74GF
両親がいなかったとして、イヴの日常は変わらない。
早朝6時。すでに着替えを終えたイヴは部屋を一通り掃除すると、早朝のトレーニングに励んだ。
軽いストレッチをして、腕立て、腹筋、プランクetc etc
朝のトレーニングに汗を流し、いつものプロテインを飲む。
同時刻。
六道家の前には一人の紳士が姿を見せていた。
皺だらけの皮膚には黒いシミ。
髪一本すら生えない不毛の大地な頭が朝日に輝く。
曲がった腰、右手には年期の入った杖。
しかしながらその姿が紳士に見えるのはビシッと決まったスーツのせいだろう。
さらにはサングラスもかけているのも相まって、老人でありながら紳士感が溢れている。
老人紳士。
またの名を六道長右エ門。
またの名をイヴのじーちゃんである。
「ふっふっふ。こんな朝だというのに、イヴのやつ起きておるな。どれ……愛しのじーちゃんの声を聞かせてやろう」
背筋を伸ばして大きく息を吸い込む。
きっとじーちゃんの声を聞けば孫であるイヴは喜びのあまり盛大なる笑顔で抱き着いてくることだろう。
脳内に浮かぶ孫とのじゃれあいに、じーちゃんは期待が膨らむ。
(我が孫よ!!! じーちゃんの声をとくと聴けぇ!!!!!)
スゥ――……
空気が総入れ歯を通りこして肺に流れていく。
「EVEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!!!!」
肺に貯められた空気が叫びと共に吹き飛んでいく。
そのあまりの勢いに上下の入れ歯すら吹き飛ぶ勢いである。
街中に響くような声。
声に反応したように六道家の中からはドダダダダダと階段を駆け下りるような音が聞こえてくる。
(さぁ、我が孫よ! じーちゃんを抱きしめておくれ!!!!)
両手を広げて玄関から現れてくるであろう孫を待つ。
バァン!!!
「うるせぇんだよジジイ!!!!!!1」
夢かなわず。
盛大に扉を開けて現れたイヴはパンツにキャミソール姿で怒鳴り声をあげた。
「テメェ今何時か分かってんのか!!! ご近所様に迷惑だろうが!!!!」
とご近所に迷惑がかかる声量で叫ぶ。
「イヴ!!! おめぇさでがくなっだな!!!」
「なってねーよ! 中3から変わんねーわ!」
「背でなくてボインよ! あ゛らーおめさすっかりボインちゃんになってまぁ!!!」
「孫にセクハラしてんじゃねーぞジジイ!!!」
「ジジイでなぐで、じーちゃんだろうが!!! おめば、女の子っぽぐなっだのぬ、男みでーなことさ言うでねぇよ!」
「ったくよぉ。来るなら連絡しろってんだよ」
「まぁまぁ、いいでねぇが。おなごさ“さぷらいず”好きだんろ?」
「これはサプライズじゃねーよ。迷惑ってんだよ」
「いいがらいいがらさ。邪魔さするぞ」
曲がった腰が家の中へと消えていく。
制服に着替えるつもりであったが、ジジイ一匹室内に放置するわけにもいかず、イヴは朝から学校へと電話をかけた。
担任はまだ出勤していなかったため、他の先生に休む旨を伝えるとイヴは私服へと着替えた。
電話をしている間に祖父はスーツのネクタイをゆるめるとコンビニで買ったらしき酒をいきなり煽っている。
「朝っぱらから飲んでんのかよ」
「いつもはばさまが五月蠅ぐで酒できねーからよ。今日は特別だ! 孫の顔も久々見れたしな! 孫の顔さ乾杯だ!」
「俺にはなんか持ってきてねーの」
「あるぞあるぞ。ほれ、萩の月にばさまが作ったずんだに青森の親戚からリンゴジュースさもらったからもっできたぞ!!!」
テーブルの上に広げられる品の数々。
青森名物のリンゴジュースに手を伸ばすと、一応祖父と乾杯する。
「じーちゃん独りで来たんだ。お袋元気?」
「そんだそんだ。夜行バスで東京まできてそっからタクシーさひろっでよ」
「え、東京からタクシー? めっさ金かかるじゃん」
東京駅からここまではかなりの距離がある。
というのもイヴが住むのは東京都はいえ、ほぼ神奈川に値する場所である。
ゆえに東京駅から来たならば諭吉一枚では済まないだろう。
「この前山と畑うっだからよ! その金あっからだいじょぶだ!」
「マジか。でもちゃんと取っとけよ。すぐ葬式代にかわるだろうから」
「なーに、まだ10年でも20年でもいぎるわ!!!」
六道長右エ門、現在88歳。
ふざけていったイヴではあったが、確かにすぐには死ななそうに見えるジジイである。
「んでな、千佳は元気にしてっがら! ばさまが世話さしてるし心配ねっぺ!」
千佳とはイヴの母、六道千佳のことである。
「まーそこまで心配もしてないけど、一応さ」
「おめさ、今日学校さ休んだんだべ? なら今日はじーちゃんと外でんべ! な!」
「おーいこういこう。せっかくだしな。じーちゃんせっかく来たんだから孫に色々買ってくれよ」
「あーいいどいいど!!! なんでもかってやる!!!」
酔ってきた勢いもあってが、今の祖父は上機嫌である。
普段祖母に規制されてる酒が飲める。ましてや久々の孫の顔を見ながらとなれば格別である。
ほのかに赤くなっている顔は皺だらけだが、皺の分だけ幸せそうにも見える。
◇ ◇ ◇
呼び寄せたタクシーに乗ってふらふらり。
スーツ姿のジジイと金髪の美少女。二人並んで歩く姿はキャバクラの同伴のようにも思えるが、その口ぶりは客と嬢のものではない。
「かっー! 都会はごっちゃごっちゃすてんなぁ!」
