145ロストメモリー
ガチャン。
ガチャン。
ガチャン。
鎖のなくなった宝箱にそっと手を伸ばす。
蓋を開けてみればそこには輝かしき想い出の数々が花となっている。
白百合の花。
芳しき一凛を手に取れば、心地よい香りが吸収される。
◇
「で、おめーは何してんだ?」
病室に残されたアンナとユリカ。
ユリカはイヴのベッドに潜り込むと枕に顔を埋めて可能な限り深い深呼吸をしている。
「何って決まってるじゃないですか。久しぶりのイヴさんの匂いを堪能しているんですよ。
あぁ、イヴさん。イヴさん。私の女神。スウィーティー。
ソーすうぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいてぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!1」
「あれか、お前は変態なんか?」
入ってきていきなり自害しようとした姉も気が狂っていると思えた。
そしておそらくはその妹であろうこのおさげ髪も同様にアンナには狂った存在に思える。
もしくはゴリゴリの変態であるか。
まだ見た目は幼いのに、このような痴態に及ぶなど将来が楽しみに思える。
「金髪のあなた。少し出ていってもらえませんか?」
「なんで?」
「そりゃぁ……」
赤面顔でへへへと笑うユリカ。
その顔のなんといやらしいことか。なんと恍惚としたことか。
「まじでやべーな、お前ら姉妹は」
「私がどれだけ我慢したと思ってるんですか。本当はすぐにでもイヴさんに逢いに来たかったんですよ。
ですが、正直合わせる顔がありませんでした。
イヴさんの記憶喪失には私にも責任があります」
「責任あるとか言ってるやつがすることじゃねーな」
「それとこれとは別です。食う寝るヤるは人間の本能。
煩悩には逆らえないのです」
そういってユリカは枕に残ったイヴの香りを吸い込む。
枕がユリカの中へと吸い込まれそうなほどに深呼吸すると、ユリカは恍惚とした表情を見せている。
「イヴも大変そうだな。周りはこんなイカレ野郎ばかりなんか?」
「そうですね。ご安心ください。あなたもきっとイカレ野郎ですから」
「おぉん。うちはノーマルだよ」
「絶対嘘」
「別にうちはイヴの彼女ってだけで何もねーよ」
「ほら、やっぱりイカレてる。今度は妄想野郎の登場です。
どいつもこいつもイカレてます。あーイヴさんが可哀想。
今すぐイヴさんを連れ去って養ってあげたい」
「イヴは周りにこんなんばっかりなのかなー。記憶思いだしたら大変そうだ」
そう言っていると、話題の人であるイヴが綾香と共に病室に戻ってきた。
その表情は――乙女っぽい。少女らしい可憐な表情、そして溢れる慈しみのオーラ。
先ほど話していたイヴとはまるで別人のようだ。
「おかえり、イヴ」
「ただいま。アンナ。まさかアンナと一緒の病室になると思わなかったね」
「お? なんか様子がちげーな」
「戻ったよ、記憶」
あまりにあっさりと言うものだから、アンナは思わず『へぇ』とだけもらす。
「記憶戻ったんか。じゃぁうちの初めて奪ったの思い出したか?」
「はじめても何もあんなん事故だろ。事故。
たまたまちゅーしちゃっただけだろうが、なのに彼女面するとは」
「おーまじだ。記憶戻ってんじゃん」
ベッドに腰を下ろす。そこには痴態を見られてしまったユリカが固まっているが、イヴは構わない。
むしろもぐりこんでいたユリカの頭を撫でると、清々しいまでの表情をしている。
「ユリカちゃんも心配かけたね」
「い、イヴさん……?」
固まったまま返事をする。
「まだ完全じゃないけど、随分と思いだせたよ。
ユリカちゃんもありがとうね」
「い、イヴさあああああああああああああああん!!!!!」
がばっとイヴに抱き着く。
痴態を見られた嬉しさもあるが、記憶が戻ってくれたことが嬉しくてユリカは涙が流れる。
抱き着いてきたユリカをよしよしするイヴ。
「でも、どうして記憶戻ったんだ?」
「えっとね、綾香とはじめて会った時のことを想いだしたの。
そしたら――芋づる式にどんどん記憶が溢れてさ」
「へぇ。そいつは良かった」
「うん。とりあえず皆にも教えないと」
ユリカをよしよししつつスマホに手を伸ばす。
たまりにたまったライン。それらに返信ではなく一言『記憶戻ったよ』と打ち込む。
そこからナースコールを押すと、やってきた看護婦にも記憶が戻った旨を伝える。
すぐにでもそのことがしらされると、イヴは急遽ではあるが再度検査が行われることとなった。
「うぅ、良かった。本当に良かった。イヴが元に戻って」
「ありがとう綾香。綾香が来てくれたおかげだよ」
「ゔぅ、もし記憶喪失のままだったらどうしようかと――
もしイヴの記憶が戻らなかったら、一生私が養うつもりだったよ。
何不自由なく暮らせるように、私が一生寄り添ってくつもりだったよ。
私のせいで――」
「それって金銭面も?」
「も、もちろんだよ!」
「あ、ごめん、やっぱり記憶なくなってる気がする」
「ふぁ!?」
「ははは、じゃー綾香だっけ? おめー一生イヴを養わねーとな」
ふざけるイヴ、それを笑うアンナ。
「い、いいよ! 綾香ちゃん一生イヴを養うよ!!!!!」
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