148新しい同居人
数日の検査を経て、退院の日がやってきた。
玄関先まで見送りにきてくれたのはアンナと看護婦の田中かすみだ。
「じゃぁな、イヴ」
「おう。すぐ見舞いにきてやるからよ」
「おうちに帰っても無理しないでね」
「おう、ありがとう田中さん」
父親と共にタクシーに乗りこむ。
タクシーがタイヤを進めはじめると、アンナとかすみがいつまでも手を振っている。
同じく、イヴも二人に手を振り続ける。
二人の姿が見えなくなっても、二人もイヴの姿が見えなくなっても手を振り続けた。
「イヴちゃん、もう大丈夫?」
「おん、平気平気。日常動作に問題なんもないよ」
「そっか。良かった。お爺ちゃんも心配してたよ」
「あぁ、そういやいたな。忘れてた」
「あーあー、お爺ちゃんそんなの聞いたら悲しむよ」
タクシーが走る事数十分。
イヴにとっては数日ぶりの自宅である。
旅行の経験が濃すぎたせいか、またそこから入院期間があったからか随分と久しい気持ちになる。
まるで何か月も家に帰っていなかったような心地。
タクシーがきたのを音で分かったのか、玄関が開くと祖父がひょっこりと顔をだす。
「お、じーちゃん、生きてたか!」
「クォライヴ! おめばじーちゃんのことほっぱらかすて!!!
じーちゃんがどんだけすんぱいすたとおもっでんだ!」
「おー、悪い悪い。心配かけたなじーちゃん」
「もーオラァすんぱいですんぱいで!
夜は6時間すかねれねーし、体重が3キロも増えたでよ!」
「がっつり寝てるし食ってんじゃねーか」
「ったく! すんぱいかげて!
退院できてよがったなイヴ!」
「おう、あんがと」
イヴのことを祖父に任せると、父親は仕事へと向かった。
本当は母親も残るつもりではあったが、そこは子を孕む母。イヴは心配は無用だとし、母を再び実家へと戻らせていた。
家の中へとあがりこむと、ふと気になるものがあった。
玄関口にあからさまに女物の靴が置いてある。
ベージュ色の高級感のあるパンプス。見たことのないそれは友人たちのものではないだろう。
「……じーちゃん、誰かいんの?」
「おるよ」
「だれ?」
「看護婦さん」
「なんで?」
まさか――そんなわけないだろうと思いながらイヴは恐る恐るリビングへと足を運ぶ。
もうすでに廊下にはガーリックで美味そうな匂いが漂っている。
恐らくは誰かがキッチンで料理をしているのだろう。
いた。
見覚えのある姿の女が。
ゆるく巻かれた茶色い髪、看護婦の服を纏った女性。
何故か入院中にみた人の姿が自宅にある。
「もしかして……田中さん?」
「あら♪ イヴちゃんおかえり♪
ごはんにする? お風呂にする? それともかすみお姉さんとイケナイ診察する?」
「なんでいんの?」
「今日からイヴちゃん専属のナースになりまぁす♡」
「だから、なんで?」
「なんでも♡」
「いや、マジでなんで?」
「南沢桃子ちゃんが高額で雇ってくれるっていうから病院辞めたの。
そこから桃子ちゃんはイヴちゃんのご両親とも連絡を取って、私を六道家専属ナースにしたの♡」
「はいぃ?」
「んだんだ。いいでねぇかこんなべっぴんさんがいるなんでよ。
それに看護婦さんいたほうが安心だべ」
「いや、安心出来無い気がするんだが???
てか、じーちゃんもお袋も親父も知ってるの?」
「すってるよ」
「まじ」
「まず」
「だから、しばらくは六道家のごやっかいになるからよろしくね♡
24時間、性神性意ご奉仕しちゃうから♡」
バチンとあざといウィンクが炸裂する。
飛んできたハートを手で跳ねのけるとかすみは『いやん♡』とうざったい声をあげている。
しかし、両親が承諾しているのならばもうイヴが反発したところで結論が変わることはないだろう。
それに両親からしてみれば看護婦が在中しているほうが、安心といえば安心だろう。
ただイヴからしてみれば
(あたしの貞操が安心できねーんだが)
といった状況である。
「まじかぁ。まぁ、いいんだけどさ……病み上がりだから面倒なことはしないでね、田中さん」
「勿論! 体調治ってから襲うから!」
「いや、体調治ったら帰れや」
「いやん!」
あざとく動かす腰。
桃子が何故メイドのケツをあれほど引っぱたくのか、イヴには少しだけ気持ちが分かった。
ポイントおなしゃす!!!!!
↓↓↓↓↓↓↓↓↓