49正統派
決まり通り、翌日に六道家を訪ねたのは千鶴だった。
昨日のことはまだ記憶に新しい。
一緒にお風呂に入った。
お風呂でキスをした。
忘れたくても忘れられない記憶だろう。
正直、どのような顔をすればイヴと顔を合わせられるのだろうと思う。
まだ新しい記憶は脳にへばりついて離れない。
まるで水の中に墨汁を垂らしたように、その色は染まっていく。
でも。
インターホンを押す。
「おう、来たか」
「お邪魔するね、イヴ」
好きだから。
このままじゃいけない。
せっかく呼んでもらったのに、自分がいじいじしてはいけないと千鶴は精一杯の笑顔を作った。
だって、そこには自分が好きなってしまった人がいる。
好きな人と二人きりになれるため、ライバルという名の友達が時間を作ってくれた。
そんな想いを考えれば、いじいじなんてしていられない。
部屋に入ると、なにやらスパイシーな香りがする。
「カレー作ったの?」
「そうなの、昨日は作ってもらっちゃったから、今日は私がつくったの。まずかったらごめんね」
なんていいながら金髪を揺らし振り返る君よ。
眩しすぎる太陽な笑顔を与えてくれる君よ。
「まずくったって食べるよ。せっかく作ってくれたんだから」
微笑み返す。
「えーでも、まじでまずかったらいってよね。気を使わせちゃうのも悪いし」
おや、と思う。
いつものイヴとは何やら口調が違う気がする。
普段は男勝りというか、本当に男性と会話をしているような口調なのに、今日のイヴはやたらと女子っぽい口調だ。
「なんだかいつもと違うね?」
「ほら、私口調が男っぽいでしょ。でもね、千鶴を見て少し見習わなきゃって思ったの。
どうせなら、可愛くなりたいし、綺麗になりたいだろ?」
「あ、言い切りが“だろ”になってるよ。まだまだ女の子っぽい口調になるには長い道のりそうだね」
「はは、ちげぇねぇ」
いきなりギャップを出さないでくれと思う。
平静を装いつつ、その心は揺れ動いてしまう。
その男勝りなのはもちろいい。でも、そうやって乙女っぽいことをされると、それはそれで可愛くてキュンとしてしまう。
そして――
そうやって自然と可愛さや美しさを追求している気持ちが、今の可愛さや美しさを表しているのだろうなと思う。
イヴは千鶴の影響でより女の子らしくありたいと言ったが、それは千鶴もまた同じ。
イヴが『可愛い』っていってくれるから、今日だって可愛くみられるようにしている。
「今日は泊っていくんだろ?」
「そのつもりだったけど、いいかな?」
「勿論! さ、座ってくれ。カレー出すからよ」
張りきってキッチンに向かう背。
さっそく男言葉に戻ってしまっていて、なんだか微笑ましい。
だけど、その男言葉とは裏腹に、その容姿は美しい。
短パンから伸びる白い脚も、袖口から伸びる白い腕も。
「ねぇ、イヴ」
「ん、なに?」
「私も手伝おうか?」
「いや、大丈夫だよ」
「……」
こういったとき、綾香や凛ならどうするだろうと考える。
でもきっとあの破天荒な二人ならばきっと。
立ち上がり、千鶴はゆっくりとイヴを後ろから抱きしめる。
「ん、どした?」
「え、いや、もしも綾香さんや凛さんだったら、こうするかなって」
「――かもなぁ、でも、お前はお前だろ。真似ることはねぇよ」
イヴの気持ちとしては――
千鶴は理想の乙女である。その言葉遣いも容姿も、手料理が上手なところも全部が理想。
そんな千鶴が、綾香や凛をまねるなど、とんでもないことである。
何より、この乙女な千鶴があんなぶっ飛んだ少女たちになってしまったら――。
ちょっと嫌である。
そういう気持ちでイヴは言ったけれど、千鶴の受け取り方は違った。
『真似ることはない』
それは等身大でいい、変に背伸びすることはない。
お前はお前のままでいい。そのままでいいという肯定感。
イヴには気持ちが見透かされている気がして、千鶴は自分が恥ずかしくなる。
誰にもなれない千鶴。千鶴でしかいれない千鶴。
