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143辞世

 ホイッスルの音が体育館全体に鳴り響いた。

体育の時間、バレーをしていた。

高くジャンプした綾香は着地に失敗すると足を捻挫してしまっている。



 痛みから立つこともままならず、足首をさするとそのまま蹲っている。


「おい、大丈夫か」


 見かねたイヴはそんな綾香に駆け寄る。


「あ、ありがとう」


 差し出した手に綾香の手が重なる、だが立ち上がろうとするがうまく立つことが出来ない。


「足首イっちまったな」


「はは、そうみたい……」



 鮮明に映し出される記憶の中。

綾香とのはじめての思い出。

綾香をお姫様抱っこして保健室に連れて行った日から、イヴの日々は始まった気がする。


「おーい、イヴ」


 アンナが声をかけるが、イヴの意識は精神世界へと飛んでしまっている。

フラッシュバックする記憶を見つめながら、イヴは頭痛と共に宝箱の鎖が外れるのを感じた。


(そうだ、あの一件以来小林さん――綾香と仲良くなって)


 それから。

どうしたんだろう。

考えてみるが、その先はまだぼやけていて見えない。

ただその一件以来仲良くなった気がする。


 ゲームの途中、部屋をノックする音がした。


「お邪魔します……」


 やけに弱弱しいその声、イヴの視線の先に現れたのは。


「綾香……」


 制服姿。そして特徴的な黒髪のおかっぱ。

小林綾香本人である。


「あ、い、イヴ。久しぶり……」


「……」


「え、あ、えと」


 入室するも頬をかきながら言葉に詰まる綾香。

その後ろからおさげ髪のユリカも顔を出すと、姉の背中を押してイヴの前へと歩かせた。


「久しぶりね……綾香と、ユリカちゃん、だよね?」


「「はい……」」


 二人ともが元気のない声をしていた。

以前だったら――このような暗いイメージはなかった気がする。

もっと元気で常に暴走機関車のようなアクセル踏みっぱなしのような存在だった気がするのに。

今目の前の小林姉妹はどこかよそよそしいというか、弱弱しい。


「ほら、おねーちゃん」


「う、うん」


「?」


「この度は誠に申し訳ございませんでした……わたくし綾香がイヴを別荘に連れていったばっかりに……

あれからどんな顔をしてイヴに逢えばいいか分からず、ひたすらに考えておりました」


「そんな」


「そこで私は一つの結論に達しました」


 綾香がその場に膝をつくと、懐から一通の文を取り出す。


「辞世の句を考えてまいりました。イヴに謝るにはもうこれしかないと」


「え!?」


「このおかっぱやべーな」


 次第を見守っていたアンナからも思わずそんな声が漏れる。

 文を取り出した綾香の後ろでは、ユリカがどこから取り出したのか抜き身の太刀を手にしている。


「全ての責任は私にあります。別荘に連れていったのも、洞窟へと案内したのも私に他なりません。

あぁイヴよ、愛しイヴよ、あぁイヴよ」


「これがおねーちゃんの、いえ、おねーちゃんと私の結論なんです」


「え、ちょっと止めて! 何しようとしてるの!!!!」


 ユリカが太刀を振り上げる。綾香は首を差し出すと目を閉じている。


「イヴ、ごめんなさい。……無念!」


「ぐっばい、マイオールダーシスター」


 斬。

 

 バキン。


 勢いよく振り下ろされた太刀は、綾香の首に当たった瞬間にその刃が折れて宙を舞う。

綾香の首は無事なままである。


 一瞬、その場が残酷な空間になってしまうと思ったイヴは思わず口を両手で抑える。

しかしながら、振り下ろされても綾香の首は繋がったままである。


「ぐぅ! 今の私は死ぬことすらできない!」


「鍛え上げすぎた肉体は刃をも通さないね……」


 折れた太刀を仕舞いユリカはとても残念そうにしている。


「ユリカ、もう一度」


「あいよ、バカ姉」


「ちょっとちょっと待って! もう分かったから! もういいから!

あたし二人が悪いなんて思ってないから!」


「いいや、これじゃ私の気が納まらないの!」


「納めて! 記憶なくしたのは別に綾香のせいじゃないから!」


「で、でも」


「でもも杓子もありません! いいから物騒なことは止めて!」


「はい……」


 とんだ状況になるところであった。

太刀が振り下ろされた瞬間なんて本当に綾香の首が身体をさよならすると思えてしまった。

まだ続く胸のドキドキにイヴは手を当てる。


 せっかくさっきまで少し思い出せそうになっていたのに。

機嫌悪そうな目が綾香を睨むと、綾香はイヴと視線を合わせるなど出来はしなかった。


「綾香――あたし、小林さんのこと綾香って呼び捨てにしてなかった?」


「え、あ、うん! してた!」


「ちょっと来て」


 立ち上がるとイヴは綾香の手を引いて病室を出ていく。


「い、イヴさん?」


 さっきまで思い出していたのは、丁度この綾香をお姫様抱っこしているところだった。

その張本人がきたのだ。もう一度お姫様抱っこをすれば何か思い出せそうな気がする。


「綾香、ちょっとお姫様抱っこさせなさい!」


「え、え、い、いいんですか!」


「もうちょっとで何か思い出せそうなの!」



下よりポイントお願いします!!!!!

一言でもいいので、感想もおなしゃす!!!!!!!!

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[気になる点] あの頃のクレイジーサイコオカッパはまだ捻挫できたんだなぁって思ったら寂しくなった
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