69カラオケしたくね?
「イ゛ヤ゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアゥオ゛オ!!!!」
まるで女子高生が出しているとは思えないデスヴォイス。
「ヴォオオおオオオおオオオおオオオおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
黒のにゃんこパーカーの少女。
今いる中で一番背が低く、ある意味最も可愛らしい少女が、最も似つかない声をあげていた。
「ヒーウィーゴ―アゲ――マザーファッ〇アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
「凛えぐい声でんな……」
以前イヴと凛、綾香はカラオケに来たことがあったが、ここまでの重低音なデスボイスは耳にしていなかった。
少女とは思えぬ低すぎる声。隣の部屋どころかフロア全体に響いてるのではないかと思える声。
ただぽかんとして見つめる千鶴、構わずリモコンを操作する綾香。
そしてちょっと乗ってるイヴと――こんな大人数でカラオケなど初めての美里。
(カ、カラオケなんて来るんじゃなかった……)
すみっこで小さくなってしまう美里。
凛はその長い黒髪をバッサバッサとヘドバンさせながら絶叫している。
「美里さんはどんなの歌うの?」
隣にいた千鶴が声をかける。かけられた美里はきょどりながら声を出そうとするが、のどに詰まって中々出てこない。
「ぇ、ぇと……ぇっと……」
人差し指と人差し指でもじもじしながらチラチラと千鶴を見る。
長いピンクの髪をポニーテールにした千鶴は微笑みかけるが、人見知りマックスな美里はもうそれどこではない。
(カラオケ行こうって言うから来てみたら……なんだよこのリア充の空間は!!! 馴染めるわけねぇだろ!!!!)
「あー久々にデスヴォだすとストレス発散できるー♡♡ はい、次はだぁれ?♡」
「あ、私」
「はい、ちーちゃん♡」
凛から千鶴へとマイクのバトンタッチ。
これでやっと美里は会話という鎖から逃げられたと思ったが、今度は歌い終わった凛が隣へと腰掛ける。
「みーちゃんだったよね♡」
「ぁ、ぇ、ぇぇ、ふぁい……」
顔を近づけてくると、ふわりと甘い香りが漂う。
(こ、香水か……いい匂いしゅる……ちょっとぷにぷにしてっけど、可愛い子だな……)
ジト目がちに凛を見る。
先ほどまでエグイほどのデスヴォイスを出していたとはとても思えない少女だ。
「みーちゃんはいつからイーちゃんと仲いいの?♡」
「ぇ、ぃ、ぃゃ……な仲よくは……り、六道しゃんが……たまたま……へへ……」
「そうなんだ♡ イーちゃん優しいもんね♡」
「ぇ、ぇっと、り、凛しゃん……だっけ? は、ま、前から仲……ぃぃんだ?」
「そんな昔からってわけじゃないよ♡ イーちゃんの見た目変わってからかな♡ 仲良しになったのは♡♡♡」
「へ、へぇ……」
「一番前から仲良かったのは私だからね」
会話に綾香がずいと入ってくる。マウントを取るようなものいいの綾香は、あからさまな敵意ある視線を凛に向けている。
その視線に凛も笑顔であるが、鋭さを持って返す。
(な、なんだよこいつら……私を挟んで喧嘩すんなよ……)
まじりあった視線が美里の前で火花を散らしている気がする。
「ぁ、ぁやか……しゃんは、ぃぃつから、仲……」
「ずっと仲いいよ。そりゃもう仲いいですとも。イヴが私をお姫様抱っこしてくれたときから……」
美しき過去を思い出す瞳は乙女チックだ。
しかし、綾香のぐいぐいくる性格は――美里にはちょっと理解しがたいし、親密にはなれそうにないと思える。
「お姫様抱っこくらいでマウント取るなよ♡♡」
「フン!!!!! デスヴォビッチは黙って」
「やーん♡ ちゃんとデスヴォに聞こえてた?♡ 凛うれちぃ♡ ありがと♡」
あざとすぎる顔で笑う凛。
綾香はそんな凛に青筋を立てると、目元をぴくぴくさせている。
(なんなんだよこいつら……外でやれよ……)
美里にとってはリア充の集まり――と思っていたが、なんとなくちょっと違う気がする。
これは『ウェーイ』で『ズッ友』な繋がりというよりは――恋敵のような関係性に見える。
千鶴の歌がいつの間にか終わっている。
次にマイクを渡されたのはイヴである。
何を歌うのだろうかと思ってモニターを見てみれば、洋楽のラップを歌い始めている。
「美里さんもう入れた?」
