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出会いと追放(前)

 俺の名はオーレン。冒険者をしており、主に剣を振るって戦う前衛の戦士をしている。

 冒険者というのは魔物退治や商隊の護衛、危険な場所にある薬草の採取など危険が伴う任務を請け負う者たちの総称だ。基本的に数人単位でパーティーを組み、冒険者ギルドというところで依頼を受け、その依頼を達成して報酬をもらうことで生活している。


 俺が所属していたのは冒険者ギルドから“Sランク”という評価を受けている“金色の牙”というパーティーだ。


 リーダーである魔術師のゴードンはどれだけ大量の敵が出てきてもファイアーボール一発で殲滅するし、回復術師のエルダは瀕死の重傷を受けていても生きてさえいれば魔法一発で体力を全回復させてくれる。盗賊のジルクは戦闘力こそ劣るが、その危機感知能力には定評があり、これまで数々の罠や魔族の擬態を見破ってきた。そこに剣士の俺を加えた四人で”金色の牙”である。


 それだけ聞くと申し分のないパーティーである“金色の牙”だが、一つ大きな問題があった。

 俺以外三人の性格が著しく悪いのである。俺も別に聖人君子という訳ではないが、このパーティーに入ると唯一の良心であった。


 まずリーダーのゴードンは重度の銭ゲバで、どんな時でも報酬が一番高い依頼から受ける。また、稀少なものがある遺跡等に入ると金目の物を全て持ち帰ろうとするので俺はジルクとともにしばしば荷物持ちにされた。また、そのせいで余計な戦闘や魔物の襲撃、そして罠による被害を受けたことも一度や二度ではない。


 エルダは享楽主義者で面倒なことや深刻なことを嫌う。パーティーの雑用を彼女がしているのを見たことはなかった。


 ジルクは酒場での振る舞いで分かる通り浮薄な性格のゴードンの腰巾着で、たまに溜まったうっぷんを依頼人や敵相手に晴らしているクズである。

 とはいえ、俺たちは皆それぞれの得意分野において優れた能力を持っていたため、これまで大きな問題を起こすことなくやってきた。


 が、終わりの日は唐突にやってきた。そのメンバーで冒険していたある日のことである。

 俺たちはこの街の近くにある遺跡の奥深くまで潜っていた。そして魔物の宝物庫のような部屋に辿り着いた。先ほど部屋の番人をしていた牛頭の魔物ミノタウロスを倒したせいか、部屋は少しずつ崩壊しており、調査に残された時間は長くはなさそうであった。


 そこには魔族が集めたと思われる高く売れそうな宝物の数々が眠っており、ゴードンは血眼になって金目の物を集めて回っていた。エルダはエルダで、珍しい装飾品を探しては試着して手鏡で自分の姿を見てはうっとりしていた。二人とも部屋が崩れる前に出来るだけ多くの物を持ち帰ろうと必死であった。


 部屋には二つの扉があったので、必然的に俺とジルクが片方ずつ見張りをすることになる。ジルクは見張りをさぼって金目のものをちょろまかしているような気もするが、せめて俺だけはと敵が来ないかひたすら耳を澄ませていた。


 すると。


「きゃあああああああああああああああ!」


 突然、遠くから切り裂くような甲高い悲鳴が聞こえてきた。声は若い女のものだ。おそらく、同じ遺跡に潜っていた冒険者だろう。

 助けなければ、と俺は反射的に思う。


「俺が助けに行く!」


 そう叫んで声の方へ走り出そうとしたときだった。

 後ろからゴードンの声が返ってくる。


「おい待て、宝物庫の探索には時間制限があるんだぞ!」


 俺はゴードンの言葉に耳を疑った。探索と言えば聞こえはいいが、単なる宝物探しではないか。確かに早くしないと宝物庫は崩壊しそうだが、所詮は物。

 それよりは明らかに今危ない目に遭っている誰かを助けることを優先すべきではないか。


「嘘だろ!? 今死ぬかもしれない人がいるんだぞ!?」

「うるさい、俺の言うことが聞けないのか!」


 ゴードンは苛々したように怒鳴る。それを聞いた俺は愕然とした。

 前々からこいつらの倫理観は酷いと思っていたが、まさかこれほどとは。しかも、大声で言い合いをしているというのにエルダもジルクも全く口を挟まない。要するにゴードンの言うことに異論がないという訳だ。


 いくらリーダーとはいえこんな指示に従ってたまるか。そしてそれを黙認する他二人にもうんざりした。俺は他人を見殺しにするなどということは出来ない。さすがにこの時ばかりは我慢の限界だった。


