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48地上最強

 どうも記憶が飛んでいる。

朝イヴのベッドで起きてから、綾香は昨日に何があったかを考えるも具体的な記憶が出てこない。

ただ唯一衝撃な記憶のかけらが、頭の中に一文字だけ残っている。


 A。


 それが何を意味するのかは分からないが、なんのAなのか――。

 AYAKAのAなのか、それとも――カップ数のAなのか。

なんだかぼろくそにされた記憶はあるが、記憶はぼやけて滲んでしまっている。


 せっかくのお泊まりだったのに、記憶がなくなるとはなんたる不覚か。


 学校が終わり、綾香は暗い面持ちで家へと向かっていた。


 悩みの種はまだある。


 それは母からのラインである。

文面ではどちゃくそに怒っていた。

帰ったら雷が落ちるのは間違いないだろう。


 もうそろそろ家に着く――


 そうなったとき、綾香は周囲の異変に気付いた。

何か異様。何か近づくにつれて邪悪な気配がする。

空気を張り詰めさせるような、まるで地獄の底へと歩いているような。



 玄関が――開いている。



しかし、開かれた扉から溢れるのは邪悪すぎる闇。

いつもの玄関ではない。そこにあるのは地獄への入り口である。


 たじろう。

この闇の先には、確実におにがいる。



(こいつはヤバい……ヤバすぎる……!!!)


 引き返そう。

そう思って踵を返した瞬間。


「綾香、おかえり……」


 まるで背筋を鷲掴みされたような、冷気と帯びた声。


 汗が止まらない。

この声は確実にぶち切れている母のものだ。


「綾香ァ……帰ったなら挨拶くらいしなさいよぉ……」



 ゴゴゴゴゴゴ――……



 振り返る。


「綾香よぉぉぉぉぉぉぉ、うちの大事な大事な長女様よぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 ドドドドドドドドドド――……


「たたたたたたた、たたったああttただい……ま……」


「待っていたんだからね、綾香ぁ……さぁ、入ろおぜぇ……うちン中によう……」


 その綾香の――綾香の口の悪さ。

 間違いなく遺伝。

母のその口ぶりは怒りを必死にこらえているものである。

今にも口から怒声と罵声をあげたいのを我慢している口ぶりである。


 母は――綾香に背を向ける。


(こ、こいつぁ……!!!!!!!11)


 ぶち切れた時――、綾香の母がぶち切れたときに現れるその背の文様。

背なのヒッティングマッスルが異様に盛り上がり、その筋肉は尋常ではない形へと変化している。

そう、まるで



 鬼の形相のような――



 リビング――対面には母。

母は点けたばかりのタバコを一口で、その根元まで吸うと大量の紫煙を吐き出している。


「綾香――私は昨日なんて言った――?」


「え、ええと、ええと……」


 あの時はイヴの家に行くのに急いでいて、具体的な内容を綾香は覚えていなかった。

ただ、確か引き留められたような――そんな気はする。


「綾香、お母さんはな、待てと言ったんだ」


「は、はい……」


 そうだったっけ? なんて言葉は赦されない。

とぼける、ふざける、否定する――今そのような言葉を返したなら――。


 母は飲んでいたコーヒーの横にあった先割れスプーンを手にする。



 パカッ。



 スプーンの先端――先のほうをほんの少し、ほんの少しつまむと母はスプーンを縦に割いた。

小細工無し。純粋な筋力。

勿論――金属製のスプーンが女性の、それも50近い女性の筋力で引き裂けるはずもない。


 だが。


 綾香の母のその異常に発達した筋力であるならば、話は別だ。


(下手なことをいえば、私もあのスプーンみたいになっちまう!!!!!!!!!!!!!!)


 縦に割れる自分が容易に想像できる。


(し、死にたくねぇえええええええええええええええええええええええ)


 もう泣く寸前、涙腺決壊寸前。


「綾香……お前が何をしたのか……分かっているよな?」


「ふふぁい……」


 コーヒーを飲み終え、母はソーサーを持つ。

そのソーサーも金属製。



 ギィィ――。 



 ソーサーが、二つに割かれる。


「お母さんの言うことを無視し――」


 ソーサーを折りたたむ。


「許可もなく寝泊まりをし――」


 小さくなったソーサーを握りつぶす。


「あげく――連絡もなく、ほいほいと家に帰ってきた――」



 ギュウウウウゥ――。



 コロン。


 先ほどまで母の手のひらよりも大きかったソーサーが、ビー玉サイズになって転がる。


「ご、ごめんなさい!!!! もう勝手に泊まりません!!!!! 言うことも無視しません!!!!!!

本当に申し訳ありませんでしたぁ!!!!!!!!!!」


「そうだ――その言葉を待っていたんだ、綾香」


 転がった元ソーサーを、指ではじく。

まるで弾丸のような勢いで弾かれる元ソーサー。

綾香が振り返ってみれば、壁には穴が開いている――恐らくは――貫通して、その向こうにも穴が開いているはずである。



「本日より一週間、スマホを没収。小遣いはなし。門限は5時だ」


 もし破ったら。なんて聞かない。その時は自分の身体があの壁のようになるだけだ。


「わ、わかりました……」


「よろしい……じゃ、晩御飯にしよっか♪」


 ぱっと笑顔に変わると、そのイカつすぎた筋肉も消える。

いつもの母である。

笑顔になった母は立ちあがると、すでに作っていた料理たちを温めだす。


(し、死ぬかと思った――。ママ怒ると範馬〇次郎みたいになるから怖いんだよ……)


 汗を拭う。


 これから、スマホは一週間没収。となれば、

イヴの写真は見れない。

イヴと連絡は取れない。


 それに――


(イヴんちにお泊まりが――パぁ!!!)


 悔し涙を流さずして、綾香はどう過ごせばいいのか分からなかった。



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