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174新しい物語

 普段よりも遅く起きた。

家には誰もいない。祖父はいるはずだが、恐らく朝の散歩にでも出かけたのだろう。

ゆっくりと伸びをして、イヴは昨晩クローゼットから引っ張り出した卒業アルバムを開いた。

小学校の頃のイヴ、中学校の頃のイヴがそこにある。

今とは違う、六道イヴの姿がそこにある。

黒い髪、どこかオドオドとした表情。今とは違う、過去の記憶を持たない六道イヴの記録が残っている。


「六道イヴ」


 自身の名を呼んでみる。自分が自分であると確かめるように。


 電話がなったので出て見れば、学校の担任からの電話である。

なんの連絡もなく投稿していないから心配して電話したと聞き、イヴは謝罪して今日は休む旨を伝えた。


 電話を切り、再びアルバムに向かう。


「六道イヴ。俺はどんな人生を歩いてきたんだっけ?」


 アルバムに映る幼いイヴが困った顔をしている。





「ねぇ、お凛さん」


「なんでぇ、綾香ちゃん」


 放課後、カフェに立ち寄っていた綾香と凛。

綾香は何やら神妙な面持ちをすると、恐る恐る凛に尋ねた。


「聞きたいことがあるんだけど」


「なぁに?♡」


「竜司って誰?」


「おぉん……」


 竜司。

昨晩、イヴと舞依にあったとき、舞依はその名を口にしていた。

凛はその名に察しがついていたが、綾香はまだその名が誰を指すのか知らない。


「うーん……なんていえばいいのかな♡」


「男の人の名前だよね? それも、たぶん舞依さんの恋人の名前」


「……」


 しかめっつらでストロベリーシェイクをすする凛。

綾香の問いかけになんて答えればいいのだろう。

答えは知っている。だが、その答えは自分の口から言うべきではない。


 竜司とは、六道イヴの前世の名である。

そもそもイヴには前世の記憶があって、そのせいで色んなことが変わって。

前世の記憶に導かれるように、イヴは舞依と再会して。

過去が、イヴを竜司と呼ぶ。


「ねぇ、凛さんは知ってたりするんじゃないの?」


「うぅん、知っているというか、正確には知らないというか……♡」


「凛さん察しがいいじゃん。頭が働くことだけは認めてるんだからさ」


「そこだけ認めんなおかっぱ♡」


「ほれほれ綾香ちゃんに言ってごらん。吐いて楽になっちまえよ」


「ごめん、この話題だけは答え合わせできない♡ それに、これは凛のお口からいうことじゃないだろうし♡」


「どういうこと?」


 答えるなら、イヴだろう。


「イーちゃんに直接聞いてみれば?」


「そのイヴさんが本日学校をお休みでして」


「知ってる♡」


「ラインも未読でして」


「同じく♡」


「となれば、聞くのは凛さんしかいないだろうと」


「いつの間にかあたしたちの仲も長くなったね♡ もう随分話続いてるし♡」


「メタい話は抜きにしてさ。綾香ちゃんもイヴのことなら……知りたい」


「なおさらイーちゃん本人に聞くべきでしょ♡」


「そうなんだけどさ」


「珍しくしょんぼり綾香ちゃんじゃない♡ どったの?♡」


「なんだか……昨晩のイヴと舞依さんを見てたら、あの二人は私たちが触れちゃいけない世界線にいるんじゃないかって。

不安になっちゃって」


「脳筋でも不安になるのか♡」


「ツインテール引きちぎるぞ」


「前髪すかすかに切ってやろうか♡」


「おうおう、やるか? こちとら久々に滾ってる部分もあるんだかね?

三年ぶりの綾香ちゃんクオリティ見せつけようか??? おん????」


「めっちゃヤル気あるじゃん。いいよ、そこまで言うなら。

綾香ちゃん、アンタでもいいよ」


 結局、答え合わせは出来ぬまま二人は帰っていった。






 モヤモヤした気持ちのままに夜を迎えた。

ラインを見るが、まだ既読はつかない。


「はぁああああああああああああああ」


 上のパジャマとパンツだけの姿をした綾香はベッドにうつ伏せになると深いため息をつく。

 綾香の知らないところで、何かが起こっていた。

何かが起こっていたのかと思っていたら、昨晩その何かは終わりを迎えてしまった。

自分の知らないところで物語がはじまり、自分が知らないうちに物語が終わってしまった。


「はあああああああああああああああああ」


 そんなこといくらでもあるだろう。

この世界には何人もの人がいて、それぞれが己の人生を歩いているのだから。

ただ――それが自分の好きな人となれば話は別。

知りたくもなるし、できることなら好きに人に少しでも関わっていたい。

できることなら。

一緒に歩いていたい。


「って、綾香ちゃんは思うのですよ」


 またため息を吐きだしそうになったところを、スマホのバイブレーションが遮る。


「おっ!!!!!!!!!!!!!」


 綾香の物語はまだ、はじまったばかり。


「はい!!!!!!!!!!!!1 お電話ありがとうございます!!!!!!!!

 あなたの愛しの綾香ちゃんでしゅ!!!!!!!!!!!!!」


『あぁ、綾香。今電話平気?』


「もっっっっっっっちろん!!!!!!!!!!!! イヴのためなら24時間営業だよ!!!!!!1」


『相変わらず元気だな。なぁ、明日暇?』


「へぇ!!!!!!!!!!! イヴのためならいつ何時でも時間を空けるよ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼ よ!!!!!!!」


『そ。明日デートしない?』


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1」



次話は25日更新


感想、ポイントもおねしゃす!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「!!!1」 何個か「!」が「1」になってます。 [一言] 更新お疲れ様です。 なんて、ほとんどストーリーを忘れていたのですが? やっぱキャラが強烈なので? 読んでると何となく思い…
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