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体育祭 前編

盛夏の太陽が照りつける中、蒼雲高校のグラウンドには全校生徒が日差しに目を細めながら並んでいた。


「長谷川、今日は絶対勝とうな。」


野口が無駄に気合いの入った強い目でそう言った。

彼はこういうイベントでマジになる人種なのだ。

真剣になれるのは良い事だね。


「まぁ、頑張ろう。」


「何だよ気合い入ってねぇな。そんなんで代表リレー大丈夫なのか?」


誰のせいでそのリレーに出る事になったと思ってるんだ。

今更グチグチ言ったりしないけど、そんな言い方をされると引っかかってしまう。



「しなきゃいけない事はちゃんとするさ。ただこうも暑いと立ってるだけで疲れちゃうからさ……」


「おいおい、女子達に良いとこ見せるチャンスだぞ?しっかりしろよ!」


「不純な奴め…」


「冴木先生だって見てるんだぞ?」


「仕方ない。いっちょやったる。」


「えっ」


そんなやりとりをしながら開会式を終えた。

さぁ、いよいよ体育祭だ。






様々な種目が次々と消費されていき、あっという間に昼前になった。

太陽も澄んだ青空の頂点に迫っている。


「もうすぐで障害物競走だな。それが終わったら昼飯だ。」


説明乙。


「そろそろ行かないといけないんじゃないの?」


「おっと、そうだな。んじゃちょっくら行ってくるぜ!」


「頑張ってねー。」


障害物競走に出場する野口を見送り、心にもない声援をプレゼントした。

ごめん野口、僕は泰野さんを応援しなければならない約束なんだ。






障害物競走が始まり、まずは1年生の出場者達が走った。

今年の障害物競走は、地面に張り付けられたネットを匍匐前進で潜り抜け、平均台の上を渡り、コース途中に立つ体育委員とじゃんけんをし、吊り下げられたパンをジャンプして咥え、最後に机に置かれた箱から折り畳まれた紙を取り出してそこに書かれた内容に当てはまる人を連れてきてゴールしなければならないというものだ。


なかなかにハードな内容である。

生徒達からの人気が高い競技だから、なるべく長くしようって感じらしい。

野口はどうでも良いけど…泰野さん、大丈夫かな。


と心配している内に1年生が走り終え、2年生の番になった。

一度に走るのは6人まで。

野口が3コースに立っている。

走るのは男女で分けられているようで、泰野さんは次に走るみたいだ。

これなら2人とも応援できるね。

仕方ないから野口も応援してあげよう。



「おー…野口頑張ってるなぁ。」


彼はいま、ちょうど体育委員とのじゃんけんで10回目にしてようやく勝ったところであった。

そこに辿り着いたのは1番だったのに、お陰で2人に抜かされてしまっている。


だがその内の1人がパンを咥えるのに苦戦している横を、野口が颯爽とジャンプ一発でパンを咥えて走り抜けた。

まるで投げられたパン屑を水上でパクリと飲み込む鯉のようだった。

野口にあんな特技があったとは。


「借り人の内容次第では逆転もできるかな。」


現在1位の男子が観客席へ向かった後に机に辿り着いた野口が、素早く紙を選び取った。

そして折り畳まれたそれを開き、ニヤッと笑った。

どうやら心当たりのある内容だったらしい。


「何だろ…あ、こっち来てる。」


野口がこちらの観客席へ走り寄ってくる。

そして大声で誰かの名前を呼んでいた。

最初はよく聞こえなかったが、近付くにつれて聞こえるようになった。



「…ころさん!……どころさーん!……田所さーん!!」


田所さん……え、田所さん?

同じクラスの田所さん、教室では僕の斜め前、野口の隣の席の彼女である。

近くにいた田所さんを見ると、彼女も野口の声が聞こえたようで、目を見開いて驚いていた。


「田所さん、呼んでるよ。」


「え…あたし、なのかな…?」


田所さんに話しかけると、彼女は困惑した顔で首を傾げた。


「少なくともうちのクラスに田所さんは1人だけだけど……」



「おーい!田所さーん!あっ、2-Aの田所さん!こっち来てくれー!!」


野口が必死に叫んでいる。


「やっぱり君だ。ほら、行ってあげなよ。」


「ぅっ……仕方ないわね。」


目立つのが苦手そうな田所さんだが、ここで断るのはマズイと思ったようで、渋々ながら立ち上がって前に出ていった。

走り寄る田所さんを見て、野口が破顔する。


「よっしゃ、ありがとう!んじゃ行こうぜ!」


野口はテンションが上がった様子で田所さんの手を掴み、駆け出した。

田所さんは慌てるが、引っ張られるままに走った。


「……田所さん、意外に運動できるんだね。」


野口が多少合わせてはいるものの、思った以上に速く走る田所さんを見送りながら、僕はそう呟いた。




野口と田所さんは見事1位でゴールした。

ゴール後、コースから外れた野口がニコニコ笑いながら何かを言い、それを聞いた田所さんが野口にガゼルパンチをお見舞いするというハプニングがあったものの、2年男子の障害物競走は無事に終わった。


なお、後で野口に殴られた理由を尋ねたところ、借り人の内容を問われて「眼力の強い人」と正直に答えた為と言っていた。

その内容でいの一番に思いつくのが田所さんとは……。

でもちょっとわかる気はする、絶対言えないけど。


まぁなにはともあれ、野口が1位になれて良かった。

あと田所さんのパンチは見事だった。

次は泰野さんが走る番だ。

気合いを入れて応援しよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 眼力ってなんだそのお題wwww
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