117ビキニマッサージとサメ
白い砂浜に水着の美女が5人。
ここで出さなきゃいつ出すんだと、それぞれが最高に肌色を多くしている。
だが。
ここで焼きすぎてはその白く美しい肌を茶色く焦がすことにもつながる。
出来ることならば肌は白くありたい。そして出来るだけお肌へのダメージは軽減したい。
茶褐色の肌も悪くはないのだが、少なくともこの中に自ら茶褐色になろうとするものはいなかった。
小さな肩掛けバッグから日焼け止めを取り出す。
「背中塗れないから誰か塗ってくれない?」
「「任せて!!!!!!」」
名乗りをあげたのはもちろん綾香と凛である。
ビキニ姿の二人が顔を寄せ合ってイヴから日焼け止めを奪い合う。
二人にあるのは勿論イヴに触れるという邪な心である。
「ちょっと、凛さん邪魔なんだけど!!!」
「おかっぱこそ邪魔でしょ♡♡♡」
「どっちでもいいから早くしてくれ」
「ぁ、ゎ、私も……日焼け止め……持ってきてるょ……」
手のひらにぐにゅっと日焼け止めを取ると、美里がイヴの背中に塗り始める。
「ちょ!!! 美里さん何してんの!!!!」
「みーちゃん、それは凛の役目!!!」
「ぇ、だ、だって……」
「いいじゃねぇか。ありがとな、みーちゃん。みーちゃんも塗るだろ?」
「ぅん……」
今度はイヴが日焼け止めを手にすると、美里の身体にぬりぬり。
背中だけでなく、脇腹、おなか、太もも――、さらには谷間にまでイヴの手がすべりこむ。
大きすぎる谷間にイヴの手がはまる。
ムチィ――。
大きすぎる脂肪、それは簡単にイヴの手を食らってしまう。
「みーちゃん本当でかいな……」
「ぁ、ぁんまり、ぃ、言わないで……こ、コンプレックシュだから……」
「なんで?」
「だ、だって……こうやって、お、おっぱいばっかり見られるから……」
「あー確かに。でも、みーちゃん顔も可愛いけどな」
「ば、ばか!」
可愛いと言われると照れてしまう。
ここ最近ご無沙汰だったが、久しぶりに可愛いなんて言われるとやはり照れてしまう。
「でも、本当美里さんも少し変わったよね。前より表情豊かになったというか、可愛くなったよね」
そういうのは千鶴である。
ビキニ姿の千鶴は頭に花のヘアピンをつけているが、美里も同じようにリーフ型のヘアピンをつけている。
以前美里はリーフ型のヘアピンなどはつけていなかった。
前髪で常に目元が隠れると、目の表情を隠していたが、今はそのつぶらな瞳がはっきりと見える。
照れる姿も、もじもじする姿も、小動物のようで可愛らしく見える。
「ち、千鶴しゃんまで……ゎ、私、か、かあいくないから……」
「いや、みーちゃんは可愛い!」
「美里さん可愛いよ。男子にもモテると思うけどなー」
「しょ、しょんな……ゎ、私……」
ぷしゅぅと頭から湯気があがる。
そんな美里も可愛らしくて、イヴも千鶴も余計に愛でたくなってしまう。
美里の右手をイヴが掴む。
美里の左手を千鶴が掴む。
「よーし、泳ぐぞー」
「いこう、美里さん」
「あ、わわわわわ……」
乳デカい組が砂浜をきゃっきゃいいながら走っていくのを、綾香と凛が悔しそうに眺める。
いつの間にか日焼け止めを塗るのを遮られた――だけでなく、三人は二人のことなど忘れたように海へと走っていってしまった。
「あーあー! ロリビッチのせいで塗れなかったしハブられたんだけど!!!」
「なに言ってるの♡ おかっぱが邪魔しなきゃ何も問題なかったんだよ♡」
「ちっくしょう……どいつもこいつもデカい乳しやがって」
「どんまいすぎる♡♡♡ でもいいじゃん♡ つるぺた好きも世の中にもいるんだよ♡」
「持たざるものの気持ちを、持つものは分からんのですよ」
「うん、分かんない♡」
波打ち際で水をかけあって遊ぶ三人が輝かしく見える。