リモコンを手渡しながら千鶴が言う。
「ぁ、ぁの……ま、まじゃ……れす……」
「じゃぁ、予約どうぞ」
「ぁ、ぁい……」
ちょっぴり震える手でリモコンを操作する。
隣にいた凛が画面を覗き込むと、どんな歌を選曲するのだろうと監視するかのように見つめている。
(え、選びづれーなロリっこ……そんなに陰キャの歌が気になるのかよ……)
「あ♡ そうだ、ちょっと一瞬借りていい?♡」
「え、ど、どうぞ……」
凛はリモコンを操作すると、綾香の曲に合わせて採点機能を追加している。
操作を終えると、なにかたくらんだようにまた美里へと手渡す。
「はい、どうぞ♡」
「ぁ、ぁぃ……」
「次綾香だっけ?」
歌い終わったイヴが声をかける。
マイクを手にすると綾香が立ち上がる。選曲は今流行りの恋愛をテーマにした曲である。
「あれ? あたし採点いれてないぞ?」
画面の端には採点モードと記載されている。
「いいじゃんいいじゃん。ほら、もう始まるぞ」
イヴに言われて仕方なく歌い始める綾香。
綾香がチラリリモコンを方を見れば、ニコニコしている凛とたじたじしている美里。
「あ、凛この曲しってる♡」
選んでいたのは最近流行りのゲームの主題歌である。
美里としては無難な曲でも歌おうかと思ったが――そもそも無難に歌える歌を知らなかった。
故に選択肢はなかった。
しかし、そんな選曲に凛は反応を示している。
「し、しってるの……?」
「うん♡ たまに凛も聴くよ♡」
「へ、へぇ! そ、そうなんだ! ぃ、ぃぃよね……へへ」
ちょっとだけ、美里の顔がほころぶ。
意外な共通点に少しだけ嬉しくな気持ちが沸くと、そんな気持ちが顔に出てしまう。
「みーちゃんは誰推しなの?♡ 凛はしゅがはとかパッション好き♡」
「ぇ、そ、そうなんだ……ゎ、ゎたしは……み、みりあちゃんとか……」
「同じパッションじゃん♡ やーん♡ 同じパッションPうれちぃ♡」
(こ、こいつ……デスヴォのくせに話通じるな……)
「な、なんかさ……ぱ、ぱっそ……パッションの子たち見てると……げ、元気でるっていうか……はは」
「分かる♡ 元気もらえるよね♡」
「ぇ、ぇへへ……」
綾香の歌が終わる……採点は83点と表示されている。
あまりいいとは言えない数字に、綾香は少しだけ表情が曇る。
そして、凛はここぞとばかりにやじを飛ばす。
「綾香ちゃん大したことねーな♡」
「き、今日は本調子じゃないだけだから!!!」
「そうだ♡ 一番点数低かった人罰ゲームしない?♡」
凛の提案に一同は一瞬静まりかえる。
(ロリビッチてめぇ……また何か企んでやがるな……)
(フフフ……綾香ちゃん、あなたの採点は通常モード。そしてさっきもう密かに採点を接待モードに変えたのよ!)
疑う綾香の瞳、企む凛の瞳。
「おー、いいじゃん。罰ゲーム。なにする?」
「イヴが言うなら、私もいいよ。楽しそうだし」
イヴは当然のように提案に乗るし、千鶴もちょっと乗り気な様子である。
そして一人――絶望した表情の美里。
(まてまてまてまてまて!!!! ただでさえ声が出てねー私だぞ!!!! そんなん罰ゲーム確定じゃねーか!!!!)
しかし、この空気の中、一人だけ拒否の意見など述べられるわけもなく。
美里はただ沈黙を守って空気に流されるしかない。
余計なことをしてくれたと凛を見るが、凛は美里向かって何故かウィンクする。
(何ウィンクなんかしてんだ!!!! あー、もうだめだ終わった。カラオケなんか来なきゃ良かった。帰りたい……)
いつもの逃げ腰が発動する。
もう帰りたい。帰ってゲームをしていたらこんな思いなどしなくて良かったのと。
「じゃぁ、最下位の人はんー、そうだなぁ♡」
(ああああああ……もうマジで勘弁してくれ……)
凛は綾香を見るとねちっこい憎悪のオーラが沸き上がっている。
「そうだねぇ……最下位の人は……」
ゴゴゴゴゴゴゴ――……
「カラオケ終わったら……ノーブラで過ごしてもらおうか♡」
あまりに突拍子もない凛の発言に、衝撃が走る。
(お、おわった……)
顔を赤くする一同の中で一人、美里だけが一人真っ白に燃え尽きている。
勝負をする前に負けたと思い込む美里。
すでにカラオケボックスの中にはイントロが流れ始めていた。
感想が!!!!!!!!!!!!!!!
ほちいです!!!!!!!!!!
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