捜索
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その後屋敷に戻ってもシオンが戻っている様子はなかった。パーティーを組んでいるとはいえ、シオンも一人の自立した人間なのだから普通は半日ぐらいいなくなった程度で慌てるのは大げさなのかもしれない。
それでも俺は込み上げてくる不安を抑えることは出来なかった。
「なあ、今朝シオンを見かけなかったか?」
俺は屋敷近くにいる町の人たちに次々と訊いて回った。
「すまんなあ、今朝は寝てたよ」
「昨日遅くまで騒ぎすぎてな」
相変わらず冒険者の朝はルーズだ。そもそもシオンが何時ごろに出ていったのかすら分からない以上聞き込みで情報を得るのは難しいだろうか、と思った時だった。
「今朝ではないが……昨日の夜なら歩いていくのを見たよ……酔っていたからあんま覚えてないが」
一人の男が眠い目をこすりながらそう答えた。
「本当か!? どちらに行ったか覚えているか!?」
思わず語気が荒くなってしまう。そんな俺の様子を見て男は少し面食らったようだった。
「い、いや、そんなこと言われても俺も大分酔ってたし……だが町の外だった気がする」
「町の外……ということは隣町か?」
「さあ……にしてもお前、ちょっと彼女がいなくなっただけで心配するなんてちょっと束縛しすぎなんじゃねえか? もう少しのびのびさせてやれよ」
いや、どちらかというと束縛してくるのはシオンの方なんだが。
こいつはまだ酔いが残っているのか、焦っている俺を見てニヤニヤと笑みを浮かべている。それを見るとこっちは本気で心配しているというのに、と苛立ってしまう。
「何でもいい、一応礼は言っておく!」
そう言って俺はすぐに隣町に向かった。
ここロンドの町は辺境にあるため、隣町といっても歩いて半日ほどの距離がかかる。俺は体を鍛えているのでさらにその半分くらいで移動することは出来るが。
ここから少し皇国の内側に入ったところにある町はサマルという小さな町で、皇国内部の農作物などを辺境に売り、辺境で倒した魔物の素材などを皇国に売る中継の役割を果たしているが、逆に言えば他にめぼしい産業がない町とも言える。
俺は可能な限り早歩きでサマルに着いたが、ワイルドボア討伐のせいで出発が遅れたのですでに日も傾きかけていた。とはいえ、ここからどうすればいいのだろうか。シオンが行きそうな場所に心当たりはない。
仕方なく俺は町の人にシオンを見なかったか聞いて回った。ロンドではシオンはすでに有名人になっていたので名前を出せば通じるが、こちらではいちいち容姿を説明しなければならないのがもどかしかった。
「長くて美しい銀髪に、華奢な体躯、あと多分修道服を纏っていたはずだ」
「人探しと見せかけて彼女自慢か? 商売の邪魔だから帰ってくれ」
不本意ながら忙しい商人からはそんな風にあしらわれたことも一度や二度ではなかった。 見た目に関しては嘘は言ってないのにそういう扱いを受けるのは不本意だ。
が、やはりシオンの見た目が目立つものだったのが幸いした。
一時間ほど聞き込みした後のことである、ようやく一人の男が「ああ」と何かを思い出したように言った。
「そう言えばそんな人なら昼頃この町に来たのを見たような気がする」
「どこに向かったか覚えてるか!?」
俺の剣幕に彼は少し驚いたようだったが、
「何かメモのようなものを見ながら町外れに向かっていったぞ。あっちには確か変な奴らが住んでるから危険なんだよな」
と町の外を指さす。それを聞いてますます俺は心配になる。
「変な奴らって何だ! どんな奴らなんだ!?」
「し、知らねえよ、俺はそんなところ行かないんだから」
シオンは思考が極端なことがあるので言葉巧みに誘われれば変な奴らについていってしまうかもしれない。もしくは変な奴らを一網打尽にしてしまうかもしれない。そんな不安が俺の中でどんどん膨らんでいく。
しかも一度思い込んだら他人の話を聞かずに暴走してしまうところがあるので、もしその力をやばい奴らに悪用されていたらと思うと背筋が冷たくなる。
「教えてくれてありがとう!」
「お、おお」
俺が礼を言うと少し気圧されたようだった。
俺は男が指さしていた町の郊外へ向かって走る。そこにはいくつかの廃屋が立ち並び、ところどころに生活に窮した者たちや明らかにカタギではなさそうな者たちがうろうろしているのが見える。明らかに治安が悪そうだ。こんなところに向かったのだとしたら明らかに良くないことに巻き込まれていると言っても過言ではないだろう。
俺はそこでも聞き込みを開始した。貧民たちは銅貨を渡すと次々と集まってきたので、まとめてシオンの目撃情報を尋ねる。
何人かの人に尋ねた末、一人の男が教えてくれた。
「ああ、朝方俺に小銭を恵んでくれたぜ。それでここは危ないから気を付けなって忠告したら大丈夫って言ってあっちの小屋に入っていったぜ」
「ありがとう」
俺は礼を言うと、そちらの小屋に向かっていく。見たところは他の廃屋と大して変わらない外見だったが、中に入っていくとほこりっぽい床の中に一か所だけほこりがあまりついていない箇所がある。迷わずそこを調べると、床板がめくれた。
下には一本のはしごが伸びており、地下に繋がっている。見た感じ地下は広そうだ。ここが“変な奴ら”の拠点なのかもしれない。こんな地下室まで作っているのだからそこそこの規模を持つ組織ではありそうである。
下に降りていくと壁に灯りがついており、地下なのにそこまで暗くない。
ひんやりした土壁の暗い通路が伸びており、通路沿いにいくつかの扉がある。その中でも特に大きい、突き当りの扉の奥から人の気配がした。
「シオン、いるか!?」
俺は叫びながら扉を開ける。
するとそこに広がっていたのは色んな意味で衝撃的な風景だった。