52サブだから。
凛は焦っていた。
今日は凛がお泊まりの日である。
この日のために綿密に計画を立てた。
イヴのことを第一に考え、どうしたら千鶴を出し抜けるのか。
あまり考えたくなりことではあるが、千鶴はいわばメインヒロイン。
自己評価をしたとき、自分はメインヒロインにある立場ではないと凛は重々承知していた。
いうならば、メインではない。サブ。
その甘えん坊で猫のようなキャラクター性、ちょっとえっちな絡みのあるヒロイン。
負けたくない。
ただその想いで、凛はネットの海をさまようと情報収集をしていた。
実際にあった体験談の投稿、今若者たちが憧れる恋愛話。
こうしたらキュンとする。こうしたら女子力があがる。こうした評価があがる。
調べすぎた凛は寝不足。
授業中も船を漕いでいるし、休み時間にもスマホを使いすぎたせいで充電はかなり減っている。
(畜生……夜中に根詰めすぎた……だめだだめだ、今日はせっかくのイーちゃんとのサシのお泊まり!!!)
ぐへへへへ、と涎が出る。
脳内はピンク色の妄想――だけではない。
千鶴を見習い清純さアピールもするつもりでいた。
イヴはどんな反応をするだろう、きっと今までにない凛を見て評価をガラリと変えてくれることだろう。
キーンコーンカーンコーン――……
やっとの思いで授業が終わる。
半分寝ていた脳を呼び起こすと、凛は急いでバッグを担ぐ。
今日のため、凛はスイーツの予約をしてある。
一度家に帰り準備しているものをピックアップ、すぐさまに出て予約していたケーキを取りに行く。
そうして手土産を持ちイヴの家に向かう。
「前園さん、何処へ行くの?」
教室を出ようとして担任に声をかけられる。
担任はとんがった眼鏡をキラリ光らせると、まるで帰るつもりか? と訴えているようだ。
「何って帰ります」
「あなた今日委員会があるって言ったでしょ。ちゃんと手伝ってくださる?」
(!? そ、そんな……)
そういえば、そんなことを言われていた気がする。
放送委員である凛。放送室の機材を入れ替えるから、委員は手伝うようにとか言っていたような。
「ち、ちょっと今日は用事が……」
「あなたねぇ! 前もそういって委員に参加しなかったじゃない! 良い事?
そんなに何回もはいそうですか、と帰すわけにはいきませんよ」
(ぐぬぬぬぬ……!!!! こんな日に限ってクソ眼鏡ェ……)
しかし、こう言われて食い下がれば後の学校内での評価にも関わってくるかもしれない。
少しでも時間を短縮したい状況ではあるが、さすがに従わざるを得ない。
ダッシュで放送室に向かい、機材搬入の手伝いをする。
ロスした時間はおよそ40分。
(なんでこうなるんだよ、クソがあああああああああああああああああああああああああ!!!!)
やっとの思いで搬入を終えると、凛はダッシュで駅へと向かう。
下校のピーク時間にしては駅のホームはやけに込み合っている。
すぐに察しがついた。
(もしかして……遅延している!?)
予想は当たってしまう。
ホーム内には体調不良の客が出た都合で現在遅延していると放送が流れる。
(何で急いでいるときに限ってこうなるかなああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!)
ホームの時計で時刻を確かめる。
もうすでに予想していた時刻より大幅に遅れている。
ここから帰宅してケーキを取りにいくのも考えれば、さらに時間はロスしてしまうだろう。
やっと来た電車に乗り込む。
(そうだ……! イーちゃんに連絡しないと!!!)
遅れる旨を伝えようとスマホを取り出す。
(あれ?)
電源ボタンを押しても反応がない。
何度か電源ボタンを長押ししてみるが、反応はなし。
(ででで電池切れ????? なんで、どうして??????)
しかし、ここで慌てる凛ではない。
予備電源ならば用意している。こういったこともあろうかと、凛は常に保険をバッグに忍ばせているのだ。
(フフフフ!!! こんなことで負ける凛ちゃんではないわ!!!!!!)
バッグを漁る。
しかし、無い。
(え、え、え、え? なんで? どうして? WHY????)
そして思い出す。
そういった“万が一”のためにお泊り用のキャリーケースに予備電源を入れてしまったことを。
(あああああああああああああああああああ、あの時いいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!)
項垂れる。
これではイヴに連絡はおろか、充電も出来ない。
10分ほど電車に揺られる。
長い長い10分間を揺られると、凛はダッシュでホームを抜けていく。
(くそくそくそくそくそくそくそくそ!!!!!11)
運動神経が皆無な凛はすぐに息が切れてしまう。
脇腹が痛くなっても、呼吸が苦しくなっても、凛は走るのをやめなかった。
全てはイヴのため。
帰宅し、即荷物を持つとまた家を出る。
再び駅に戻り、ケーキを受け取る。
電車に乗り込み、駅についたらバスに乗る。
もう時刻はだいぶロスしてしまっている。
バスの中から見える景色はもう暗くなってきてしまっている。
(あーもう! なんでこうなるのかなぁ!!!!!)
