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ヤンデレと皇女 Ⅱ

 こうして俺たちは成り行きで勝負をする羽目になってしまったのだが……


「頑張ってください、もし負けたら恋人になれ、というような無茶な要求を出されるかもしれません」

「いや、多分それで済む状況ではないと思うんだが。負けたらそのまま手打ちにされる可能性すらあるぞ。というかそもそも皇女殿下とは初対面なんだが」


 残念ながらシオンは斜め上の心配をしていた。

 最近はシオンとの関りが多くて感覚が鈍っているが、皇女は皇女で自分より強い者を求めるという訳の分からない理由で皇城を抜け出してきたらしい。要するに二人ともまともではない。

 この二人と会話していると唯一常識的な心配をしている自分が馬鹿らしく思えてくる。


「安心しろ、私は自分より弱い男には興味はない」

「それはそれで心配です! オーレンさんは世界で一番強いので」

「頼むからお前は俺の心配よりも先に自分の心配をしてくれ」

「そうか、世界で一番強いとは大きく出たのう」


 オルレアはそれを聞いて心なしか少し嬉しそうにする。


「いえ、シオンが勝手に言っているだけです」

「なるほど、真の強者は強さをひけらかさないという訳か。ますます楽しみだ」


 先ほどから思っていたが、皇女は皇女で他人の話を聞かないタイプらしかった。

 まあ、他人の話を聞くやつは城を飛び出してこんなところに身一つでやってくることはないだろう。


「しかし一体何があってこんなところへ? ただ強者を求めるだけならわざわざこんなところまでいらっしゃる必要はないのでは?」

「ふむ、なら理由を教えてやろう」


 そう言ってオルレアは傅役と喧嘩し、皇城の騎士を全員薙ぎ払い、ついでにゴードンを倒して城を抜け出した顛末を語った。


 それを聞かされて俺は唖然とする他ない。というかエルダのやつも余計なこと言いやがって……追放したくせに変なところで名前出すのはやめて欲しい。

 おかげで余計な心労がやってきた上に勝ったところで何の得もない勝負を強いられている。


「一国の皇女が修行中の武人のような振る舞いをなされるのはいかがかと思いますが」

「大丈夫だ、皇位は兄上が継ぐだろう」


 そういう問題ではないが、だんだんいちいち突っ込みを入れるのも疲れてきた。

 気が付くと、俺たちの周囲は野次馬の町人たちでいっぱいになっていた。狭い町なので何かあるとすぐに人が集まってくるのだ。中には「皇女殿下とオーレンさん、どっちに賭ける!?」などと言って賭けを募っている者までいる。人々も面白がって賭けていた。こっちの気苦労も知らずに野次馬というのは呑気なものである。


「という訳でそろそろ剣を抜くが良い」

「分かった」


 先ほどまでの話を聞く限り、この皇女殿下は自分より弱い相手の言葉を聞くつもりは全くないらしい。とりあえず勝負をしてからでないと話は始まらないようだ。勝ったら勝ったで面倒なことになりそうなのが嫌なところだが。


 そんな訳で俺はしぶしぶ剣を抜く。先ほどシオンの魔法を切り裂いていたところを見ると、下手に魔法を使うよりは純粋に剣技で勝負した方がいい気がする。いくら腕が立つとはいえ、オルレアは自分より強い相手と戦ったことがないと言っていた以上、実戦経験という点では俺が勝っているはずだ。


「〈概念憑依〉レーヴァテイン」


 少し考えた末、俺はレーヴァテインの力を剣に憑依させた。何者をも傷つけるレーヴァテインの力であれば多少の魔法障壁をも切り裂くことが出来る。俺は魔力はあまり持ってないので剣技での争いに持ち込みたかった。


「なるほど、それがおぬしの能力か……せいぜい楽しませてくれ。“魔斬波”」


 そう言ってオルレアは開戦の狼煙とばかりに技を使ってくる。オルレアの剣が振り降ろされると同時に魔法による衝撃がこちらに向かって飛んでくる。無造作に使った割にはすさまじい威力だ。


 俺はそれをレーヴァテインで斬り払う。幸い、俺の剣に当たった衝撃波は周辺に散っていったが、凄まじい衝撃で俺の腕が痺れそうになる。それまで呑気に眺めていた野次馬たちも慌てて距離をとった。


 そして次の瞬間にはオルレアは俺の方に向けて大きく跳躍し、距離を詰めていた。肉弾戦なら俺も望むところだ。


 俺はすかさずオルレアに向けて剣を突き出すが、オルレアはそれを鋭く払う。


 キン、という音と共に俺の剣は弾かれるが、俺はそこからすぐ二撃目を繰り出す。思いのほか俺の追撃の間隔が短かったからか、オルレアの表情が引き締まる。それでもオルレアはどうにか俺の剣を払いのけた。


 普通の相手であればレーヴァテインの力を憑依させたこの剣と打ち合うだけで相手の武器はぼろぼろになるのだが、そこはさすがに皇家の剣だ。


 俺は俺で久し振りの好敵手の出現に少し興奮していた。これまで戦ってきた相手はドラゴンのように攻撃力と防御力が高いとか、恐ろしい特殊能力を持っているとか、そういう魔物ばかりで純粋に剣技が並び立つ相手と戦うことはあまりなかった。


 そう思うとオルレアが対等に戦える相手がいなくて物足りないという気持ちも分からなくはない。そんな訳で俺は俺で興奮しながらオルレアとの打ち合いを繰り広げていた。


 互角の勝負、それも国で最強クラスの剣技のぶつかり合いに自然とギャラリーも固唾を飲み、あんなに賑やかだった野次馬たちもしんと静まっていく。


 一瞬、俺はこの打ち合いが永遠に続くのではないかと錯覚を覚えたほどだった。


 が、俺とオルレアの打ち合いが続くうちに、当初は余裕があったオルレアの表情に徐々に焦りが見えてきた。俺が攻勢に出ているというのもあるが、やはりここまで対等な打ち合いが続く相手と戦ったことがなかったのだろう。また、息遣いが荒くなり疲弊が見える。それを見て俺はこの戦いが終わってしまうことに一抹の寂しさを覚える。


「おぬし……やるではないか」

「俺もここまで打ち合いが続いた相手は初めてだ」


 先に痺れを切らしたのはやはりオルレアだった。このままでは勝てないとみて勝負に出たのだろう、


「せいっ」


 一声気合を入れるとこちらに向かって渾身の突きを入れてくる。確かにその突きは鋭かったが、突き出す前の気合の入れ方で見えている攻撃だった。俺は難なく身をかわすと、渾身の攻撃を外して体勢を崩した皇女に剣を突き付ける。


「勝負あったな」


 俺の言葉に、オルレアは悔しそうに両手を挙げた。


 こうして俺は彼女に何とか勝利することが出来たのである。

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