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ヤンデレとユグノ村(前)

「ところで、これから私たちはどうします?」


 そういう経緯があって俺とシオンはパーティーを組んだ訳だが、結成の目的が「シオンの凶行を止めるため」だったので、今後の指針は何もなかった。

 そのため、俺たちは改めて今後の方針を話し合っているという訳である。


「とりあえず何もないようであれば私はゴードンたちを殺さない程度に……」

「よし、違う街に行こう」


 シオンが何か物騒なことを言いかけたので俺は反射的にそう答えてしまう。

 とはいえ、別の街に行くというのはとっさに考えた割に悪くない案だと思う。この街にいれば俺は追放されたやつと周囲に思われたままだし、うっかり俺やシオンのかつての仲間と出くわせば戦いになりかねない。何より、新しくやり直すのであれば新天地の方が気分も晴れるというものだ。


「確かに、あいつらと同じ空気を吸いたくないですもんね!」


 だからそういう台詞をにこやかに言うのはやめて欲しい。

 やはり一刻も早くこの街を離れなければ、と思う。


「大丈夫です、教会にも事情は伝えているので私はいつでも離れられます」

「そうか。俺も大丈夫だしそれなら早速旅立つか」


 そもそも俺はパーティーで移動してたまたまここに来ただけで、別にここに住んでいる訳でもない。


 というか「教会に事情は伝えている」と言うと何事もなく聞こえるが、突然「復讐の神に信仰を鞍替えしました」などと言えば普通はただで済む訳がない。もし穏便に済んだのだとすれば教会も身に余る力を手にしてしまったシオンを持て余していたのだろう。



 こうしてその日の昼には俺たちは街を出た。シオンと二人で街を出るとまるで周囲の世界がすっかり変わってしまったようなすがすがしい感覚になる。どうやらこれまでの俺はあの三人との冒険に知らず知らずのうちにストレスをため込んでしまっていたらしい。


 もっとも、ストレスから解放された代わりに今は爆弾を抱えながら冒険しているような緊張感に包まれているが。


「ところでオーレンさんはどんな女性がタイプですか?」


 先ほどからシオンとは好きな食べ物とか休日にすることとかそういう当たり障りのない雑談ばかりしていたが、唐突にそんな危ない質問を投げ込んでくる。


 好きな食べ物とか休日の過ごし方なら素で答えて大丈夫だが、女性のタイプはまずい。昨夜も俺がジルクが連れていた踊り子の胸を見ていたという言いがかりで一晩中怒られた。では逆にシオンの特徴を言えばいいのだろうか? しかしそれでは俺がこいつを好きだという勘違いを生んでしまいかねない。そうなればシオンの思い込みにますます拍車がかかるのではないか。


 悩んだ末に俺は折衷案として容姿はシオンに近いものを、性格はシオンとは逆のものを言うことにした。


「そうだな、容姿は少し華奢で可愛らしい子がいいな。それで性格はおしとやかで大人しめがいい」


 ちなみに俺はどちらかというと巨乳派なので前半は嘘だ。後半は今切実にそう思っている。要するに本当は異性としては全く好きなタイプではない。

 が、なぜか俺の言葉にシオンは嬉しそうに笑うと、俺の腕にしがみついてくる。



「全く私と同じですね! これはもう運命としか思えません!」

「……」



 あまりにあんまりな返答に俺は絶句してしまう。

 こいつ、さては全く現実を見ていないな? 俺が思うおしとやかで大人しめの女子は『クズ』とか言わないんだが。せっかく誤解を生まないようにわざとシオンのタイプから外そうとか考えたがその努力は何の意味もなかった。


 今も膨らみかけの胸を俺の腕に押し付けるような恰好になっているが全くドキドキしない。いや、別の意味ではすごくドキドキしているが。


「まあ、シオンもそうなるように努力してくれたら嬉しい」

「はい、そういうのは得意分野なのでお任せください!」

「……」


 そんな胃が痛くなりそうなやりとりをしているうちに俺たちは村に辿り着く。周囲を畑に囲まれた、どこにでもありそうな小さな村だ。すでに夕暮れ時にさしかかっており、ここが今日の宿になるだろう。


「お、村が見えてきたぞ」


 俺はわざとらしく話題をそらす。この話題は一刻も早く終えたかった。

 だが、村に近づいていくと何やら様子がおかしい。村人たちは皆元気がなく暗い表情で歩いている。しかもまだ日が落ちた訳でもないのに、村の周囲の畑にも人の気配がそんなにない。近づいていくと、畑の作物もところどころ枯れている。


「元気がないようだが、何かあったのか?」


 俺はたまたま最初に出会った村人に声をかけてみる。

 畑仕事の手伝いをしていたと思われる十代の娘で、若いからなのか他の者より幾分か元気があるように見えた。


 声をかけた瞬間、横から凄まじい殺気を感じたので魔物でも襲ってきたのかと思ったが、殺気の正体はシオンだった。村の不穏な空気から本当に魔物でも出るのかと心配していたのでやめて欲しいんだが。


「容姿が少し華奢で可愛らしい子……」


 シオンが俺を非難するようにぼそりと呟く。確かに俺が声をかけた娘はそんな感じだが、容姿で選んだわけではなく一番声をかけやすいところにいたから声をかけただけなんだが。彼が白髪の老人でも俺は声をかけた。


 娘の方も突然旅人に声を掛けられたと思ったら強烈な殺気を浴びて戸惑っている。


「ぐ、偶然だ! とりあえず話だけでも聞かせてくれ」


 俺は小声でシオンに言ってから娘に向き直る。


「……驚かせて悪かった。俺たちは旅の者だが、この村は何かあったのか?」

「はい、実は最近病のようなものが流行っていて皆元気がないし、畑もこんな感じなんです。これまで何人か詳しそうな方を呼んでみたのですが、全く見当がつかなくて……」


 彼女は暗い表情で語る。


「おしとやかで大人しめ……」


 横で再びシオンがぼそりとつぶやく。大人しめというか、単に元気がないだけだと思うんだが。そんな責めるような目でこちらを見るな。


 とはいえ俺は別に病や作物に詳しい訳ではないので、不穏な空気を出しているシオンに尋ねるしかない。


「シオンは何か分かることはあるか?」


 俺が尋ねるとシオンは不満そうな顔をする。よほど俺がこの娘に声をかけたのが不満なのだろう。


 しかし辺りを見回して村人が困っているのは理解したのか、はあ、と溜め息をつく。シオンも一部の感性が異常なだけで根は悪い奴ではない。協力してくれる気になってくれたのだろう。

 その代わり、今夜は色々覚悟した方がよさそうだが。


「言われてみれば、かすかにですが邪悪な気配を感じますね」


 俺はさっきまで、真横から膨大な邪悪な気配を感じていたけどな。

彼女の意識が俺から畑に向いて殺気が消えたからか、言われてみれば畑からかすかな嫌な気配を感じることが出来るようになった。人間や動物の死体などからも似たような気配を感じることがある。


「分かりました、では私が邪悪な気配を浄化しましょう」

「おお、そんなことが出来るのか!」


 忘れがちであるがそう言えばこいつは神を信仰する神官であり、聖なる力を持っている。もし畑が本当に邪悪なもので汚染されていたとしても、浄化できるはずだ。


「あ、ありがとうございます」


 娘もシオンの殺気に脅えつつではあるが、一応お礼を言う。

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