あらゆることを計画し、予想を立てて行動している凛。
故に今までは綾香の行動などを先読みし、対策を打つことが出来ていた。
イヴのためにも、勿論そうしてきた。
だが、その計画崩れ、予想に反したことが起きてしまっている。
今の凛は焦りに焦りまくっている。
やっとバスが着くと、そこからまたダッシュでイヴの家を目指す。
イヴには遅れる旨を連絡できていない。充電などしている暇もなかった。
今出来ることは一刻も早く六道家に向かうこと。
もし遅れたことでイヴの機嫌を損ねてしまえば、マイナスからのスタートになってしまう。
千鶴という強敵が現れている以上、少しでもマイナスは減らしたい。
「ぎゃん!」
運動不足がたたり、凛はつまずいてしまう。
「け、ケーキ!」
転んだ衝撃で、ケーキの箱が投げ出されている。
確認すれば箱が少し凹んでいるが、中身はまだ大丈夫そうである。
すりむいた膝にも目を向けず、凛は再び走り出す。
汗まみれ、泥まみれ。
その姿は着替える暇もなくて、制服のまま。
本当ならば、可愛らしいゴスロリドレスに着替えるつもりだった。
いつもよりも何倍に気合を入れたオシャレをするつもりだった。
今の自分に出来る最高の『かわいい』を演出するつもりだった。
だったのに。
やっと六道家が見える。
荒い息を整えながら、インターホンを押す。
「お、凛、遅かったな」
「ご、ごめんね、遅くなっちゃった」
すぐにでもイヴが出てくる。
笑顔で迎えてくれるイヴだったが――凛のその姿を見て、イヴは驚きの顔に変わる。
制服はどろまみれ、膝からは血。
顔は汗にまみれている。落としたのであろうか、凹んだケーキの箱が悲し気に手に収まっている。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫! 大丈夫……」
「ま、入れよ」
「ありがとう……」
家へとあがりこむ。
やっとイヴに逢えたというのに――凛の心は晴れなかった。
イヴの顔は、驚いていた。
狂い始めた計画の結果の表情である。
本来ならば思い切り可愛くなった自分をみて、イヴならば褒めてくれるだろうと思った。
その表情は笑顔になるだろうと思っていたのに。
とりあえず制服を脱いでパジャマに着替えてしまう。
「イーちゃんあのね、これ」
潰れた箱を渡す。
「お、これスイーツ? わぁ、超嬉しい!」
「イーちゃんスイーツ好きでしょう? だからね……」
さっそくイヴが箱を開けると――。
ケーキが、
潰れている。
「え?」
「あらま。凛転んだりした?」
「え、そんな?! なんで!? 転んだときは平気だったのに!」
思い出す。
転んだときはケーキはまだ大丈夫だった。
しかし、その後もダッシュしてその腕はおおいに振っていた気がする。
ダッシュした反動が箱の内部に伝わってしまったのだろう。
綺麗に飾られたケーキは――今はみるも無残な姿である。
「あはは……まぁ、味に変わりは……」
「な、なんで!? なんでこうなるの!!! どうしてこうなるの!!!!」
怒鳴り上げる凛。
計画が。
頑張って知恵をしぼって、イヴのためにと積み上げた計画が。
この日のために積み上げていた計画が。
崩れた。
「大丈夫だよ、凛食えるしさ」
拳を握ってぷるぷると震える凛。
何もかもがうまくいかない。
何もかもが裏目に出てしまっている。
こんなに思い通りにいかないのは初めてで、凛はイヴを前にしているというのに泣き出しそうになってしまう。
「ま、とりあえずメシでも食おうぜ」
「……うん」
「何食べる? デリバリーでもする?」
「何でもいい」
「せっかくだしさ、凛の食べたいもの食べようぜ」
そう言ってデリバリーのチラシをテーブルに並べるイヴ。
気を遣われるのが、痛かった。
本当ならば嬉しいはずなのに。
計画通りことが運んでいたら純粋に楽しめたはずなのに。
今のこの状況はどうだろうか。
凛は計画が崩れて焦りと怒りに飲まれている。
イヴはそんな凛に気を遣ってくれている。
本当だったら。今頃二人で純粋に笑えていたはずなのに。
委員が、電車が、スマホが、ケーキが、イヴが。
思い通りにならない。
思い通りに笑えていない。
「これもうまそう。凛はどれに――……」
イヴが凛を見ると、その顔は怒ったようでいるのに。
ホロリ――……
泣いていた。
「ど、どうしたんだよ凛」
「全部……全部うまくいかなくて。全部全部うまくいかないんだもん」
泣きたくないのに、涙が出る。
イヴの前でこんな顔をしたくないのに、と思えば思うほど涙が流れてしまう。
「気にすんなって、な?」
「本当だったら、もっと可愛い服きて、もっと早くにこれて、もっとちゃんとしたケーキ渡せたのに」
悔しい数だけ、涙が流れる。
「大丈夫だよ。凛」
「だって……だって……」
両手で顔を隠す。
だって、千鶴に負けたくないのに。
うまくいかないんだもん。
「ヒック、ヒック…………うぅ……」
「凛、大丈夫だって。な? 大丈夫だよ、凛」
後ろから凛のことを抱きしめるイヴ。
それでも、凛は泣き止まない。
(もう終わった。こんなんじゃちーちゃんなんかに勝てない。あたしはずっと――)
告白したのに。
イヴに好かれたくて頑張っているのに。
少しでもイヴに近くなりたいのに。
(ずっとサブのままだ――)
六道家のリビングには、凛の嗚咽だけが響いた。
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