73にゃんにゃんパラダイス
イヴがいないという事実に、凛が気付かぬわけもなかった。
それはグルチャのやりとりから見ても確実である。もはや本人に聞くまでもない。
(なんだよー今日イーちゃんいねーのかよ)
グルチャを見ながら昼飯の弁当をつつく。
昼休みは他の友達と取っていたが、グルチャのやりとりをキッカケに凛はなんだかやる気が抜けてしまう。
(おかっぱは別にいなくてもいいけど……みーちゃんとおかっぱとか不思議な組み合わせだな)
送られてきた写真。
恥ずかしそうに箸を咥えている美里は、なんだか小動物のようで可愛らしい。
一緒に移っている不純物の顔はなるべく見ないように目を細めた。
クラスメイトと話しつつ、今日はどうしようか考える。
クラスメイトたちと過ごすのもいいが……。
もしくはそのまま帰ってもいいが……。
イヴはお出かけ中。
綾香と美里は一緒にごはん中。
(ちーちゃんに声かけてみるか♡)
さっそく千鶴へとラインを投げてみる。
『放課後一緒にどっかいこ♡♡♡』
『いいよ。どこに行く?』
『んー、放課後まで考えとこ♡ ちーちゃんも行きたい場所あったら言ってね♡』
『はーい(女の子の絵文字)』
◇ ◇ ◇
何をしようか考えていた凛だが、どうせなら綾香に負けぬことをしたい。
あろうことか綾香は女子高生という身分でありながら、昼間から寿司をつついていた。
まぁ、現代の高校生ならば考えられなくもないことではあるが――このままではなんだか負けた気がして悔しい。
どうせなら楽しく。どうせなら非日常を。
そういえば駅の近くに何年か前に猫カフェが出来たことを思い出す。
確か店員さんも猫耳をつけて可愛らしい雰囲気のお店だった気がする。
放課後、校門で二人は待ち合わせた。
「凛さん、遅れてごめんね」
「うぅん♡ いーのいーの♡」
「じゃぁ、どこに行く?」
「あのね♡ 駅の反対側に猫カフェあるの知ってる? 凛そこ行きたいの♡」
「そういえば、あった気がする。いいよ」
「じゃぁ出発♡」
「凛さんと二人きりなんて初めてだね」
バスに揺られ数十分。
いつもとは反対の駅へと歩くと、目的の猫カフェへと移動した。
雑居ビルの二階に設けられた空間はにゃんこに溢れている。
入口のドアには大量の写真が貼られ、店内にお邪魔すれば椅子もテーブルもなにもかもが猫に関連したもので出来ている。
「いらっしゃいませー。にゃんめい様ですか?」
猫耳をつけた若い女性店員が顔を出す。
「二人です♡」
「当店のシステムはご存じですかにゃ?」
「ご存じねーです♡」
空いている席に腰を掛けると、店員からメニューを渡される。
席はとくに決まっている場所がなく、自由に移動が出来るらしい。
そして自分たちが飲食する以外にも、猫用のおやつも購入することが出来、猫とのふれあいに使用することが可能だ。
一通りの説明を受けると、二人は揃って『ネコラテ』なるものを頼んだ。
「わー♡ 可愛い♡」
「これ凄い可愛いね! やーん♡」
思わず千鶴も語尾に♡がついてしまう。
届けられたラテはこんもりと盛り上がった泡が猫の形になっている。
この写真を撮らずして、いつ写真を撮るのだと言わんばかりに二人して写真撮影会が始まる。
ネコラテの写真、そしてラテと凛、ラテと千鶴の写真。そして最後に二人が入った写真。
そんなやりとりをしていると一匹のキジトラにゃんこが足元にすりよってくる。
人慣れしているために二人の足に頭をすりすり。
凛が頭を、千鶴が背を撫でるとにゃんこは気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。
「にゃーん♡ あなた美人さんねぇ♡」
「綺麗な艶してるねー。もっふもふ♡」
二人の顔が蕩ける。
撫でれば撫でるほど、にゃんこも甘えてくる。
そのやりとりに、他の猫も集まってくる。今度やってきたのは真っ黒なにゃんこだ。
「この猫さん凛さんに似てるね」
「そう?」
「ほら、凛さんも黒い猫のパーカー着てるじゃない? この子とツーショット撮ったら絶対絵になるよ」
「ほんとー♡ 撮って撮って♡」
にゃんこのために床は全面がマットになっている。
凛はマットの上に女の子座りすると、膝の上に黒いにゃんこが乗っかってくる。
フードを被れば、凛もまるで黒いにゃんこが擬人化したような見た目だ。
「はーい、撮るよー」
「にゃー♡」
「ンマーォ」
まるで猫も返事をしているようだ。
数枚の写真が撮られると、猫は出番を終えたように去っていく。
「撮れた?♡」
「うん、ほら、凛さんも猫さんも可愛いー♡」
「やーん♡ 送って送って♡」
