172けじめ2
幾度も撫でた。
「はぁんッ!♡」
幾度も触れた。
「ま、まだまだぁッッ!♡」
目にハートを宿したマリアは何度でも浴びせられる愛撫に、足を震わせながらも倒れずにいた。
「このサンドバック、なかなか根性あるじゃない」
数多の戦場を潜り抜けたテクニックが。
数多の折檻を経験した身体が。
「あっ、あっ、あッ……! あ、も、もうちょっと下で!!!!!1」
「ここか! このドM!」
「そこです!!!! ありがとうございます! ありがとうございまっす!!!!!!!!!」
「俺は何を見せられているんだ?」
イヴの目の前に広がる光景。
それは今までにみたことのない景色である。
元恋人がその経験と技術をフルに活用し折檻というなの愛撫をしている。
愛撫を受けるのは銀髪ロシア系メイド。メイドは目をハートにし、涎を垂らしながらもさらなる一撃を待っている。
「こんのクソメイドが!!!!!11 さっさと倒れろ!!!!!」
さらに速度をあげ、一際パワーをこめられた一撃がマリアの尻に炸裂する。
「ぴぎぃ!!!!!!! な、なんのこれしき!!!!! 桃子様の一撃に比べれば……!!!!」
「わたくし、あのメイド解雇しようかしら」
ジト目で二人を眺める桃子。
普段以上に喜ぶマリアに、桃子も内心穏やかではない。
わずかな独占欲が、わずかな後悔が胸の内に滲んでいる。
「あなたなんかの……あなたなんかの一撃で私は絶対に喜びません!!!!!!!!1」
「いってろ、ゴミ!!!!」
「あぁッ!!!!! 桃子様……桃子様の一撃に比べれば……!!!!」
「比べればなんだってんだ!!!!」
距離を置いた二人が制止する。
荒い息、零れる涎、火照る身体。
「桃子様のほうが……!!! のびしろがあります!!!!1」
「……そらそうでしょ。私はもう」
舞依の視線がイヴを見つめる。
(……わかってたよ)
再び、一撃がしなる。
(あの時――、終わってた)
マリアの涎が宙を舞う。
(あの時――竜司が死んだとき)
舞依のインパクトから力みが消えていく。
(私と竜司の物語は終わったんだ)
舞依の涙が零れる。
(わかったよ)
必死に喜びを我慢するマリアは、何度でも立ち上がる。
(そんなに見せつけないでよ)
「わ、私だってまだ……!!!」
気絶していた綾香が立ち上がる。
(もう分かったよ)
「凛ちゃんだって、まだやれるんだから!!!!1」
綾香に続き、凛も立ち上がると再び舞依へと向かう。
(ははっ、生まれ変わっても――)
綾香が、凛が、マリアが。そしてその先にいる竜司₍イヴ₎が。
(あなたは生まれ変わっても同じなんだね。私は――)
マリアが右腕を、凛が左腕を掴んだ。
「逃がさない!」
「綾香ちゃん!」
「うおおおおおおお!!!!!」
拳ではない。
見よう見真似の綾香の愛撫が――舞依の腹部へと炸裂する。
(ねぇ、竜司)
イヴを見る。
その表情は曇っていて、可愛らしい女の子が泣いちゃう寸前のような顔をしていて。
(もう、私も)
綾香の一撃が、舞依に膝をつかせた。
(前に進めるから)
「舞依……」
イヴの瞳に映る愛しかった人は、膝をつきながらも潤んだ視線でイヴに何かを訴えている。
(最後に呼ばせて。私の大好きだった人の名を)
「イヴは、イヴはあんたなんかに渡さないんだから!!!!!」
綾香の絶叫も、今の舞依には届いていない。
「竜司」
「……!」
「大好きだったよ。ずっと、愛してた」
一粒の涙が、零れた。
次回は明後日の朝8時更新予定。
ポイント、感想おなしゃす!!!