら一緒にお風呂入りましょうか。」


「え…い、一緒に?」


「最近別々だったじゃないですか。明日はお互い休みだし、たまには良いでしょう?」


「明日が休みかどうかが何故関係あるのかしら…」


「そりゃ……ねぇ。」


お風呂場からスタートしたら1回戦で終わらないからですよ。


「ぅ…誠君……目がエッチだわ…」


冬華さんが赤面して自らの肩を抱き締めた。

その仕草がますます僕の心を沸き立たせているのを、彼女は自覚しているのだろうか。


「駄目ですか?」


「だ、駄目とは言ってないわ。」


「なら、良いですね。」


「ぅ、ぁ……はぃ…」


心底恥ずかしそうに俯く冬華さん。

年齢の割に初心な反応だが、それもまた可愛らしい。

彼女のこんな表情を見れるのは世界に僕だけ。

決して手離さないよう、これからもこの人を愛していこう。


そんな事を思った、とある聖夜であった。

新連載です。

宜しければご一読下さい。

一応恋愛物です。


『呪恨の彼女と呪われた彼』

https://ncode.syosetu.com/n5465gr/

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― 新着の感想 ―
[一言] 番外編最高でした。
[一言] これが実現することを願っています。 しっかり回収なさってください笑
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