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50あの日あの時

 カチャカチャカチャカチャ。


 タイピングの音がひたすらに響いていた。


 下はパンツだけ、上はダボついたバンドTシャツ姿の凛がノートパソコン向かってひたすらに文章を打つ。

普段コンタクトをしている凛は、自宅では眼鏡姿である。


 眼鏡を外し、一息入れる。

今日書いているのはとある賞に応募する新作の小説だ。


「あー……なんだかなぁ」


 随分と書いたはずの文だったのに。


ctrl+Aを押して全選択する。

そして、バックスペースを押してしまう。


 すべてが、消える。


 書いても書いても集中できない。

文字は打てど、そこに気持ちが入っていない。

書いているキャラクターたちはどれも実際の人たちをモデルにし、少し凛好みにしたものである。

だから、どうしてもキャラクターにイヴを重ねてしまう。


(今頃イーちゃん何してんのかな?)


 今日は千鶴だけの日。


 綾香もいないし、凛も今はこうやって自宅で執筆中。

まさかの正統派美少女メインヒロインが一番ノリ。

千鶴のことを解析してみれば、綾香や凛のような積極さはない。

凛は思いのままにスケベな展開に持ち込もうとしたし、綾香も脳筋ではあるが常に寄り添おうとしていた。

それに対し、千鶴は奥手。


 だからこそ、危惧している。

もし、奥手な千鶴が行動に移ってしまったら。

正統派美少女メインヒロインが勇気を出してしまったら。


 イヴの気持ちはゆらいでしまうのではないだろうか?


(……まさかね。考えすぎか)


 それよりも明日は自分の番だと、頭を切り替える。

 凛も一つ学んだことがあった。

それは千鶴に出会い気付いたことである。

今考えたことの逆。そう、凛には清純さが足りない。


(普段はビッチキャラを演じている凛が清純派を演じれば――)


 可能性は今よりもあがるのでは。


 考える。

どうしたら相手に気に入られるのか、どうしたらより自分を良くみてもらえるのか。


(清純派――清純派の千鶴ちゃんはどうだったっけ)


 手料理が上手で、乙女らしくて、綺麗で可愛くて。

勝っているのは乳のサイズくらいではないだろうかと思う。


(いやいやいや! あたしだって幼児体系なのに出るとこは出てるし! 可愛さだって負けている気はしないし!)


 じゃぁ、どうしたらいいと自問。


(んんんんんんん!!! 凛ちゃんをここまで悩ませるとは! イーちゃんはなんて罪な女なのかしら!!!!)


 急に夢小説の気力が湧いてくる。

フォルダを開き、夢小説のフォルダをさらに開く。



 カチャカチャカチャカチャ。



 イヴの家にお泊まりした凛。

 一緒に夕食をとって、一緒にお風呂にはいって、一緒にベッドに入って。


 荒い吐息、温かい肌、伝う汗。


『凛……』


『イヴ……』


 口づける。何度も、何度も、互いが互いを欲している。


(あ――……こんな展開にならねぇかな。ならねぇか……)


 タイピング音が響く。



◇ ◇ ◇



「千鶴……」


「イヴ……」


 ソファに横になった千鶴。

その上に覆いかぶさるイヴ。


「こ、これは事故だから……」


「うん、事故、だよな……」


 ひょんなことからイヴが千鶴に覆いかぶさってしまっている。

互いに顔を赤くしたまま、でも、視線はそらさぬまま。

吐息すら顔に感じる距離に。


「ご、ごめんな……」


 離れようとするイヴの首に、千鶴の手がかかる。


「え」


「ま、待って」


 これ以上ないくらいの勇気を振り絞る。

正統派美少女メインヒロインが一歩踏み出す。


「こ、これは、ただのじゃれあいだから……ただのじゃれあい、だから……気にしなくてもいいでしょ」


 言い訳をしても、その顔はじゃれあいの顔をしていない。

千鶴も。イヴも。


「そ、そう、だよな」


 据え膳食わぬは、なんて言葉がイヴの頭によぎる。

でも、これはじゃれあい。ただの女の子同士のふれあい。ただのスキンシップ。


 だから、


「イヴ」


「千鶴……」


 こうやって唇が重なっても――じゃれあい。

 目を閉じてお互いに唇を求めあっても――じゃれあい。

互いの腕が互いの身体を抱き寄せたって。


 ただのじゃれあいだから。



「ぷは……」


 やっと唇が離れる。

 やっと息が出来る。

 やっと冷静になれる。


「……」


「ちーちゃん、随分と積極的だな」


「だ、だって」


 今を逃したら、きっと次は無いから。


「やっぱり甘えん坊だな」


「……イヴの前だけだもん」


「……そっか。……そっか」


 ソファの端にイヴが座る。

その向かい端に、千鶴が体育座りする。


 赤くなりっぱなしの両者の間には沈黙だけが流れる。


 冷静になって分かる。

じゃれあいということで理由をつけていたこと。

じゃれあいということで、未知の扉を開こうとしてしまっていた。

じゃれあいということで。


「イヴ」


「なんだ?」


「嫌いに……なった?」


「ならねーよ」


「……ありがと」


「ちーちゃんも俺のこと……嫌いになるなよ」


「ならないよ」


「……」


「汗かいた」


「そうだな……」


「……」


「……」


 なんとなく、何が言いたいのか分かってしまう。

でも、次のイベントに行けば、また何かが起きてしまいそうな気がして。


 期待してしまう。


「イヴ」


「なに?」


「汗かいた」


 イヴに言わせようとする千鶴。

ずるい奴だと察するイヴ。

だが、言えないなら言うしかない。


「お風呂、はいろっか」


「うん」



下から感想、ポイント、レビューが出来ます!!!!!!!!!!!!!!!




是非お願いいたします!!!!!!!!!!!!!!!!!!




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