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39劇場内での乱闘は違法です。

「ちーちゃんは最近なにか映画みた?」


「映画館でなら……この前実写化したピ〇チュウみたよ」


「あーあれ可愛かったよな! 誰とみたの?」


「あの……その……」


 千鶴は顔を赤らめると(というかしばらくの間赤い)恥ずかしそうに視線を泳がせる。

まさか彼氏かなにかかと思い、イヴは肘で小突きながら先を促す。


「ひ、ひとりで……」


 意外すぎる答えに驚く。


「一人? え、マジで?」


「私……あんまり……仲いい友達がいなくて……」


 またも意外な答えに驚く。

イヴから見ても千鶴は何度もいうように可愛らしい顔つきをしている。


「ざまぁ見ろ……」


「え」


「だれだ?」


 第三者の声が聞こえて、イヴと千鶴は振り返る。

しかし後ろのほうにはカップルが遠くにいるだけで他には姿がない。


 咄嗟に凛が綾香を頭を押さえつけると、その場に伏している。


「おいおい♡ バレるでしょ♡」


「ご、ごめん、つい口が……」


「次なにか言ったらその口にあたしの拳突っ込んであげるからね♡」


(さらば、私の顎と口……)


 気のせいか、もしくは誰かの会話が耳に入ったのだと思うとイヴと千鶴は再び前を向く。


「で、友達がいなくて一人で見に来たの?」


「うん……クラスで話をする人はいるけど、友達っていうよりか、知り合いみたいに感じて」


「それで映画も一人か」


 ぶさいくな上に、友達もいない。

自分で話していて情けなくなる。千鶴はイヴの比べてみてしまう。

イヴの周りには綾香と凛がいた。それも楽しそうにじゃれあうと、一緒に出掛けるようなこともいっていた。

きっと、イヴにはああいった友達が何人もいるのだろうと勝手に想像する。

見た目も運動神経も、友情も、何もかもが天と地の差。

イヴが月ならば、自分は泥沼の中に潜むスッポンだろうと思ってしまう。


「……」


「じゃぁさ、今度映画行くときは俺のこと誘ってよ。一人より二人のほうが楽しいだろ?」


 ミシ。

後ろで何かが潰れたような音がする。


「でも、イヴの連絡先も知らないし。それにイヴにはお友達いるでしょう」


「連絡先なら交換すればいいじゃん。あとでライン教えてよ。それに友達はいくらいたって困らないだろう?」


「……いいの?」


「もちろん。映画終わったら連絡先交換しよーぜ」


 イヴの横顔に、見とれてしまう。

スクリーンを見ているイヴは軽く笑いながらドリンクに口をつけている。

その自然な笑顔が、どうしようもなく綺麗で、どうしようもなく愛おしい。


「ありがとう、イヴ」


「おう、俺も可愛い子の連絡先知れて嬉しい」


「も、もう!」


 軽く肩を叩く。

叩かれてケラケラ笑うイヴ。

そして後ろから聞こえる何かが割れる音。


 劇場内が暗くなっていく。

そろそろ映画が始まる。


 カップルたちは暗くなったのを良いことに手を繋いだり、肩に頭を寄せたりしている。


 映画がはじまってから数十分後のことである。

 眠りに落ちてしまったイヴは千鶴の肩に頭を寄せると、そのまま安らかな寝息を立てている。


(イヴ、寝ちゃった?)


 ドキドキがとまらない。

こんなに身を寄せ合うことなんて、はじめての経験である。

 

 映画の中、主人公の肩にヒロインが頭を乗せている。


(イヴ……あなたは……)


 主人公は寝ているヒロインの手を握ろうとする。

ドキドキとした表情。したいけど、あと一歩が踏み出せない。


(今だったら、手を……)


 ヒロインが起きる。

 手を繋ごうとしていた主人公のことを笑顔で見ると、ヒロインはそっと主人公に口をつける。


「ふぁ……」


「起きた?」


「ん……もう少し、こうしてていい?」


 眠気眼をこすりながら、そのまま身体を預けるイヴ。

千鶴の言葉なんて聞いていない。それに千鶴もわざわざ『いいよ』なんて言わない。


 瞳は映画のほうを向いているのに、映画の内容なんて頭に入らなかった。

 意識はイヴのほうへ。

あと少し、もう少しこのままでいたい。

いや、このまま映画が終わらなければいいのにと願ってしまう。


 主人公がヒロインに告白をする。


『お前のことがずっと好きだったんだ』


 ヒロインは泣きながら、口を開いた。


『この気持ちがなんなのか分かんなかった。でも、私も分かったの。これが恋なんだって。

私も、貴方のことが好き。大好きだよ』


 抱き合い、唇を重ねる。


 恋。


(この気持ちが……)


