25筋トレワンダーランド
次に噛まれたのは綾香だった。
(いい罰こい! いい罰こい! いい罰こい!)
煩悩塗れの指先でカードを捲る。
(ざぁ~んねん綾香ちゃん♡ そのカードは外れだよ♡)
「なになに、何が書いてある?」
カードを覗き込むイヴ。
『その場で腕立て30回』
「クソが!!!!!」
「いいカードじゃん! わーそれ俺がやりたかった!」
悔しがるイヴ、外れカードに悔しがる綾香。
仕方なく綾香はその場で腕たせ伏せを開始すると、気合で30回をやりきった。
(クッソ、私は筋トレしにきたわけじゃないのに!)
山札の一番上、そこにあるのは真ん中に傷があるカードだ。
「じゃぁ、次は私の番ね♡(きたきたきたきたきた♡)」
ポチ。
ガブ。
「あはははは! 凛もいきなり噛まれてやんの!」
「やーん♡ イーちゃん、痛いー、指さすってぇ♡」
(コノヤロウ! 痛くもなんともねーだろうが!!!!!)
さすりながら『痛いの痛いの飛んでけ』なんていうイヴ。
一度で二度おいしい思いをする凛がカードを捲る。
「えぇっとぉ、隣の人にキスだって♡ やーん、恥ずかしい♡」
(メス豚あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!)
さっそくキスしようと、凛は唇をイヴに差し出す。
参ったなぁなんて頬を掻きながらイヴは照れ顔だ。
(ん、待てよ? となりの人とキス…………だったら!)
目を閉じていた凛の肩を、綾香は思い切り掴むと自分のほうへと向けさせる。
(!?)
(となりならよぉおおおおおおおおお、私もぉテメェのとなりなんだよなああああああああ)
ズキュウウウウウウウウウウうううううンッッッッッ!!!!!
目を開いた凛の視界を埋めていたのは――イヴではない。
真っ黒な髪をしたおかっぱ頭である。
「!?!?!?!?!?!?!!?!?」
いきなりの綾香からのキスに、凛はジタバタと抵抗して離れようとする。
綾香はそんな凛を思い切り押さえつけると、一切の抵抗を許さずに唇を当て続ける。
「んんんんんんん!!!!!」
(キスしたかったんだろオラ!!!! 私の唇味わえコノヤロウ!!!!!!)
抵抗していた凛の腕が、震えながら力を弱めていく。
ドサリ。
死んだ魚の目をした凛が倒れる。
まさか綾香にキスされるなんて夢にも思わない凛は、口を半開きにするとビクビクと痙攣している。
「フー、これで凛さんの罰ゲームはおしまいね」
「綾香……お前すげーな」
(こんな……こんなはずじゃぁ……イーちゃんとのちゅーがぁ……)
「さぁ、次のゲームは?」
唇を拭い、ファイター綾香は次の戦いへ望む。
「も、もういい……他の……他のことしよ……」
もうこれ以上にない罰ゲームを受けた凛は今にも消えてしまいそうな声をあげる。
イヴと出来るのならばこれ以上にいいゲームはない。
しかし、綾香にされるのならこれいじょう最低最悪な罰ゲームはない。
凛にはもう、このゲームを続ける自信はない。
イヴのプライベートタイムのルーチンワークは家事にトレーニングである。
ここで一息入れようと、今度はイヴがすることを提案した。
「なぁ、次は一緒にトレーニングしようぜ」
「え、筋トレ?」
首をかしげる綾香。
「そうそう、私毎日やってんだ。今日はあんまり動かなそうだし、今のうちにやっておこうと思って」
言ってイヴは拳を作ると、腕立て伏せのフォームをとる。
ゆっくりと胸を下ろし、あげる。下ろし、あげる。
「な、簡単だろ?」
笑うイヴの顔よりも、綾香と凛の視線はそこではない部分に充てられていた。
腕立て伏せをするイヴは、そのTシャツの隙間から谷間ががっつりと見えている。
それどころか大きく開かれた首元からは、谷間だけでなく白いブラジャーすら見えている。
「やろうか……トレーニング!」
「あたしもやる♡」
「よーし、じゃ、私が数数えるからやろう」
三人がその場に腕立て伏せのフォームを取る。
イヴは下を向いているが、二人の視線はイヴの谷間へと注がれている。
(こんなエロい景色を見続けられるなんて……! 来て良かった!)
(イーちゃん、意外と清純なブラつけてるんだね♡ 興奮してきちゃう♡)
「よーし、いくぞ、いーち……」
ゆっくりすぎる数え方は、筋トレ初心者には相当に辛いはずのものである。
普段身体を動かなさいものならば猶更つらいはずなのに、綾香も凛も苦しさを感じられない。
肉体的な負荷の苦痛よりも、目の前に広がる絶景に意識が奪われている。
数え続けること30回。
やりきった表情のイヴが二人を見ると、二人とも辛さよりも顔を赤くして恍惚な表情をしている。
「お前ら意外とやれんだな!」
「筋トレって最高だね!!!! イヴとなら何回でも出来ると思う!!!!」
「あたしもイーちゃんとなら出来そう♡ はぁ、汗いっぱい出ちゃうよ♡」
「またあとでやろうぜ。そうだ、後さ、私今日皆で見ようと思ってDVD用意してたんだ!」
汗をぬぐいイヴはクローゼットを開ける。
引き締まったいい尻を振りながらクローゼットを漁るイヴ。
無論、二人の視線はイヴの尻に刺さる。
(えっろい尻……イヴ誘ってるの? ねぇ、誘ってるの?)
(そんなにお尻フリフリしちゃって……はぁ、今すぐ食べちゃいたい♡)
「あったあったこれだ!」
取り出したのはホラー映画のDVDである。
((これはッッッ!!!))
「好きな映画でさ! せっかくだから部屋真っ暗にして見ようぜ!!!」
ホラー映画。
二人はそれを怖いなどとは一切思わなかった。
共通して思ったこと。
それはこれが最高のチャンスであるということだ。
何故なら。
((怖がったふりをして、イチャつくチャンス!!!!!))
「お前ら怖かったら言ってね。私も実はちょっと怖いからさ……」
パッケージで顔を隠して頬を赤らめるイヴ。
そんなイヴの顔を見て、二人が発情っとこないわけもなく。




