169暗い、食らい、CRY
じゃれあいながら、舞依はいつの間にか泣いていた。
このじゃれあいをどれほど望んでいたんだろう。
手を伸ばしたって、いくら欲望を叫んだって、どれだけ神に祈ったって届かないと思っていた時間。
「あはは……アハ、あははははは!」
「な、何笑って……」
腹を抱えて笑い出した舞依に、またもイヴは怪訝な顔を一瞬向けたが、その顔はすぐにでも切なさに染まる。
舞依は、泣いていた。
笑いながら、大粒の涙があふれ出るのを止められずにいる。
止められぬ涙に、両手で顔を覆うとその場に小さくなって蹲る。
「舞依……」
「あは、あはは……う……ひっく……ぃっく……」
下を向いたまま、涙をいくつも零す。
顔を覆っていた濡れた手が伸びると、イヴの手を掴む。
「舞依」
「さ、寂じがっだ……も、もう゛……あ、逢えないって……」
その言葉が、どれだけイヴの心を抉ったことだろう。
例えようのない衝撃が、イヴの心臓を握り殺す。
「そう……だよな。ごめんな。本当にごめん」
「テ、テレビを見て……見てたらね……ぃっく……近所で……発砲事件があっだっで……
わ、わだしの気持ちが分かる!? 大好きな人の死を、ニュースで知る気持ちを!!!!」
「……ごめん」
「お葬式だって、ヤクザの人ばっかりで……参加なんか出来なかった……
急に恋人に先立たれて! もういないのに、部屋には竜司が残ってた!!!」
「ごめん、本当にごめん」
「毎日毎晩泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて!
何回も後を追おうと思った! 分かる!?
このまま電車に飛び込めば逢えるかなって! このまま飛び降りれば逢えるかなって!
なんっっっっっかいも考えた!!!!!」
「……」
もうイヴには言葉はなかった。
言葉の代わりに、イヴは舞依の小さく震える身体を抱きしめる。
「逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて
逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたくて逢いたかった」
震える背中を、優しくぽんぽんと宥め続ける。
「悪かった。舞依」
「逢いたかった。死ぬほど逢いたかったんだよ、竜司……」
「あぁ」
涙に崩れた顔がイヴを見る。
どちらからとも言わず、唇を重ねる。
「はは……唇……ずいぶん柔らかくなっちゃったね……」
「女になっちまったからな……」
「ね。もうち〇こなくなっちゃったね」
「だな……」
「こんなに可愛い子になっちゃって。美人で若くて……金髪巨乳とか、どこのモデルだよ!」
涙をぬぐい、笑ってくれた。
「地毛は黒かったんだけどな。地味だし、どうせならって染めたんだ」
「そっちのがいいよ。前とは違うけど」
「まぁな」
涙顔が、笑顔に変わっていく。
何度も見た笑顔。何度も救われた笑顔。何度でも見たいと思った笑顔。
あの頃の笑顔が、今。
「ねぇ、お話しよーよ。竜司がイヴになるまでの話、聞かせてよ」
「そうだな。あれは――……」
長い長いイヴのエピソードが今に繋がっていく。