千鶴のままでいい千鶴。
「じゃぁ、あのね――」
「?」
「私がこうしたいから、こうしていてもいい、かな?」
ちょっぴり赤らんだ頬で、千鶴はいう。
千鶴とイヴの背にさほど差はない。
顔を合わせれば、すぐそこに互いの顔。
千鶴の赤らんだ顔を反射するように、イヴの顔も赤くなっていく。
「い、いいけどさ! ちーちゃんも甘えん坊だな! あはは……」
「わ、私が私のままでいいって言ったのはイヴじゃない! だから、私らしくいようとしたのに……」
ぷくーっと膨らむ頬。
そっぽを向くのに、抱きしめる力は強くなる。
「おい、締めすぎだろ。お前力あんだからよ」
「もっと締めます! 離れないから!」
「おいー」
カレーの盛り付けが終わる。
というか終わっていたけれど、しばらくイチャついていた。
やっと千鶴は離れると、二人で食席に腰を下ろす。
「どう、まずくない?」
カレーにはずいぶんと不格好に切られた野菜や肉がゴロゴロとある。
どうやらイヴに料理の繊細さはないようだ。
でも、千鶴はそんなイヴの料理だって嬉しい。
「あ、うん。美味しいよ」
ただ、味は分からなかった。
あんなに同級生に、いや好きな人に甘えたことなんてない。
勇気を出して踏み出した一歩は、千鶴のことを極度に緊張させると味覚なんて忘れさせてしまっている。
「でもさ、意外だな」
「……なにが?」
「いや、ちーちゃんがあんなことしてくるなんてよ」
「も、もうその話はいいじゃない!」
余計に赤くなる。
「やっぱ恥ずかしがるちーちゃんは可愛いな!」
「バカ! それにイヴまた男っぽい言葉に戻ってるじゃない!」
「あら、これは失礼。わたくしったらオホホ……」
わざとらしいお嬢様言葉で笑う。
憎たらしい顔をしている。そして憎らしいと思ったぶんだけ、好きな思いも募る。
カレーを食べ終えて食休み。
食器は千鶴が洗ってくれていた。
食後のお茶をしながら、千鶴はイヴに話しかける。
「親御さんはいつ帰ってくるの?」
「産んだらじゃね?」
「そうなのね。元気な妹さんが生まれるといいね」
「なー。でもさ、うちらもいつかは子供出来たりすんのかなぁ?」
そう言われて、千鶴は妄想してしまう。
この状況がリアルな妄想を掻き立ててしまう。
イヴと結婚して。
二人でそこそこに生活して。
時をみて二人で子供を設けて。
お腹の大きくなった千鶴。
隣にはイヴ。
(いやいやいや、女同士じゃ子供できないのに……私ったらなんて妄想を……)
思わずカアアァァと顔が赤くなる。
イヴといると顔が紅潮ばかりして嫌になる。
「でも、俺は多分無理だろうなー。男無理だし」
「え、そうなの?」
「うん。男とは一生一緒にならないな」
「どうして言い切れるの?」
前世が男で、その感覚のままなのに、男と一緒になるとか無理。
とは言えない。
「それが俺だからね。理由なんてないよ」
「そっか。それじゃあ――」
聞こうか、聞くまいか迷う。
でも今聞かなかったら次はいつ聞けるか分からない。
今こそが自然なタイミング。今聞かないと後悔する。
やらぬ後悔より、やる後悔のほうがいい。
「イヴは女の人が好きなの?」
「うん、そうなるかな。女と一緒にいるのは想像しやすいな」
「そ、そっか。そうなんだ……はは、そっか……」
嬉しい、なんて思ってしまう。
だってもし自分が好きといって、イヴに引かれてしまったら。
でも、その可能性はたった今消えた。
これで堂々と好きといえる気がする。
でも、まだ。
せっかくの恋愛っぽいトークだしと、今度はイヴが斬り込んだ。
「ちーちゃんは好きな奴とかいないの?」
「いるよ。でも、教えてあげない」
「えーなんで? 余計に気になるじゃん」
「フフ、内緒」
「えー教えてよ」
「いつかね。いつか――ちゃんと教えてあげるね」
「今じゃダメなのかよ」
「だーめ」
「ちぇ」
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