123逃がさない魚は大きい
「あー釣りしてぇな」
テレビに映っている魚の映像を見て、イヴはそんなことを口にした。
薄手のパーカーにビキニ姿のイヴは昼食の焼きそばを咀嚼しながら、テレビに視線を向けていた。
映っているのはここではないが、港で水揚げされた魚と漁師の映像である。
「この辺どっか出来る場所あったかな?」
同じ格好をした綾香が母に声をかけると、母は『確か……』と近場に釣りが出来そうな場所があったことを想いだす。
海岸の端のほうには岩場がある。そこから釣り竿を垂らしている人がいたのを母は記憶していた。
「あの辺なら釣れるんじゃない?」
「だって」
「じゃぁ釣りいこうぜ」
「でも、釣り竿ないよ」
女子高生連中が釣り竿など持っているわけもなかった。
おまけにこの周辺には釣り竿を貸してくれそうな店もない。
「そういうことならわたくしにお任せなさい!!!!」
立ち上がったのは桃子だ。
言いつけ通りスク水姿で過ごしていた桃子は高らかな笑い声をあげると、控えていたメイドたちがすぐにでも傍に現れる。
メイドたちの手には釣り竿、クーラーボックス、練り餌やオキアミの入ったバケツが用意されている。
「こんなこともあろうかと、わたくしあらゆるものを用意していましてよ!」
「縦ロール先輩やるじゃん」
「もっとお褒めになって! さぁ六道! 釣りがしたいのでしょう! わたくしにありがとうは!?!?!?」
「桃子パイセンすげーな! まじで嬉しい!」
「もっとお褒めになって!!!!」
昼食を食べ終えると一行はさっそく海岸端の岩場へと場所を移した。
岩場ではあるが、ある程度は整備されており人が行きかい出来るように平らに整えられている。
「この辺はなにが釣れんだろうなー」
慣れた手つきで針にオキアミを刺すと、イヴは釣り竿を魚のいそうな場所へと振る。
「やーん♡ 凛餌つけられないー♡ イーちゃんやって♡」
「ったくしょうがねぇなぁ」
釣り竿を岩場に固定すると、凛の釣り竿に餌をつけてやる。
餌をつけるイヴにすり寄り、肩に頭を乗せると猫のように甘える凛。
「ゎ、私もつけて欲しいな……こ、こういうの、苦手……」
「みーちゃんもか。まぁ女子高生はあんまりこういうのやらんわな」
美里も隣にやってくるとイヴに釣り竿を渡す。
手慣れた様子で針にオキアミを刺すと、釣り竿を返す。
「り、六道しゃんは釣りするの……?」
「あー、随分と前にやってたよ」
「その昔って……♡」
凛はイヴに前世の記憶があるということを知っている。
知った顔でイヴを見れば、イヴは何も言わずに凛に笑って見せる。
(おいおいおいおい、何二人でアイコンタクトとってんだ???
お、イチャイチャ見せつけてんのか??? 二人だけの秘密かなんかあんのか??? お???)
すでに釣り糸を垂らしていた綾香が苛ついた顔でイヴたち(主に凛)のことを睨む。
(なぁにが、凛餌つけられないー♡ だ! ゴキブリ素手で殺しそうな顔してるくせによぉ)
イライラしながら見ていると、いつの間にか竿が引いている。
「お? あ、ねぇねぇイヴ! みてみて! 何か釣れたかも!」
「お、マジか!」
「ねぇ、どうやるのどうすればいいの?!」
慌てる綾香にイヴがすぐにでも駆け付けると、糸の先を見る。
しなり具合から見て魚はかかっているだろうが、恐らくは小物であろう。
「リール巻いてりゃ釣れる。巻いて巻いて」
カリカリカリカリ――……。
リールを巻いていると次第に海面に小さな魚影が見える。
黒っぽい魚が釣られまいと暴れると太陽光に鱗が光る。
「そのままそのまま」
「うわ、ちょっと楽しいカモ」
カリカリカリ――……。
ぱしゃん。
海面から姿を見せたのは小ぶりの黒みがかった小さな魚である。
それでも釣れたことが嬉しくて、思わず綾香はその場で跳びはねてしまう。
「たぶんウミタナゴかな?」
「いえー! すごくね? 綾香ちゃん凄くね?」
小さくはあるがまだ魚が釣れたのは綾香のみである。
フフンと鼻息を荒くすると、ご満悦顔である。
「すげーじゃん、綾香」
「でしょぉ? 私釣りの才能あるかも」
フフ―ン!