「分かった、なら俺は勝手にする!」

「おい、待て! 見張りがいなくなったら探索出来ないだろうが!」


 後ろからゴードンの怒鳴り声が聞こえてくるが、もはや関係ない。

 俺はゴードンの声を無視して声のする方向に向かった。


 すると石壁に囲まれた広めの部屋のような空間で、ゆっくりと動いている二体のガーゴイルがおり、その前に銀髪の少女が倒れているのが見えた。


 彼女が後の“氷の聖女”シオンなのだが、そのときはぼろぼろの修道服をまとい、太もも辺りから血を流しながら倒れているただの冒険者だった。年齢は俺より少し幼い十代半ばぐらいで華奢な体格をしている。魔法を専門にしているため体は鍛えていないのだろう。まさに絶体絶命という状況だったが、俺は間に合ったことにほっとする。


 なぜこんなところに一人で倒れているのか状況は分からなかったが、二体のガーゴイルは全長三メートルほどもあり、大きな翼に鋭い牙を持ち、今にもシオンを殺そうとしている。全身が石で出来ていることから大昔にこのダンジョンを作った魔術師が守りの石像として配置したのが、シオンが近づいたせいで起動したのだろう。


 先ほどの宝物庫の中身から考えるに、かなりの力を持つ魔術師が作り上げたガーゴイルであると思われる。ランクで言えば、Aはあるかもしれない。石像なので痛覚などはなく、身体のどこかにあるコアを破壊するまで動き続けるという点も脅威である。満身創痍の少女が戦って勝てる相手ではない。


「俺がこいつらと戦う! だから安全なところに逃げろ!」

「あ、ありがとうございます」


 シオンはかすれ声で叫ぶとそのまま部屋の隅へとふらふらと歩いていく。

 代わりに俺がガーゴイルの目の前で剣を構えた。こいつらの石の体を傷つけるにはどの剣が最適か。


「レーヴァテイン」


 俺が唱えると剣に魔力が満ちていく。俺が習得した力〈概念憑依〉により異界の伝承にある魔剣の力を自分の剣に憑依させることが出来る。


 数々の魔剣の中でもレーヴァテインは「傷つける」という力に特化しており、それは相手が石で出来たガーゴイルにも通用するはずだ。


 こうして俺が持っていた何の変哲もない剣は一瞬にして伝説の魔剣に様変わりした。そこら辺の動物であれば触れるだけで体が真っ二つになるだろう。

 そこへ左のガーゴイルが無言で鉤爪を振り降ろしてくる。


「くらえ!」


 俺は無我夢中でガーゴイルの腕に対して魔剣を振るう。剣はガーゴイルの左腕にぶつかるとまるで木の枝でも折るかのように手首をぽきりと折った。手首から先がなくなったガーゴイルの攻撃はむなしく空を切る。


 もう一体のガーゴイルが右側からこちらに近づくので、俺はその隙に左のガーゴイルの懐に入る。ガーゴイルは大柄であるがゆえに懐に入ってしまえば体が邪魔でもう一体は攻撃しづらく、攻撃が止まる。


 一方、懐に入られたガーゴイルは腕で攻撃しづらくなったため、俺を押しつぶすようにその巨体でぶつかってくる。非力な人間など、石で出来た体で押しつぶそうと思ったのだろうか。


「馬鹿め!」


 が、レーヴァテインの前にその選択は愚かだったと言わざるを得ない。ガーゴイルに知能はないが。


 俺はレーヴァテインの力を宿した魔剣を一閃。ガーゴイルの胴体は真っ二つに両断され、上の半分は部屋の隅に飛んでいき、盛大な音を立てて遺跡の石壁にぶつかる。コアがあるのは上半身の方なのかなおもじたばたと動いていたが、脚がないせいかそれ以上動けないようだった。


 もう一方のガーゴイルはそれを見て接近戦は不利と判断したのか、突然大きく口を開ける。さてはブレスでも吐くのだろうか。知能はないはずだが、高性能なプログラムが組まれている。


 だが、遅い。


 それを見た俺はさっとガーゴイルに駆け寄るとレーヴァテインで突く。石で出来た上半身だったが、バターにフォークを刺すようにすんなりと剣が入っていく。

そしてレーヴァテインがガーゴイルの胸辺りにあるコアをえぐった。


 その瞬間、ガーゴイルは元の石像に戻ったかのようにぴたりと動きを止める。胸の辺りに穴が空いている以外はいたって普通の石像だった。


「ふう」


 俺は一息つくと胸から剣を抜き、〈概念憑依〉を解く。今回は短い時間で済んだが、なかなか消耗が激しい力だ。


「大丈夫か!?」


 部屋の中にもはや敵がいないことを確認すると、俺は部屋の隅でうずくまっているシオンの元へ歩いていく。

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