 恋。


 周りのクラスメイトたちが――。

コイバナをしているとき、あの先輩が格好いいとか、あの男子と一緒に帰ったとか、あの男子に告白されたとか。

そんな話を耳にしたとき、千鶴は何も感じなかった。

 部活動に呼び出されたとき、女子に人気のキャプテンの先輩を見ても、何も思わなかった。

同級生の男の子に告白されたとき――、その感情が理解出来ず、千鶴は頭を縦には振らなかった。


『鈴木さんは、気になる男子とかいないの?』


 そう聞かれて、千鶴は即答で『いない』と答えた。


 周りとは違うのだと思った。

恋なんて自分には関係のないものだと思っていた。


 エンドロールが流れていく。


「ん――……寝ちゃったな」


「イヴ、ずっと寝てたね」


「そうだな……たくさん食ったしな」


「……フフ。イヴは自由だね」


「そうかぁ?」


 劇場内が明るくなる。

イヴは大きく伸びをすると、立ち上がって千鶴に手を差しだす。


「出よ」


「うん」


 劇場内から出ると、約束していた連絡先の交換をした。

千鶴にとって初めて友達と呼べる友達――のはず。


「このあとどうする?」


 出来れば一緒にいたい気もする。


「今日は……このまま解散にしよう」


「そっか。分かった。じゃーまた今度な。映画いくときあったら声かけてくれよな」


「うん。ありがとう」


 手を振り去っていくイヴ。

千鶴も手を振り、その後ろ姿をいなくなるまで見ていた。

去っていく姿を見るとキュンとする。今別れたばかりなのに、またすぐに逢いたいと思ってしまう。


 だけど。


 深呼吸して、千鶴は鼓動を落ち着かせる。


(これでデート終わりかな?♡)


(あんの雌豚ァ……このまま後つけて二度とイヴに手ぇ出せないようにしてやる…………!!!)


 物陰からやりとりを見ていた綾香と凛。

これでやっと解散なのかとその様子を見届ける。

二人ともキレるたびに互いを殴り合っていたせいで、まるで戦場帰りのような姿だ。


「さて、どうする、綾香ちゃん♡」


「そうだな……まずはあの雌豚捕まえて、尋問タイムだ……そして……」


「私も質問があるの」


「!!?!?!???!!?」


「なっ?!!?!?!???!?!??」


 目の前にいたはずの――、千鶴の姿がない。

そして目の前にいたはずの――、千鶴の声が後ろからする。


 何故。


「残像よ」


「うおああああ!?!?!?!?!?」


「ぴぃ!?!?!?!?!?!」


「貴女たち、ずっと私たちのことを見ていたでしょう? あんな殺気交じりの視線浴びてたら気付くわよ」


(嘘だろ?!?!?!?!?!!?!?!?)


(そんなバカな!?!??!???!?!?!?!?!?!?!?!)


「あのね、私も貴女たちに聞きたいことがあるの」


 バレていないつもりが、バレ続けていた。


「あ、綾香ちゃん! 何腰抜けてんの! さっきの勢いはどうしたの!?!?!?」


「いや、むりむりむりむり!!!!! 視線だけで気配に気づいて残像残せる奴に勝てるわけないでしょ!!!!!!!」


「あ、あの、落ち着いて……危害は加えないから……」


(ど、どうする綾香ちゃん!)


 視線で綾香に問いかける。


(じ、辞世の句用意する……!?)


(それ死ぬやつ!!!!)


(よし、私に考えがある!!!!!)


 綾香は凛の首根っこを掴むと、凛を盾にして逃げ出す。

と思ったら、千鶴が綾香の目の前に姿を現す。


「バケモノか!」


「お、落ち着いて。あのね、二人とお話がしたいの……」


「な、なにが聞きたいの! イヴのことか! イヴのあんなことか、そんなことか!」


「う、うん……あのね、あなたたち二人は……その」


 もじもじしながら赤くなる顔。

綾香も凛も沈黙すると、千鶴の言葉に息を飲む。


「あなたたちは……イヴのことどう思っているの?」


 そして、二人は感じ取る。

綾香にもないものを、千鶴は持っている。

凛にもないものを、千鶴は持っている。


(こいつ……)


(この人……)


((正統派美少女メインヒロインの姿してやがる!!!!))


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― 新着の感想 ―
[一言] 123すべて必要だと思います!! しかし回によって成分を偏らせるのもありかと!
[良い点] 相変わらず天然タラシなイヴにより、少女の心がまた一人溶かされるww。 [一言] 気配察知と残像を残す程の手練れだと…。千鶴は、何かしらの体術を会得してる…のか。もしや、綾香の天敵なのでは……
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