152火花(タイトルに意味はなくてよ)
それからして、イヴが目を覚ましたのは昼を過ぎた頃だった。
その間に何があったのかは、あまり考えたくはない。
ただ床の上にはメイドとかすみが衣類を乱した状態で息を荒くすると、戦いを終えたように倒れていた。
赤くなった顔、やりきった顔のかすみ。両手で顔を隠すメイド。
「はぁ、はぁ、た、楽しかった」
「もう二度と……こんなことはごめんですわ」
「途中からあなたもノリノリだったじゃない」
「そ、そんなこと!」
立ち上がり、二人の前を横切って部屋を出ていく。扉の前にどちらかのものであろうパンツが落ちていたが、イヴは気にしないことにした。
桃子を抱き枕にして寝たせいか、身体はびっしょりと汗を掻いていた。
エアコンは効かせたはずだが、それでも二人寄り添って寝れば熱を帯びる。
まだ寝足りないのか、頭はぼんやりとしているし、身体は火照っている。
風呂に湯をはりながら、服を脱ぐ。
軽く身体を流すとまだ溜まり切っていない浴槽に浸かってぼんやりと曇りガラスの向こうにある空を眺める。
窓の向こうからはセミの鳴き声がして、明るすぎる光が差し込む。
(アンナ今頃なにしてんだろうなぁ)
前回風呂に入ったのは病院である。
そのときはアンナも一緒だった。
イヴは先に退院したが、アンナはまだ入院中。
骨がよくなるか、もしくはある程度動けるまでは外には出られないであろう。
これも何かの縁だろうと、風呂からあがったらラインの一通でも送ろうかと考える。
しかしながら、旅行先のコンビニで出会ったヤンキーとまたこうして出会うとは思ってもいなかった。
どういう運命なのか、地元も同じで高校も同じなど、何かの巡りあわせにしか思えない。
(想えば――)
アンナと病室が一緒になったから、記憶が戻った部分もあると思える。
アンナの声掛けや、暇つぶしにしたゲームそれらが釣り針となるとイヴの記憶を釣りあげたようだ。
(あいつも学校に友達いねぇっていってたな。
退院したらつるんでやるか)
見た目も言動もヤンキーっぽくあるが、イヴからすればそれは親しみやすい部分でもある。
前世がヤクザだからか、ああいった人種とはすぐに打ち解けられる。
現に今だって。
アンナが病室でくしゃみをしたことなど、イヴは知る由もない。
「六道!」
「おん」
叫び声と共に扉が開くと桃子が全裸の状態でない胸を張っている。
湯気のせいで大事な部分は見えないが、それでも低身長と起伏の無い身体が幼児体系なのはすぐに分かる。
「わたくしを置いて、なにを一人で湯あみなどしてらっしゃるの!」
「汗かいたんだもん」
「わたくしにも一声かけてくださる!? もし六道が一人になったとき、田中に襲われたらどうするの!」
「メイドさんと一緒にくたばってたし、大丈夫だろ」
「万が一あってあるわ! あの性欲の塊にはいつだって油断ならないのよ!」
シャワーで身体を流しはじめる桃子。
いつもの縦ロールが解かれると、その長さは肩甲骨を越えて伸びている。
「結構毛長いんだね」
「伸ばしているのよ」
「なんで?」
「そのほうが乙女らしいでしょう?」
「まーね」
「出来ればあなたくらいには伸ばしたいわね」
自身の毛をつまんでみる。
確かに長い。腰まで伸びそうな髪はお湯に浸かると海藻か水草のように漂っている。
「あなたはどうして毛を伸ばしているの?」
「んー、女の子だから?」
「一緒の理由じゃない」
シャンプーで泡だらけになった頭をわしゃわしゃと洗う桃子。
まだぼんやりとした意識で桃子をただ見つめるイヴ。
ただなんとなく。なんとなーく悪戯心が働いて、シャワーの温度を水に変えてみる。
頭を洗い終わった桃子が蛇口をひねる。
「ぴぎゃ!」
「ぷ」
「みず! やだ、冷たい! 水だわ!」
「桃子パイセンウケる」
「ちょ、六道! 何をなさったの! 早くお湯に戻して!」
「へいへい」
お湯に戻すと桃子はやっと頭の泡を流す。
洗い終わって顔をこするとイヴのことを恨めしそうに睨んでいる。
「あなたがこんなことをするなんて思いませんでしたわ!」
「楽しくない?」
「楽しくなんかありませんわ!!」
長い髪をヘアゴムでお団子にすると浴槽へと足を延ばす。
イヴは少し端によると二人して肩までお湯に浸かる。
「風呂からあがったらまた寝ようかな」
「寝たりないんですの?」
「頭ぼんやりするしね」
「また抱き枕になってさしあげましょうか?」
ちょっとだけ恥ずかしそうな桃子である。
「いや、また汗かくしいいよ。パイセンも寝苦しいでしょ」
「別に大丈夫よ! 抱き枕くらいいつでもなってさしあげますわ!」
「おん。じゃぁ、また今度」
「いつでもわたくしの胸に飛び込んでらっしゃい!」
「胸ねーじゃん」
「これから育つのよ!」