17殺し合い
お化け屋敷から出てきた二人。
凛はとても満足げな顔で、イヴの顔は少しだけ赤らんでいる。
「どうだった、お化け屋敷」
綾香の質問に、凛は人差し指を舐め答える。
「刺激的、だったかな♡ ねぇ?」
チラリ、イヴをみる。
「ま、まぁな。驚くことが多かったな」
顔を逸らすイヴ。
(オイオイオイオイオイオイオイオイオイ、なんだその答えと反応は????????
イヴがメスの顔になってんじゃねぇか、凛オイ何しやがったオイ???????)
イヴが頬を染めるなど初めてみる反応である。
そして何より――凛が勝ち誇った顔をして綾香を見下している。
「刺激的って……お化け屋敷そんなに刺激的だったんだ? え、何が刺激的だったの?」
「んー、そうだなぁ……一番最後が刺激的だったかなぁ♡ 蕩けそうだったよ♡」
(お化け屋敷で蕩けるってなんだよ!?!?!??!!
なにやたら唇いじってやがるクソロリータがああああああああ)
刺激的、そして凛はやたらと指先で唇をいじっている。
赤らんだイヴの顔。
「まぁ、別にこれが初めてってわけじゃないしね♡」
初めてじゃない――。
綾香の脳裏には以前ツイッターにあげていたお姫様抱っこの写真が浮かぶ。
あの写真の中で、二人は頬にではあるがキスをしていた。
いじらしい指先。唇。
つまり。
「前園……テメェ……」
「フフフ、なぁに? あ・や・か・ちゃ・ん」
ゴゴゴゴゴゴゴ――
ペロリ舌を出す凛。
ぶち切れる綾香。
「次は何乗ろうかなァ? 次私選んでいいよな?」
わくわくしながら地図を見るイヴ。
静かに――とても静かに、されど激しく二人の決戦の火蓋が切られた。
二人にしか見えぬ火花が、今劫火となって燃え盛る。
次に乗りたいものが決まらず、イヴの提案でとりあえず食事を摂ろうということになった。
園内にあるフードコートに三人は腰を下ろすと、何を食べようかと並んだ店を見比べる。
「何にしようかなぁ」
とイヴ。
「私イヴと同じのがいいなぁ」
と綾香。
「私は違うのにするから、イーちゃんシェアしよ♡」
綾香はイヴに寄せたつもりだったが、凛はそんな綾香を簡単に超えてくる。
凛の冷ややかな笑顔が、綾香に向けられていた。
(こんのゴミクソビッチがああああああ)
(フフ、綾香ちゃん焦っちゃって♪)
「何にしようかなぁ、ラーメン食いてぇな」
一人さっさと席を立つイヴ。
残された二人はにらみ合いを続けるが、すぐに次の行動へと出た。
綾香は即座にイヴの元へ。腕を組んだりすることは出来ないが、それでも近くにいようと必死になる。
反対に凛は笑顔で違う店へと足を延ばす。
「俺醤油とんこつにしよ。味玉のせで」
「私もそうする!」
「結構ボリュームあるぞ? 食えるの?」
「任せて! イヴとのためなら頑張るから」
何故俺のために頑張るの、とイヴは首をかしげる。
だが、気にしても仕方ないのでイヴはさっさと会計を済ませると料理が運ばれるのを席で待った。
綾香もさっさと注文を済ませると、席に戻る。
「ごめーん、お待たせ」
戻った凛はトレイの上にチェイサーを3つ用意している。
「はい、イーちゃん、綾香ちゃん」
「お、ありがと」
「!?(しまった……こいつ水を持ってくることで気が利くアピールを!?)」
凛の攻撃はさらに続く。
チェイサーを置くと、すぐにでも呼び出し音がなり店へと足を戻す。
すると今度はすぐに出せるホットスナック類が数点。
数はあるが、3人でシェアしたとなれば小腹を満たす程度の量である。
「3人でシェアしよ♡ はい、イーちゃん、あーんして♡」
「あーん」
さっそくフライドポテトをイヴの口に運ぶ凛。
イヴもそれに倣って凛の口にポテトを運ぶ。
(ホットスナックならば簡単にあーんが出来るッッッ!?
しかも種類が多ければあーんの機会も増える……このロリータ、考えてやがる!)
今更ながらラーメンではなく、違うものにすればよかったと頭を抱える綾香。
しかも同じ品物を頼んだせいで、あーんなどすることもないだろう。
同じ味を選んでいる時点で、あーんの機会は失われている。
悔しがる綾香に、凛が勝利の顔を向ける。
(恋はね、策略と知識なのよ♪ あ・や・か・ちゃ・ん♪)
言わず視線に込めた思い。しかし、綾香には十分に伝わる言葉。
ピりりりりと呼び出し音がなり、イヴと綾香もラーメンを取りに行く。
「凛も少し食べるか?」
「うん♡」
「ほれ、あーん」
「あーん♡」
(くっそ、こいつ私を前に堂々とイチャイチャしやがる……!!!)
「うまい?」
「イーちゃんがくれるものはなんでも美味しい♡」
「それはねーだろ」
なんて言いながら笑うイヴ。
二人が密かに戦いを繰り広げているなど、イヴには分からない。
故に、イヴは純粋にこういった女子高生らしい行動を楽しんでいるようだ。
悔しがりながらラーメンをすする綾香。
食べてるのに集中しているせいなのか、会話は少なくなり次第に沈黙が訪れる。
静かすぎる食事。それは綾香と凛が静かに争っているからなのか。
否。
綾香は見てしまった。
ふとした瞬間に、テーブルの下に目をやると、靴を脱いだ凛が足先でイヴにちょっかいを出している。
凛の足はイヴの生足に絡まり、くすぐったいのかイヴも避けながらやり返している。
戦ってなどいなかった。戦っているつもりなのは綾香だけであった。
調子にのった凛の足先がイヴの股間へと伸びる。
「ちょっと、やりすぎだって」
「やん、イーちゃん感じちゃった?」
「バカいうな」
「へへへ。イーちゃんも私にやっていいよ♡」
(こいつらああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!)
イヴの代わりに、綾香の足先が凛の足をつねる。
「イタッ!?」
「私も仲間にいれてよー、私、足の力には自信あるんだよね」
ミチミチと綾香の足が凛の皮膚を引っ張る。
「え、ちょ、痛い! 綾香ちゃん、ストップ!(暴力女かよ! 今時暴力系ヒロインは流行らねぇんだよ!)」
「えー、そんな力入れてないよぉ。それにタイツ履いてるし大丈夫でしょぉ?(テメェの足引きちぎってやるよ)」
ガッ。
空いていたほうの凛の足が綾香の足をつねる。
「痛いっていってるでしょぉ~、綾香ちゃんがその気ならあたしも負けないよぉ」
ギリギリと足の皮膚を掴み、思い切り足を回転させる。
「イイイイイイ!? ちょっと、凛ちゃん強すぎー」
「なら、先にそっちが離してくれたらあたしも離すよー」
「そっちが先にやったんでしょー?」
「私は綾香ちゃんじゃなくて、イーちゃんと乳繰り合ってたの。つねってきたのは綾香ちゃんからでしょう?」
二人とも笑いながら、しかし、額に怒りのマークを浮かばせている。
どちらから引くことはない。
先につねるのをやめた方が負けだ。
互いの根性比べ。女をかけた戦いがまた始まっている。
「いやぁ、やっぱり三人いると楽しいなぁ」
「「そうだね」」
イヴに対する答えだけは気が合っていた。