29恥死
『恥ずかしい時。
思い出したくない恥ずかしい記憶というものが、誰にもあると思います』
綾香は淡々と語る。
『私の場合ですか? そうですね――』
恥ずかしい記憶を思い出す。
そんな記憶を掘り起こせば、顔はもちろんやるせないものになる。
『パジャマのまま学校に行こうとしたとき。
学校の先生をママと呼んでしまったとき。
誰もいないと思って歌を歌っていたら人がいたとき。
色々とあると思います』
まだ、彼女の喉奥には出していない言葉が感じられる。
小林綾香(15)は頬を掻くと、恥じらいに赤く染まっていた。
『しかしながら、それらは誰にでもある経験だと、私は思います』
ということは、綾香にはまだ恥ずかしい記憶があるのだろう。
インタビュアーは恥ずかしがる女子高生に、その先を促した。
『本当は言いたくない話です。黒歴史、いえ、もっと深いものですね』
彼女は、綾香は遠くの空を見ると目を細める。
まるで恥ずかしい記憶を澄み渡る空の向こうへと消し去るように。
『私の場合。私の一番恥ずかしい記憶、それは』
固唾を飲む。
『お泊り会をしたときに、もしかしたらと思って持って行った――その――』
言葉に詰まる。
よほど言いだしたくないようだが、インタビュアーは答えを求めた。
『アレ、です。あのピンク色の、震えるやつ』
空気が、凍るようだった。
『アレを持ってきていたことがバレてしまった。
恥ずかしい、という言葉では片づけられない感情でしたね
あの感情は今でも忘れることが出来ません』
女子高生がそんなものを持っている。
それだけでも相当なものであるのに、綾香はそれがバレてしまった。
彼女は――小林綾香はその後どう乗り切ったのか、インタビュアーは尋ねる。
『はは……あの時は……』
「おーい、綾香ちゃーん、おーい」
凛が魂の抜けた綾香を揺すり、何度も声をかける。
返事はない。
ただの屍のようだ。
「おーい、綾香ちゃぁん、起きてー」
「大丈夫かこいつ……マジで死んだ顔してるぞ……」
目を見開いたまま逝ってしまった綾香に、イヴも心配そうに顔を覗き込む。
イヴがどれだけ顔を寄せても、綾香に脈はない。
普段ならば喜んだ反応でもしそうなのに、数センチ先にイヴの顔があっても、その目に光は戻らない。
さすがにこれはまずいのではと、イヴは焦る。
元はといえば他人の荷物を漁ってしまった自身に非があると思い込んでしまう。
「救急車呼んだほうがいいのか、どうしよう……」
「イーちゃん、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。復活させる方法なんていくらでもあるよ♡」
「そ、そうなの?」
「凛に任せて♡」
そういって凛はイヴにいくつかの指示を出した。
凛であるからこそわかる、綾香復活の方法。
イヴは部屋を飛び出すと、すぐに大量の衣類や下着を持って部屋へと戻った。
「わぁ♡ 宝の山♡」
「これで本当に綾香は起きるのか?」
「起きる起きる♡ 絶対起きる♡」
持ってこられたのはいずれもイヴが普段着用している衣類や下着である。
凛は衣類の一枚を持つと、綾香の顔の上に被せた。
「ほーら♡ イーちゃんの匂いたっぷりしみ込んだ服だよ♡ 綾香ちゃんの大好きなイーちゃんの服だよ♡」
反応はない。
やはり屍のようだ。
「起きないじゃん……」
「んー、刺激が足りないのかな。じゃぁ、今度はこっち♡」
「な、なんだか恥ずかしいぞ……」
顔を赤くするイヴ。
次に凛が選んだのはイヴの下着、水色のブラジャーである。
「ほぉーら♡ どう?♡ イーちゃんのブラジャーだよ♡」
「……ぅ……」
「! 反応した!?」
「でも、まだ覚醒はしないね♡ じゃぁ、もっと刺激を追加♡」
ブラジャーの被せられた顔の上に、さらにパンツを乗せる。
「ねぇねぇ、どう?♡ イーちゃんの下着のダブルコンボだよ♡ ド変態の綾香ちゃんなら反応しないわけないよね♡」
「……ぅう……」
今度は声と共に指先が反応する。
だが、まだ足りないのか綾香完全復活とはいかない。
「しょーがないなぁ♡ イーちゃん、最終手段だよ♡」
「わ、分かった……」
プチ。
イヴはその場でTシャツの中に手を突っ込むと顔から蒸気をあげながらブラジャーを外した。
脱ぎたて。
本場最高級の超絶貴重品。
凛と綾香ならば喉から、いや喉と言わず全身の穴から手が出ても欲しいものである。
まだイヴのぬくもりが残るそれを、イヴはもう泣きたいほどに顔を困惑させながら、綾香の顔に乗せる。
指先が――
呼吸が――
体温が――
脈が――
再生していく。
「ハァァ――」
大きく息を吸い込む綾香。
どこか遠くへ、ずいぶんと遠くへ旅立っていた意識が歩き始める。
とてもいい香りに誘われ、とても心地よいぬくもりに誘われ、綾香は夢の中を彷徨う。
『この胸をときめかせる香りはなに?』
『この身体を包み込んでくれる温かさは何?』
遥か遠すぎる精神世界の果て。
綾香は夢なのか現実なのか分からない世界で、ただ香りとぬくもりを追いかけた。
光が溢れる。
その光の先には憧れのあの人がいる。
『イヴ――』
手を伸ばす。
目の前に現れた女神に向かって。
「さぁ、起きて綾香」
「イヴ」
顔を覆っていた下着を、綾香が退ける。
「起きたね♡」
「綾香! 良かった!」
「イヴ……凛さん……ここは……」
「ふー! まったく心配させやがって! マジで救急車呼ぼうと思ったわ!」
「やっぱり起きた♡ 変態綾香ちゃんなら絶対起きるって思ったもん♡」
「私……死んでた?」
「もういい、もういいから! あー良かった!」
「ごめん、そうだ。私……ピンクが見つかって、あの世に逝っていたわ」
「おばか♡」
「良かった! とにかく良かった! もーそんなことで死ぬなよ、バカ!」
ぎゅ。
イヴが綾香を抱きしめる。
(そうだ、私は持ってきてはいけないものを持ってきたのがバレて。そのまま逝ってしまったんだ)
遠くに転がるピンクが視界に映る。
それでもいい。恥ずかしいけれど、こうやって今はイヴに抱きしめてもらえてる。
「ごめんね、イヴ、凛さん。私バカだから、どこまでもバカだから」
もう、お泊まりのときには必要なもの以外は持たない。
綾香は深く、深く胸にそう刻み付けた。
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