恥ずかしがっていた美里も負けまいとイヴや千鶴に水をかけてはやり返されている。
その傍で、同じように水着姿のユリカが必死にシャッターを切りまくっている。
「うちらもいこ」
「うん♡」
「凛さん、ちょっと聞いていい?」
「なに♡」
「どうやったら乳でかくなる?」
「遺伝じゃね♡」
♡
浮き輪に乗っかり美里はぼんやりと波に揺られていた。
思いがけずやってこれた旅行。美里も今まではクラスでも目立たない立ち位置にいた存在である。
ちらり浜辺を見ればイヴや千鶴、凛に綾香、そしてユリカがはしゃいでいる。
(まさかこんなリア充ぽいことが出来るなんて……恐ろしや)
カースト底辺だったはずの美里が、今はそこそこ上位カーストの連中と共に旅行にきている。
それが未だに現実とは思えず、頬を引っ張ってみるが感覚は現実のもの。
(六道さんに声かけられなかったら、こんなことにはなってなかったんだろうなぁ……)
ちゃぷん。
もし出会っていなかったらどうなっていただろうと思う。
美里は最近、ネトゲに費やす時間が大幅に減っている。
おかげで前のようにイベント上位を目指したり、ネトゲグループで会話をすることは極端に少なくなっていた。
もしも、イヴに出会っていなかったら、今頃は家に引きこもってゲーム三昧をしていたはず。
夏休みの思い出なんていえば、ゲーム内のイベントだけになっていたはず。
(まさかこんなことになるとはなぁ……)
ふいに波ではない何かがぶつかる。
美里は水面を見ればそこにはとんがったものが不自然に動き回っている。
まるで美里のことを見張るかのようにとんがりが周囲を回っている。
そのとんがりは――まるでサメの背びれだ。
(ま、ま、ま、ま、まさかサメ!? 嘘でしょ!?)
慌てて美里は浜辺へと引き返そうとバタ足を始める。
だが普段運動もせず、水泳などほとんど経験のない美里のバタ足ではとてもすぐに戻ることが出来ない。
「た、たしゅけてえええええええええええ!!!」
背後には背びれが迫っている。
なんとか叫び声が聞こえたのか、イヴたちが美里のほうを見て叫び声をあげている。
「みーちゃんどうしたー!」
「し、しゃめ! しゃめがいるの! た、食べられる! たしゅけてえええええええええええ」
「マジか!!」
「いやああああああああああ、こんな死に方はいやああああああああああ」
「ちょ、誰かロープかなんかないか!?」
確かに美里の背後には背びれが見える。
イヴたちもなんとか助けようと思うが、美里を今すぐに救助できそうなものは周囲にない。
「ひいいいいいいいいいいい」
「みーちゃん!」
前に出たのは綾香と凛であった。
綾香はその手のひらを拳に、凛はどこから取り出したのかメタリックな小型拳銃を手にしている。
「サメごときが綾香ちゃんの拳一発で十分だよ」
「やん♡ こんなこともあろうかと、バイト先の電子銃持ってきてたの♡」
拳が、銃口が背びれに狙いを定める。
「た、たしゅけてええええええええええええええええ」
ザパンッ。
背びれが大きく飛び上がった。
綾香も凛も大きく飛びだした影向かって構えるが、よくよく見ればそれは魚ではなく人の形をしている。
「あれは?」
「ん、サメじゃないね♡ 誰だ」
飛び上がった姿――背びれを付けたのは金髪の少女である。
縦ロールをした金髪の少女。そう、背びれをつけていたのはサメではない――
「オーホホホホホホホホホホ!!! 庶民の皆さま!!! 南沢桃子、見参ですわ!!!!!」
どこか遠くから鳴り響くBGM。
江〇2時50分の登場のときのように布袋〇泰のス〇ルが流れはじめている。
飛び上がった桃子をウォーターバイクに乗ったメイドがキャッチした。
「皆さま、お待たせいたしましたわ!!! 生徒会長、南沢桃子!!!
皆さまのあとを追って参りましたわ!!!!」
縦ロールが潮風に揺れる。