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16お化けより怖いもの?人ですかね

 暗い廊下に切れかけた電灯がチカチカと光っていた。


「凛怖い?」


「ちょっと怖いかな。腕握っててもいい?」


 答えなど待たず、凛は腕を組むとその腕をぎゅぅと自分のほうへと抱き寄せる。

そうして、あえてそうしているのだが、イヴの腕を自分の胸へと押し付ける。


(フフフ、綾香ちゃん、悪いわね。イーちゃんは私のものなの)


 ガタン!

静寂だった廊下に、いきなり天井からゾンビが落ちてくる。


「きゃ!」


「うわーびっくりした」


 ぎゅううううううう。

凛はここぞとばかりに腕だけでなくイヴに抱き着く。

くびれのある腰に手を回すと、その感触を確かめるように摩る。


「怖いよぉ、イーちゃんは平気なの?」


 潤んだ瞳で上目遣い。


「驚きはするけどな。でも、ちょっと楽しい」


「イーちゃん凄いね! あたし怖くて(もっと演出こいよオラ)」


「とりあえず進むぞ」


「はい♡」


 廊下を進むと、狭い通路へと出る。

壁がふすまになっており、ところどころが破れている。

恐る恐る一歩踏み出す。


『ぎゃああああああああああああああああああ』


 どこからともなく聞こえる男の悲鳴。

すると、襖の穴から真っ白な手が飛び出してくる。


「!?」


「イーちゃん怖い!!!!」


 正面から抱き着き。

 凛の手はイヴの尻へ。

 顔は胸にストライク。

 胸へと抱き着いてきた凛を、イヴも思わず抱きしめてしまう。


「うわー手がいっぱいあるぞ」


「やーん、イーちゃん怖いよぉ。護ってぇ」


「おう、任せろ」


 狭い通路を抱き合ったままに進む。

全ては凛の思惑通りである。

怖がったと見せかけて、さりげなくボディタッチ。

ハグでもタッチでも、この空間なら思いのままである。


 狭い通路を通り抜けると、今度は冷たい空気が流れ込む青白い空間だ。

崩れかけた墓石がいくつもり、何故だか井戸も設置してある。

凛は井戸に狙いを定めると、『怖いよぉ』なんて言いながらも井戸のほうへとイヴを引っ張る。


 ガシャン!


 音がしたほうを振り向く。

しかし、見れば墓石が崩れただけである。

ほっと胸をなでおろし、振り返ると――


「ヴぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


「うおあ!?」


「きゃぁ♡」


 振り返った瞬間、そこには顔の皮膚が剥がれた女の白装束の姿があった。

イヴは思わず拳を握り、凛はどさくさに紛れてイヴの乳を掴む。


「あぶねー。びっくりして殴るとこだった」


「びっくりしたね! 心臓止まるかと思った♡」


 再び歩き出す二人。

凛は胸から手を離すと、今度はイヴの手を開かせて恋人繋ぎをする。


「手、握っていい?」


 再び上目遣い。


「おう」


「怖すぎておしっこちびりそう……」


「そこまでじゃねぇだろ?」


「本当だよ。見てみる?」


「何を見るんだよ……」



 今ごろ、凛は驚いたふりをしながらイヴに絡んでいるのだろう。

ジェットコースターですっかりグロッキーになった綾香はお化け屋敷前のベンチに座っていた。


「あんのクソアマ……」


 未だに内臓が浮いたような感覚に、綾香はうぅと声を漏らす。


 全てはこのときのため。凛はわざと負けた。

もっと考えておくべきだったと、綾香は自分の浅はかさを悔いた。

遊園地――そりゃお化け屋敷の一つもあることだろう。

きっと、凛は事前に下調べなどはすませていたはず。

きっと何通りも未来予想を立てて、今日の日に臨んでいたはず。

もしかしたら、それはグループ決めのときから考えていたことかもしれない。


「このままじゃ、イヴが奪われる……!」


 なんとか策はないものかと、スマホをいじる。


『遊園地 デート』


『遊園地 親密になる』


 アンド検索をしながら、それらしい記事を漁る。

 そこで一つ、これならいけるかもしれないというものを見つけた。


『観覧車の密室で親密になっちゃおう!』


「これだ!」


 綾香は記事をスクロールする。


「うぅむ」


 確かに観覧車であるならば、親密にはなれそうだ。

だが、それはあくまで二人きりの場合。

今は凛がいる。

凛を出し抜くにはどうしたらいいか――。

二人きりで乗るにはどうするべきなのか。


 綾香は検索を続けた。



◇ ◇ ◇



 もうそろそろお化け屋敷のルートも終盤である。


(そろそろアレを使うか……)


 凛はわざと腰が引けたような歩き方に変えていくと、演出のタイミングを待った。

イヴの腕に抱き着きながら、通路を進む。


 正面にあった扉が開かれると、いきなりゾンビの大群が目の前に現れた。


「!?」


(来た!)


 ゾンビたちは大声をあげながら、二人の横を通り過ぎていく。

身構えるイヴ、ここぞとばかりに腰を抜かす凛。

大量のゾンビたちが通り過ぎると、凛はその場に女の子座りして動かない。


「凛、大丈夫?」


「ふうう……腰抜けちゃったカモ……立てないよぅ」


「マジか。肩貸そうか」


(そうじゃない!)


 肩を差し出され、凛はイヴの肩に手を回すが、それでもうまく立つことが出来ない。

勿論、演技である。

凛の狙いは、その先にある。


「イーちゃぁん抱っこしてぇ」


 嘘涙ほろり。


「しょうがねぇ、ほれ」


「ありがとう、イーちゃん♡」


 首に腕を回して、抱かれる凛。

ロリータ服の凛、そして白いシャツのイヴは王子様とお姫様のようである。


 そして、凛の最終作戦はまだ終わっていなかった。

このまま扉の向こうへ行けば、光差す出口である。

そう、暗闇はこの通路が最後。

散々下調べはしてきた。凛にはお化け屋敷のルート、構造が全て頭に叩き込んであった。


「ちょっと待ってイーちゃん」


「どした?」


 立ち止まるイヴ、凛は首に回していた手で頬をなぞる。

指先が、頬から唇に流れていく。


 指先が離れ、代わりに凛の唇が重なる。

凛の舌先が、イヴの中に入る。


「抱っこしてくれた、お・れ・い♡」


「……今のが一番びっくりしたわ」


「お姫様から王子様へ、キスのプレゼントだよ♡」



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― 新着の感想 ―
[一言] 舌を入れただと…
[気になる点] お泊まりの時は99%女口調だったのに後日のオリエンテーションではただの男口調になってるのは作者の気まぐれですか? たぶん深いわけはないのはわかるけど情緒不安定なのかと思ってしまう。 […
[良い点] 脳筋綾香 VS 策士凛 何という戦い、ていうか綾香ちゃん脳筋すぎて弱すぎる!でもそこがまた可愛くて応援したくなるなぁ。 それにしても、凛ちゃんがこんなどすけべキャラだったとは!えっち過ぎ…
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