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172/203

171けじめ

 突如として前に出てきた車体に、イヴたちが乗っていた車も急ブレーキがかけられる。

驚く間もなく姿を見せたのは綾香である。

その目には赤い光を宿し、闇夜に舞い上がる姿は人のそれではない。


「EVEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!!111」


「綾香!?」


 イヴと舞依も外へと出る。

 すでに舞依へと標的を定めていた綾香は両手を拳にすると舞依へと振りかざす。


「綾香、待て!」


「ガルルルルルル!!!!!!!1」


 女子高生から並外れた肉体。

いつしか鍛え上げられたその筋肉はすでに人間の域を脱している。


岩ならば砕け―――


鉄ならば突き破り―――


人が受ければ即死は免れないであろう一撃。


 だが。


 イヴが止めたのは綾香ではなかった。

そんな綾香を前にして、笑顔でいる舞依に向けた制止である。


「なんだ、かわいい女の子じゃん」


「!?」


 綾香の渾身の一撃が、いとも容易く避けられた。


 間髪――


 獣へと化していた綾香の額に多量の脂汗が噴き出した。

今しがた攻撃した対象から発せられた殺気。

その殺気は綾香母が本気を出したときの殺気にも似る。


「舞依、よせ!」


 イヴの絶叫に、舞依は笑った。


「大丈夫、傷つけたりなんかしないから。でも――」


 舞依の眼が見開かれる。

瞬間、舞依の両腕が超高速で鞭のようにしなった。


「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!1??????」


 倒れこむ綾香。

一体なにが起こったのか、綾香には一切わからなかった。

あまりにも一瞬、あまりの素早さに目視することなど出来ない。

だが、身体に走る衝撃だけは確かに感じる。


「ら、らめぇぇぇ……」


 その表情は、恍惚そのものだった。


「あらごめんねぇ、未開発だった?」


 半開きの眼、涎を垂らす口。

 殴りはしない、打ち付けはしない。

ただ、ただ。


 何が、起きたのか。


「太もも、腹部、脇、胸部、首筋、耳……」


「……?」


 だらしなく涎を垂らし倒れる綾香に、舞依が笑顔で見下す。


「急所と言われる急所をすべて、愛撫しただけよ」


「!?」


 たったの一瞬。

たったの一瞬愛撫されただけで、綾香は天国にものぼる衝撃に身を砕かれたのである。


(な、なんて人……!)


「あなたには刺激が強かったかな?」


「だからやめろって……」


 身を持って経験したイヴだからこそわかる。

舞依のテクニックは尋常ではない。


(そんな……そんなバカな! わたしが……わたしが、こんな女に……!)


「じゃぁ、トドメを刺してあげるね」


 しなった舞依の腕を、今度は凛の手が止めた。


「綾香ちゃんが一撃で死ぬなんて♡ でも、まだよ。今度は凛がッ」


「はい、終わり」


 スパァン! と勢いのある音が響いたと思うと、凛の身体が崩れた。

また、何をされたのか分からなかった。しかし、正直な身体は下半身に電撃が走っている。


「!?!?!?」


「手だけが凶器じゃない。足だって、ほら」


 腰を抜かした凛に、舞依は自身の長く伸びた足を見せた。

その足はわずかな間接しかないはずなのに、まるで蛇のようになめらかに動いて見せている。


「そ、そんな……」


「技術、経験、あなたたちとはレベルが違うの」


「く、ま、まだ凛だって……!」


「おやすみ」


 舞の両手が、両足が、凛の全身にあびせられる。

綾香と同様、凛は恍惚の表情を滲ませながらも、わずかに悔しい表情を見せながらその場で息絶えた。


「綾香、凛」


「さて、これで終わりかな? なんだ、ちょっとワクワクしたのに――」


 余裕の表情の舞依。

そんな舞依の前に次に出たのは、マリアだ。

桃子のメイドであるマリアが、今度は自分の番だと言わんとばかりに舞依の前へと出ると、一礼して舞依へと対峙している。


「かわいこちゃんたちの次はメイドさん? イヴったらいろんなお友達がいるのね」


「あなたがどのような方か存じませんが――、桃子様の脅威である以上、仕留めさせてもらいます」


「やってごらん?」


 舞依の腕が一閃する。

綾香も凛も一撃で身体を砕かれた一撃。

手ごたえはあった。しかし、マリアも綾香と凛とは比べ物にならない技術と経験の持ち主である。


「たおれ……ない?」


 その場に直立不動のマリアに、舞依は再び両手をしならせる。


「ふ、こんな技」


「あなた……」


「桃子様の折檻に比べれば!!!!!!!!11 子供遊びも当然!!!!!!!1」


「あらよっと」


 蛇のように動く足がマリアの股間を撫でた。


「あぁッッ♡ そこはッッッ♡」


「まだ倒れないか」


「くっ!!!! この程度で倒れるドMじゃありませんわ!!!! さぁ、何度でもかかってらっしゃい」


「へぇ、あたしもドSだからさ。丁度いいサンドバックになりそうだね」



三年ぶり更新。

待たせたな。感想くれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] おまっ、生きてたんか!?良かった。
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