128真夏の夜の
美里によりかかって皆で映画を見ていたが、段々と眠気が広がるとイヴは目を閉じていた。
「おーい」
遠くに声がする。
誰の声かと思ったが、それは過去聞きなれた声だ。
「〇〇、釣りいくぞ」
「今行く」
今のイヴが前世の友の元へと駆ける。
前世、それも学生のときにいつもバカをやっていた連中がいる。
自転車に乗ったイヴは肩に釣り竿を担ぐと防波堤へとペダルをこいだ。
釣り糸を垂らし、ふざけてじゃれあう男子たち。
「こいつこの前告って振られてやんの!!!! マジ受ける!!!!」
「うるせーよ!!! いんだよ、他にも可能性ある女子いっから!」
短髪の男子たちがじゃれあう。
「え、お前ほかにもいい女子いんの? 誰だよ」
イヴが問うと男の子は『うぅん』と悩んで答えを出せずにいる。
「はいうそー、お前そういう嘘つくのいいから。ってかいたら俺ら知ってるに決まってるじゃん
なー、〇〇」
「確かに。まー今年の夏も童貞のままだな」
「うるせーよ二人とも。今年中に彼女つくっから。クリスマスには彼女いっから」
イヴと男の子が笑う。
たぶんクリスマスに彼女が出来ることはないだろう。
きっと今年のクリスマスの一緒に過ごす。そんな気しかしなかった。
「〇〇糸引いてね?」
「あ、本当だ」
水面を見れば大きなクジラがかかっている。
とても一人で釣りあげられるようなものではない。
友達たちも一緒になって釣り竿を持つが、クジラは潮を吹くと釣り竿ごとイヴを海へと引きずりこむ。
「うおぉ!」
釣り竿を持っていたイヴが海へと落ちる。
もがいてもがいて上へと行こうとするのに、海水が重く足に絡み着くと浮上することが出来ない。
周囲をクジラが優雅に泳いでいる。
(食われる……!)
もがいても、やっぱり海面へはたどり着けない。
やがてクジラは大きな口を開くと、イヴのことを一口に飲み込んでしまう。
(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!)
場面変わって、いつか凛と訪れた公園にいた。
「イーちゃんは昔男の子だったんだ」
「そうだよ」
ベンチに肩を寄せ合った二人は――まるでカップルのようだ。
凛は優しく微笑むとイヴの肩に頭を乗せている。
太ももの上で二人の手のひらは恋人繋ぎをしている。
「イーちゃんは女の子に生まれ変わって良かった?」
「そうだな……良かったと思う」
「もしイーちゃんが男の子で生まれ変わっても、凛はイーちゃんのこと好きになってたと思う」
「……」
「イーちゃん、凛、イーちゃんと恋人以上の関係になりたい。いつか一緒にウェディングドレス着ようよ」
「それもいいかもしれないな。二人で花嫁だ」
「でしょう? きっと――」
きっと。
きっと。
きっと。
凛の声が頭に鳴り響く。
繋いでいた手が空を掴む。
ベンチにはイヴ一人。夕日に染まる飛行機を見ている。
「凛……」
これは夢。夢だと分かっている。
見覚えのある飛行機がただ夕日を見つめている。
その夕日に染まる飛行機をイヴがただ見つめている。
「どうして生まれ変わったんだろう。どうして前世の記憶があるんだろう」
「それはね」
飛行機がイヴに語り掛ける。
「イヴ。君が楽しく生きるためだよ。今は楽しい?」
「楽しいよ。楽しすぎるくらいだ」
「それは良かったね」
微笑めるはずもない飛行機が、笑っていた。
そんな飛行機を見て、イヴも微笑む。
「ヤクザだった俺がよ、こうやって女の子に生まれ変わって女子高生やるなんて思ってもみなかった。
地獄に落ちるもんだと思っていたよ」
「地獄も天国もあるよ。今イヴが生きてる世界が地獄であり天国だよ」
「そうかもしれないな。前世は地獄、今世は天国だな」
「だろう?」
飛行機のプロペラが回りだす。
「もう僕は行くよ。イヴ、またね。またお話しよう」
「おう。またな飛行機」
加速して走り出す飛行機。
やがて風を掴むと機体は浮上して空へ。
夕日に染まる空を一基の飛行機が駆けていく。
「俺もそろそろ起きるか。皆待ってるだろうし」
ベンチから重い腰を浮かせる。
まだ映画の途中。旅行の途中である。ここで眠ってしまうのはもったいない。
「うぅん……」
目を開けると、映画はまだ終わっていなかった。
もたれかかっていたのが、いつの間にか太ももに頭を乗せて眠ってしまっていた。
頭は美里が優しく撫でると心地よい気分がする。
「ぁ、ぉ、起きた?」
「うん……でも、少しこのままでいい?」
「ぅん、いいよ」
「ありがと、みーちゃん」
映画が終わるまで、美里は頭を撫でてくれた。
すべすべの太ももが頬に当たって気持ちいい。
傍にいた綾香や凛が映画よりもこちらをずっと見ている。
歩き回るユリカがイヴ向かってシャッターを切っている。
千鶴と桃子の視線は映画へ。
「明日は――何をしよう」
「ぇ、えっとぉ……海で泳いで……午後は何かしたぃの?」
「うん。何かしたい。想い出に残ることしたいな」
「た、例えば?」
「そうだなぁ――」
『こいつこの前告って振られてやんの!!!! マジ受ける!!!!』
夢の中のセリフが思い出される。
フフフと笑うと、イヴは夢の友達のセリフを借りる。
「告白とか?」
イヴの言葉に全員の視線が集まる。
その顔はどれも驚きに染まっていて、映画よりもイヴに釘付けになっている。
「嘘だよ。ほら、映画いいところ」
冷や汗をかいたイツメンの視線が映画へと向かう。
(もし俺が――)
凛を見る。
(友達の好きじゃなくて、本当に誰かのことを好きになったらどうなるんだろう?)
凛のことを足先で小突く。
小突かれた凛は笑顔でイヴのことを見る。
「どうしたの、イーちゃん♡」
「ん、なんとなく」
「……うふふ♡ イーちゃんは可愛い♡ イーちゃんしゅき♡」
「ありがとよ」
イヴの視線も映画へと向かう。
画面の中、苦難を乗り越えた男の子と女の子が微笑んでいる。
もう何度も上映されたアニメ映画。
ただ、その二人が後にどうなったのかは分からない。
結ばれたのか、それとも離れたのか。
でも、きっと――。
「これさ、前にインタビューでみたんだけど……」
美里が言う。
「ん?」
「この後二人は結ばれてね……男の子の谷に帰って暮らしたんだって」
「へー」
「いいよね。ハッピーエンドで。幸せそうで」
「そうだな」
ポイントおなしゃす!!!!!!!!!!!!
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