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ヤンデレとトロール討伐 Ⅱ

「しかしトロールを探すのは面倒だな。キングと呼ばれるほどのトロールならある程度大きな城を構えているとは思うが」


 このパーティーは攻撃力も回復力もあるので戦闘では負ける気はしないのだが、探索などしたことないオルレアと探索向きではない力しか持ってないシオン、経験はあるけど剣を振るうことしか出来ない俺というメンバーなので戦闘以外は不安要素が大きい。


「とりあえず砦付近の足跡を探すぞ」

「お、これではないか?」


 早速オルレアが砦付近の足跡を見つける。トロールは体が大きいので足跡は残りやすいし、判別しやすい。


「おお、でかした」


 が、足跡も歩いていくにつれだんだん見えなくなっていく。熟練の盗賊やレンジャーであればその先も辿ることは出来るのかもしれないが、俺では分からない。


「とりあえずこの先の方に歩いていくしかないだろうな」

「ふふ、私は足跡を見つけたぞ」


 オルレアに言われたシオンはぐぬぬ、と悔しそうな顔をする。二人の間に不穏な空気が流れて俺は早速胃が痛くなるが、何も気づかなかったことにする。


 こうして俺たちは荒れ地をトロールの城があると思われる方向へ向かって歩いていく。相変わらず周囲には荒れ地が広がっており、遠くにぽつぽつと下級魔族の集落が見える。


 対抗意識が芽生えたのか、時々シオンが足元に足跡を発見しては俺に報告する。天候や土壌の関係で足跡がぽつんと残っていることがあり、それを教えてくれると道が間違っていないことが分かるのでありがたい。


 そのたびに不穏な空気が流れなければもっといいのだが。




 その日の夕暮れごろ、ようやく遠くに山が見えてきた。そしてその山の一角に遠くからも一目で分かる巨大な城が見つかる。足元を確認すると急にトロールの足跡は増えているので、おそらくあれがトロールの城だろう。


「やっと見つかったか! 今すぐ殴り込みに行こう!」

「はい、皇女殿下にも私の力をもっと知っていただかなくては」


 この二人、性格は全然違うが好戦的なところと自分がこうと決めたら我が道を進むところだけはそっくりなんだよな。あと他人の話を聞かないところとか。


「まあ待て。今から突入すれば下手をすれば日が暮れてしまう。トロールは夜目が利く個体もいるから、ここは大事をとって一泊しよう」

「それはいいな。一度野営というものをしてみたかったのだ!」


 オルレアは無邪気に喜ぶ。確かに皇女としてまともな人生を送れば一生縁のないことだろうな。今後役に立つのかは不明だが、せっかくだから色々教えてやるか。

 ちなみにもはや皇女を野営させることについての是非はどうでも良かった。毒を喰らわば皿まで、という心境である。


「まず場所だがどこがいいと思う?」

「先ほど左手に小さい森があったしそちらがいいのではないか」

「いや、このパーティーだったら森は避けた方が無難だろうな。ここは荒野の真ん中が正解だ」

「だが、それでは魔族に見つかってしまうのではないか?」


「そうだ。だが逆にこちらからも敵が近づいてくるのが見える。俺たちは索敵能力は低いが戦闘力だけはあるからその方が逆に安全だ。だが森に泊まると魔物がこっそり近づいて来て襲われることがあるからな。とはいえさすがにあの城から見えているところはまずいから森の陰に隠れたところで……あと川が流れていると色々便利だな」


 植物に擬態した魔物や木々の間に隠れた魔物がいつ襲ってくるかは分からない。特にシオンやオルレアが見張りの時にそういった不意打ちを受けると危険だ。


 そんなことを話しながら歩いているうちに森から流れている小川を見つける。ちょうど森が陰になって城からも隠れているのでそこに決めた。


 それから俺はテントの張り方や火の焚き方などをオルレアに教えた。シオンは不満そうにしていたが、元々冒険者をしていたシオンは一通りのことは知っていたので仕方がない。 

  

 じゃじゃ馬な性格のオルレアだったが、アウトドアな作業は好きなのか、俺が教えることをちゃんと聞いてくれたし、飲み込みも速かった。学問を嫌っているとはいうものの、好きなことであればここまでの吸収力を見せるらしい。

 とりあえず俺のテントで張り方を教えると、次にオルレアのテントを指さす。


「よし、今度は最初から一人で張ってみてくれ」

「分かった、やってみよう」


 するとオルレアは初めてとは思えないてきぱきとした動作でテントを組み立てていく。そして瞬く間に自分のテントを組み立ててしまった。


「すごいな、初めてでこんなにすぐ理解出来る人は初めて見た」


 誰でも最初はもう少しもたつくものである。

 俺が素直に驚くとオルレアは胸を張った。


「それもこれも教え方が良かったからだな。皇城の者たちは学問をしろと言うばかりで全くこのようなことは教えてくれなかったのだ」


 ううむ、ここまでの理解力があるなら学問もやればある程度は出来ると思うんだがな。何とかしてやる気を起こさせれば、本人も周りもうまくいくのだろうが。


「とりあえずよくやったな」


 俺は無意識のうちにオルレアの頭に手を置きそうになり、そして慌てて引っ込める。


「悪かった、シオンの奴が何かすごいことをするたびに頭を撫でることを要求してくるから変な癖がついていた。申し訳ない」


 てっきり「子供扱いするな」と怒られるかと思ったが、予想に反してオルレアは不満そうな表情を見せた。


「べ、別にやめなくても良かったのだがな」

「だが、まるで子供扱いしてるみたいだし……」

「弟子の成長をねぎらうのも師匠の役目ではないのか?」


 そう言われてみればそんな気もする。皇女にこんな気安く触れてもいいものなのか、と俺は内心どきどきしながらオルレアの頭に再び手を置く。

 するとオルレアは満足そうに目を閉じた。俺はどうにでもなれ、とばかりに彼女の頭を撫でる。城に戻れば可愛がってくれる人はいくらでもいそうなのに俺ごときにこんなことされて嬉しいのだろうか。


「私一人で火を起こしたのですが」


 一分ほどして火をおこし終えたシオンがこちらへやってくる。お前は今まで何十回も火ぐらい起こしてきただろう。


 が、そんな俺の内心を敏感に感じ取ったのか、シオンは刺すような目でオルレアを睨みつける。


「頭を撫でるのがセーフなら頭を消し飛ばすのもセーフですよね?」

「やめろ消し飛ばすな」

「では」


 そう言ってシオンは頭を俺に向かって突き出してくる。


「全く、仕方ないな」


 俺はやむなくシオンの頭に手を置く。するとシオンの表情からすっと険しさが消えたので俺は安堵した。

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