「じーちゃんいちいち声でけーんだよ!」
「あぁー!? あんだってー!?」
わざとらしく聞こえないフリをする祖父。
若干の苛つきを覚えるイヴであったが、そこはこれから色々と買ってもらう手前ぐっと堪える。
「じーちゃん声がでかいから、もう少し静かにしような。田舎と違って人多いんだからさ」
「わぁってる! んだら、何から買ってほしいんじゃ!」
「そーさなぁ」
とりあえずということで、イヴはデパート向かって歩き出す。
こういうときでなければ買えなそうなもの。ピンと着たのはお財布である。
現在も一応なブランドものは使っているが、そろそろぼろになってきたし、買い替えるには最高のタイミングである。
ブランドショップへと足を運ぶと、ガラスケースに並ぶ財布たちを見る。
どれもこれも小遣いを少し貯めたくらいでは買えないものたちばかり。
「じーちゃん財布買ってくれや」
「おう、いいど。どれがいーんじゃい」
サングラス姿が一緒にガラスケースを覗き込む。
「んー、これもいいし、これもいいなぁ」
「あーん、0がいち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ……」
0が5つに、先頭には2の文字。
サングラスを取り外して目をこする。
もう一度確認してみるが、0の数は減りもしないし増えてもいない。
「ち、ちょっと、高いんでねーかな……」
ぎゅ。
祖父の腕を掴むと猫撫で声で甘える。
「大好きなじーちゃん♡ たまにしか甘えられないんだからぁ♡ 次はいつ会えるか分からないんだよ??」
「んん……だどもよぉ……」
しかし、これはイヴの策略でもあった。
最初に、狙っているものよりも高いものを見せつけ、感覚を麻痺させる。
次にそれよりも値の落ちる本命のものをチョイスすることで、『さっきのよりは安いしいいか』と思わせる作戦だ。
「じゃぁ、こっちのは? イヴこっちのも気になるの♡」
そういって顔をグイと横に向けさせる。
そちらにあるほうは今みたものよりかはかなり値が下がるものではある。
といっても消費する諭吉は――ほぼ10人になってしまう。
「かぁー。おめさまだ学生だろ。こいつは……」
必殺上目遣い甘えん坊さんッッ!!!
イヴのその潤んだ瞳が祖父を見る。
人差し指を咥えたその愛くるしい表情が祖父に炸裂する。
「イヴ、これが欲しいなぁ……じーちゃぁん」
その威力はいとも簡単に祖父の心臓を砕く。
まるで心臓を矢が貫いたかの衝撃に思わず昇天しそうになるが、祖父はなんとかまだ浮世に残らねばとふんばる。
「す、すかたねぇ……これ買ってやっが!」
「やった! じーちゃん大好き!!!」
なんていって抱き着く。
その顔は乙女でも喜ぶ孫のものでもない、なんとも悪い顔をしている。
お会計。
諭吉10人を生贄に捧げ!
高級ブランド財布を召喚!!!
イヴは高級ブランド財布を手に入れた!!!
「やったぜ。じーちゃんありがと」
「うぅ……孫のためさだがらな、しゃーねぇ」
ブランド名の記されたショッパーを手にするイヴはもう最高にご機嫌である。
祖父といえば厚みのあった財布がすっかり薄くなって意気消沈である。
「まじで嬉しいぜ、じーちゃん。あんがとな!」
なんて振り返って笑う。
「まぁ、孫の笑い顔みれたからいーでな」
しかし、そこでイヴのおねだりが終わるはずもなく。
化粧品、トレーニング用品、はてはア〇ゾンギフト券など大いに祖父に散在の限りを尽くさせた。
◇ ◇ ◇
ジュゥと肉の焼ける音とジューシーな匂いがしていた。
昼に訪れたのは焼き肉店である。
「カー、孫はすっかりばさまと千佳の血さ引いてんな!」
焼けた肉を口にすると、ビールで一気に流し込む祖父。
「なんで?」
「甘えてぐんのも、そうやって女っぽいのがすんごぐにでっがらよ」
「そっかー。でも、イヴ嬉しかったよ♪ ありがと、じーちゃん♪」
「まぁまぁいいべさ」
「じーちゃん山と畑売ったつったけど、そんなになったの?」
焼けた肉をイヴもつつく。
「貯金さみたらおめ、腰ぬかすど」
「へー。すげーな、田舎の土地も価値あんだな」
「開発すっからって値あがっでよ。てか、おめ学生なのに、そんなこともわがんのが」
「んー、まぁ」
前世の記憶があるから、ましてやヤのつく自由業だったがゆえにそういったことには敏感であった。
焼肉を食しながら、ふと傍らに置いてあるスマホを見ればラインの通知が入っている。
個人宛ではなく、グルチャ宛てに送信されたものだ。
開いてみれば綾香から送られた文章と写真だ。
しかし、そこに映っているのは綾香ではなく、恥ずかしそうに箸を咥える美里の姿だ。
『美里さんと寿司(魚の絵文字)』
「へー、珍し」
「なんじゃ、なにさみでっど?」
「友達が寿司くってるんだって。ほら」
スマホの画像を見せる。
「はー、イヴのともだつか! めんこい顔ばしてんな!」
「俺も送ろ。じーちゃんポーズとって」
「おう、まがせろ! かっごよく撮れな!」
パシャリ。
肉をつつきながらガッツポーズをするサングラスジジイ。
撮れた写真を文章と共にグルチャへと投下する。
「イヴ、学校はどうだ? たのすいが?」
「楽しいよー。超楽しい」
「んだら、よがったな!」
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