193正妻合戦
「なんで凛さんがいるの?」
「それはこっちのセリフだよ♡」
学校終わり、二人が鉢合わせたのは六道家の前である。
綾香はスクールバッグをぱんぱんにして、凛もその手にはスーパーのレジ袋を手にしている。
考えていることは同じようだ。
二人はイヴの看病をするために、意図せず鉢合わせてしまっている。
とりあえずピンポーン。
「おー、凛またきたのか。あれ、綾香もいんの?」
(“またきたのか”だと!?!?!!?!?!?)
出てきたイヴの言葉に綾香は衝撃を受ける。
“また”という言葉を使っているということは、これがはじめての訪問ではない。
すでに一回は来ていることは確定演出。
「悪いな。連日きてもらっちゃって」
「いいのいいの♡ 勝手に押し掛けてるだけだから♡
体調はどう?」
「昨日よりましになったよ。凛の飯のおかげだよ」
「やん♡ そんなことあるかも♡」
そんな二人のやりとりに綾香は嫉妬ファイヤーがメラメラと燃え上がる。
かといって普段のように暴れだすようなことは控えた。
目の前にいるのは珍しく体調不良で学校を休むほどのイヴである。
そんなイヴの前で暴れるなど――今の綾香にはできなかった。
お邪魔する二人。
体調がある程度はよくなったイヴはソファに腰かけると、「てきとーに使っていいから」と話し見ていたらしい映画の続きを見始めた。
さっそくエプロンをつけ、料理に取り掛かろうとする凛。
綾香も同じことこそ考えていたが、エプロンなどは持ってきていない。
手慣れた様子で作業をはじめる凛に、チクショウと思うと自然と歯ぎしりしてしまう。
「ち、ちょっと凛さん、昨日も来てたの?」
あくまでイヴに迷惑がかからないように耳打ち。
「ん♡ そだよ♡」
「なにそれ、聞いてない♡」
「言ってないもん♡」
話ながら凛はさっさと下ごしらえを始めている。
湯を沸かしつつ、野菜を切り、その間に米も炊いておく。
「イーちゃんもう普通のご飯も食べれそ?♡」
「うん、食える」
「はーい♡」
「はーい♡ じゃねぇよ! 奥さんか!? 奥さん気取りか!?」
またイヴに聞こえないように小さく、しかし嫉妬ファイヤー全開でつぶやく。
「まぁまぁ綾香ちゃん♡ 綾香ちゃんもイーちゃんに何かつくりにきたんじゃないの?♡」
言われた綾香はスクールバッグの中身を見せる。
中に入っていたのは――ほっかいろだとかスポーツ飲料、そしてイヴの好みであるプロテインや飴ちゃんなど。
「なんだか自分のレベルの低さに悲しくなってきた……」
「へこみおかっぱウケる♡ じゃぁ料理手伝ってよ♡」
「う、うん、まかせろ」
「じゃぁ、今日はお肉も買ってきたからぶつ切りにして♡」
「ぶつ切り? 殴って切ればいいの?」
「あってると思う?♡」
「違いますね……」
「ぶつ切りっていうのは適当な大きさに切ればいいんだよ♡」
「うぃ」
ズドンズドンと落とすように包丁を扱う綾香。
料理をしたことがないのは明白だが、まぁ肉は切れてるしいいやと凛は突っ込まずにいる。
それら材料を鍋へとぶちこみ、シチューのルーを投入する。
さらにほんのり隠し味として蜂蜜を投入。
「え、シチューに蜂蜜いれんの?」
「凛ちゃん特製シチューにはいれるの♡ 蜂蜜には殺菌作用があるんだよ♡ あと甘さも加わるし♡」
「へぇ。凛さん料理できるんだね」
「まーな♡」
「ウーバーでしかメシ頼まなさそうな顔してんのに」
「どういう顔だよ♡」
「あとエナドリにストロー指して飲んでそう」
「それはするが♡」
次第にいい香りが漂ってくる。
イヴも映画を見終わったようで、二人のことを後ろから腕組しながら眺めている。
「二人とも悪いな。ありがと」
「いいのいいの♡ はやくイーちゃんに治って欲しいしね♡」
「私だってイヴに早く治って欲しいよ!!!」
「はは、すまねーな。元気になったらメシでも奢るわ」
できあがった料理を今日は三人分用意し、テーブルへと運ぶ。
イヴと綾香が先に腰掛け、凛は残った料理をタッパ―に詰めたり鍋を水に浸したりしている。
エプロン姿でちゃかちゃか動く姿をみていると、本当に正妻――というか奥さんのように見えてしまう。
(凛さん以外に奥さんに向いてるんだなー、はっ、いけないいけない)
思わずライバルを認めてしまう。
しかし、それほどまでに凛は奥さんのように振舞っている。それも、ごく自然に。
凛の姿を見ているとため息が漏れる。
それと同時に自分ももっと頑張らねばと奮い立たされるもする。
「俺あんまり料理できないからさ、助かるよ」
自分が主人公だと思っていたが、やはり主人公ポジがイヴなのかと綾香は思う。
しかしその考えだと正妻ポジは――、答えは出したくないから綾香も席をたった。
「凛さん、あとで私片付けるから一緒に食べよ」
「あ、ごめんごめん♡ たべよか♡」
「うん」
とりあえず、明日からといわず帰ったら料理について勉強するか。
綾香はそう思いながら凛特製のシチューを口にした。
甘めのシチューは悔しい味がしていた。
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