自慢げな目線が凛を見下す。
(おかっぱの野郎、何自慢してやがる……絶対おかっぱよりもデカいの釣ってやる)
「り、六道しゃああああん、た、たちけて……」
「みーちゃんも何か釣れって、おわ!」
美里のほうを見れば、いつの間にか大きなタコを釣りあげており、何故かそのタコの襲撃を受けている。
タコの触手が身体(主に上半身)に伸びると、谷間や水着に絡まっている。
「でけぇ! みーちゃんすげぇな!」
「は、はやくタコとってぇ……」
「いや、でも……巨乳に触手ってエロいな……もうちょっと見てていい?」
「はやくぅー!」
仕方なくタコを美里から引きはがす。
タコはまだ襲い足りないと不服そうにイヴの身体向かって墨をぶちまけている。
真っ黒になったイヴ。
しかし、怒る様子などはなくむしろ一人で笑うとユリカに写真をとってもらっている。
(くそっ! みーちゃんまでデカいの釣りやがった!!! 凛のとこにもおしゃかなこい! でかいのこい!)
負けてはいられぬとリールを巻く。
しかし、そこには相変わらず餌のオキアミがついているだけである。
(ぐぬぬぬぬ!)
「イヴー、私も釣れた」
今度は千鶴が声をあげる。
手にしているのはホッケである。通常の魚よりも長く茶色と白いカラーリングはホッケに間違いない。
「まじ! ホッケじゃん! ちーちゃんやべぇ」
「これがホッケなんだ? じゃぁ食べられるね?」
「もちもち! めっちゃ食える! わ、晩飯に食おうぜ!!!!!」
「やったね♪」
「六道!!! わたくしも釣れましたわ!!!!」
「イヴさん、ユリカも釣れた!!!」
続々と釣果の声があがる。
しかしも、釣れているのはいずれもいいサイズの魚たちである。
まだ何も釣れていない凛はいよいよ焦る。
このままでは――、凛一人釣りの記憶が残せない! いや、残せはするだろうが、それは凛だけが釣れないという苦い記憶である。
(やべぇ――このままじゃ――ん?)
ふと、岩場の下のほうへと目をやる。
魚の鱗っぽい光の反射。しかし、それにしては長すぎる光が海の中に見える。
(なんだあれ?)
長さにすれば優に1メートルは越えている。
流石に魚ではないだろうと思うが、波の揺れもあり魚のように動いているようにも見える。
(あー、あれが魚だったらいいのに。そしたら凛一番になれんのになぁ)
ひゅっと竿を振る。
ぱくっと何かが餌を食らう。
(お?)
急に竿がしなり始める。
急に竿に猛烈な重みが加わりだす。
「こ、これは!!!」
確かな手ごたえ。
確かな重さ。
海面を見れば先ほどの長すぎる銀色がゆっくりとではあるが、動いている。
「どんなお魚か知らないけれど!!!! 凛ちゃんが釣りあげてやるわ!!!!! 覚悟なさい!!!」
あまりの魚との格闘ぶりに、周囲にした釣り人が凛のほうへと目をやる。
小さな女子高生が相手にしているのは、とてつもなく大きな魚である。
「こりゃたまげた! リュウグウノツカイだ!!!」
釣り人の言葉に、他の釣り人も驚いた様子で駆け付ける。
「うっそだろ!!!!!!!!!!!!!」
まさかそのような獲物がかかるとは思わず、イヴも自分の竿など投げ捨てて凛の元へと駆ける。
いつの間にか凛の周囲にはイツメン+来ていた釣り人+控えていたメイドたちと、全員集合している。
「凛、ゆっくりゆっくり!」
「お嬢ちゃん頑張れ! あと少しだ!!!」
「ぐぬぬぬぬぬ!!!! 凛ちゃんパワーぜんかあああああああああああああああああい!!!!」
一匹の竜のような魚が、水しぶきと共に海面から飛び上がる。
◇ ◇ ◇
一人の女子高生が、当日のニュースを騒がせていた。
ニュースキャスターの取材を受ける凛は照れた様子でいながらも、キャスターの質問に丁寧に答えた。
「釣ったときの感想はいかがでしたか?」
「そうですね、まさかこんなのが釣れるとは思いませんでした♡」
「リュウグウノツカイを釣るというは未だかつてなかったことだそうです。
よく釣りなどはされるんですか?」
「いえ、たまたま――友人たちと来ていて……」
インタビューを受ける凛はイヴの手を引き寄せる。
カメラに映るのは女子高生二人と二人の大きな谷間である。
ビキニ姿の女子高生二人がイチャつきながらインタビューを受ける。
後日、二人の映像がネットをにぎわせることになるが二人がそれをしるのはまだ先のことである。
ポイントおなしゃす!!!
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