159I love you baby
あまりに乙女な顔をしてそんなことを聞くものだから。
イヴはなんて答えればいいんだか迷ってしまう。
好きになる、といえば相手に期待をさせてしまいそう。
好きにならないと、といえば相手を傷つけてしまいそう。
淡く儚げな少女にはどちらの答えを言ったとしても、その心に何かしらの爪痕を残してしまいそうだ。
だから、一枚上手なイヴはずるい質問で返してしまう。
「何でそんなことを聞くの?」
「ぇ、ぃゃ……あはは、ちょっと……気になったからさ……」
頭を掻いてごまかすように笑う顔も、まだ乙女が抜けきっていない。
ちょっぴりシュンとしたような顔は、まだ何か期待しているんだろうなとイヴは思う。
「さ、最近ね」
「おん」
「凛ちゃんに色々貸してもらったりもしてさ……
映画とかも見たの……女の子同士の……そしたらさ」
「おん」
「その、なんていうか……女の子同士のアレ……くっついてるシーンがさ
凄く……綺麗というか、感動しちゃって。
男同士のは見慣れていたんだけど、女の子同士のも……いいなって」
人差し指と人差し指をくっつけながら美里は早口に言う。
言い訳。ずるいイヴに対する返答。
自分の意見。
「あー、リアルに想像したりしたことなかったけれど」
男と付き合うのは御免であるイヴだが、実際に女の子と付き合う場面は想像したことがなかった。
女の子×女の子が付き合うのはどんな風だろう。
想像してみるが、なんだか今までと変わらない気もする。
今目の前に美里がいるからか、美里と付き合ったら。なんて想像をしてしまう。
きっと普通にデートして、普通に色々な思いでを残して、きっと夜は――……。
棒がないだけで、別に問題はないように思えた。
「女の子同士もいいんじゃない。今は個性が尊重される時代になりつつあるしな。
ちょっと想像してみたけれど、悪いもんでもなさそう」
「そ、そっか」
「みーちゃんは女の子が相手でもいいの?」
今一度美里の目を見つめてみれば、潤んだ瞳が恋したようにイヴを見ている。
「たぶん……大丈夫かな」
ピロン、と音が鳴った。
イヴはポケットからスマホを取り出すと、桃子からラインがはいっている。
内容はやりすぎたという謝罪ともうしないから帰ってこいという内容である。
両親や祖父から帰ってこいと言われるなら分かるが、先輩に自宅に帰れと言われるのはなんだかもやっとする。
「誰から?」
「パイセン。反省してるから帰ってこいって」
「そ、そっか。じゃぁ……帰る?」
「んー、そうしよっかなぁ」
「そ、そっか。分かった……」
どこまでも残念そうに、美里の顔から色が消えていく。
でも、このままいたら何か――起こってしまいそうな、発展してしまいそうな気がしてイヴは立ち上がる。
「匿ってくれてありがとうな。また遊びにきていい?」
「うん。もちろん。せっかくおうち近いんだし、いつでも……」
一歩前へ。
美里も一歩前へ。
ドアノブに手をかけて扉を開く。
二人きりの時間はもうここまでである。
(このまま泊ってたら――)
長い金髪伸びる背を見ながら、美里は思う。
(へ、変な感じになっちゃうもんね――)
想いとは裏腹に、美里の手はイヴへと伸びた。
「……みーちゃん?」
伸びた手はイヴを包み、美里は想いとは別の行動をとっていた。
後ろからイヴのことを抱きしめると、そのまま力強く離さない。
「泊っていきなょ……もぅ……遅い……カラ」
抱きしめられたまま立ち止まるイヴ。
ドアノブにかけていた手が、美里の手のひらに重なった。