撮られた写真全てを凛に送信する。
「次は私が撮ったげるよ♡」
「本当? あ、そうだ、どうせならおやつ買ってたくさんの猫さんと撮りたいなぁ♡」
店員を呼ぶと猫用のおやつを購入する。
すると猫たちはそれがおやつだと分かっているのか、一斉に店員の元へと全員集合する。
『ンマーォ』だとか『ニャオォーン』だとか猫たちはおやつをよこせと叫び声をあげる。
店員からおやつを受け取ると千鶴の元に猫たちが集まる。
「あ、そうだ♡ ちーちゃん横になってみて♡」
「え、こ、こう?」
千鶴がマットの上に横たわると猫たちが千鶴の身体に乗っかりだす。
大漁の猫たちに囲まれた千鶴はあっという間に姿が見えなくなってしまった。
「あはははは!!! ちょ、今あげるから!!! まってまって!!」
待ちきれないにゃんこが甘噛みしたり、ザラザラの舌で肌を舐めだす。
たまらなくなった千鶴は餌をあげるとあっという間に手のひらからおやつが消える。
おやつが消えると、そこには満足そうに果てた千鶴の姿。
「と、撮れた……?」
「これやばいよ♡♡♡ ちょっと見て、マジやばい♡♡♡」
撮った写真を見れば千鶴の身体がほぼほぼにゃんこによって支配された写真が写されている。
顔と足先だけが見えているが、他はすべてにゃんこによって埋め尽くされている。
「こうやってみると凄いね!」
「でしょでしょ♡ これグルチャにも張っていい?」
「もちろん!」
グルチャにさっそく張り付ける。
『ちーちゃん、猫に埋まる♡♡♡』
『すげぇ』
とイヴ。
『千鶴さんやべぇwwww』
と綾香。
『可愛いー(にゃんこの絵文字x2)』
と美里。
グルチャだけでなく、撮られた写真はしっかりと千鶴に全て送り付ける。
「思いがけず猫カフェ来たけど、大当たりだったね♡」
「本当! あーもう凄い癒される♡」
「最近はイーちゃんとかおかっぱとばかりだったけど、ちーちゃんとも仲良くなれて凛うれちぃ♡」
「ねー。こうやって二人きりで話すことってないもんね! 誘ってくれて嬉しいよ。今度は私が場所見つけておくね!」
「うん♡ また一緒にあそぼ♡」
猫カフェが終わっても、すぐに帰ることはなかった。
二人して少しお買い物して、凛が本屋に行きたいというので千鶴もそれに付き合った。
「凛さんは結構本読むんだね」
「うん♡ 凛ね、作家目指してるの♡」
「作家さん? 凄いね! 今のうちにサインもらっちゃおうかな♪」
「まだ一次落ちばっかりだけどね♡ あ、これイーちゃんくらいにしか言ってないから内緒ね♡」
「うん、もちろん♪」
数冊のライトノベルを手に取った後に、凛が立ち寄ったのはSFのコーナーである。
特に宇宙関連のものを目にすると、凛はあれでもないこれでもないと本を物色する。
「SFとかも読むんだ?」
「うん、読むよ♡ バイト先の相方さんがね、参考になるから読めっていってたタイトルがあったの♡」
「凛さんはどんなアルバイトしてるの?」
「ないしょ♡」
内緒と言われると知りたくなるのが人の性というものだ。
「えー、凛さんが何してるか凄い興味ある。でも、凛さん可愛いし……メイド喫茶とか?」
「まさかぁ♡ んー、もうちょっと過激かも♡」
え、この子何をしてる子なの。
なんて考えがよぎる。メイド喫茶よりも過激――ということは夜の仕事でもしているのだろうか。
なんなら夜の蝶のような仕事でもしているのだろうか。
瞬時に凛のドレス姿が想像されるが、似合わないことはない。
もしかしたら――……なんて考えていると、凛は笑って口を開く。
「あーちーちゃん変な想像してるでしょ♡ 大丈夫、キャバとか夜の仕事じゃないから♡」
「よ、よかったー。凛さんがもしそんな仕事してたら私心配しちゃうよ」
「大丈夫大丈夫♡」
「でも、それより過激っていうとどんな?」
「そうだなぁ……♡ 多分口で言ってもわからないと思うから、今度連れていってあげるよ♡」
具体的なことをいつまでも言わない凛に、千鶴は余計に興味がそそられてしまう。
そんな千鶴をよそに、凛は目的の本を見つけるとさっさとレジへと向かう。
気になって仕方がない千鶴はどんなタイトルの本なのだろうかと横目に見てしまう。
そのタイトルは。
『もしも火星人に攫われたら』
(……?)
さらに帯へと目をやれば。
『火星人に攫われた著者が語る宇宙の真実!』
(……凛さんのアルバイトって……)
「じゃ、行こうちーちゃん♡」
「う、うん」
支払いを終えた凛が笑顔で歩き出す。
(NASAとかそういう系なのかな……)
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