116水平線と過去
渋滞を抜け、車内にはカントリーミュージックが流れていた。
ゆるやかなのに染みるような歌。窓を開ければ日差しに輝く水平線が遠く遠く続いている。
そういえばとイヴは昔を思い出す。
前世、少年時代のことである。
今と同じくらいのとき――友人たちと海釣りをしにきた記憶がある。
気の知れたバカな友人たちと釣り竿担いで防波堤へ。
糸を垂らしても結局魚が釣れることはなかった。
なのに、あの当時は笑っていた気がする。
何が楽しかったのか具体的には思い出せない。というよりもただ友達と過ごせるだけで楽しかった気がする。
あの時みた水平線も、今目の前にある水平線のように輝いていた気がする。
「昔さ」
隣にいた千鶴に声をかける。
「うん」
「海釣りしたことがあったんだ」
「そうなんだ。ご家族と?」
「うぅん。友達と」
「何が釣れたの?」
「いや、何も。マジで何も釣れなかった。なのに何でだろうな、すっげー楽しくてずっと笑っていた気がする」
「誰かと一緒にいれることが楽しかったんじゃない?」
「たぶん、そうなんだろうな。あの時は――一緒にいるだけで楽しかった気がする。
ヨシもノブも元気かなぁ――生きてたら、たぶん」
ヨシもノブも前世の友達の名だ。
学生時代以来顔を合わせてはいないが、もし生きていたら良い年ごろになっていることだろう。
それこそ家庭を設けているかもしれないし、誰かと付き合ってこうやって海に来ているかもしれない。
「ヨシとノブって男の子? イヴ男の子の友達なんていたんだね」
高校でイヴに男友達はいない。
それどころか中学時代でさえ男友達はいない。
なんたって、前世の記憶が戻るまでは教室の隅で読書をしていたようなキャラである。
同性どころか、異性の友人などいるはずもなかった。
「いや、今はいないよ」
「?」
「フフ、なんだか不思議なもんだ」
「私には今のイヴのほうが不思議だよ」
ミステリアスというか、謎があるというか。
千鶴にはイヴがそんな風に映る。
たまにイヴはどことなく女子高生じゃない顔をするときがある。
何かを知ったような、悟ったかのような顔をする。
それは所謂大人の顔というやつなのだろう。
水平線の向こうにやっていた視線を後部座席へとやる。
さっきまで騒がしかった凛や綾香が眠ってしまっている。
美里とユリカは起きているようだが、ユリカは持ってきていた一眼を取り出すと美里に見せている。
「この旅行も――時間が経つにつれてドンドン記憶からは薄れると思う。
細かな記憶が指先からすり抜けて、印象に残ったところだけが残っていく」
「……」
「それでも、あの時笑ってたなぁとは思うんだろうな。きっと」
「イヴ」
「たくさん笑っておかねーとな。女子高生なのは今だけだし。今を楽しまないなんてもったいないしな」
笑うイヴ。
その顔は純粋に今を楽しもうとしているのが分かる。
イヴはいつも楽しさをおいかけている、いつも楽しくあろうとしている。
それは千鶴から見ても分かることだった。
だから、千鶴も笑って返す。
「いっぱい楽しもう。いっぱい想い出作ろうよ。細かな記憶は確かに忘れちゃうかもしれない。
でも、全部が濃い想い出なら絶対忘れないでしょう」
「ちげぇねぇ」
「じゃぁ、さっそく想い出作ろうよ」
「何すんの?」
「ユリカちゃん、イヴがおっぱい触っていいって」
「なんだと!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
千鶴のそんな言葉に、ユリカが聞き逃すはずもない。
ユリカは即座に獣の目となると、座席から手を伸ばす。
「え、ちょ、なんで?」
「だってさっき私の触ったじゃない。お返しよ」
「えぇ、まぁ、いいけどさ」
「いいんですか!!!!!!!!!!!!!!」
「減るもんじゃねーしな」
「ありがとうございます、ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!」
ユリカが前のめりになってイヴの乳へと手を伸ばす。
至福そうな顔にとろけるユリカ。
千鶴はユリカの持ってきていた一眼を手にすると、そんな二人の様子をシャッターに収める。
「い、イヴさん!」
「なに?」
「じ、直に! 直にいってもいいですか!!!!!」
「んー」
「ちょっとだけ! ちょっとだけ!」
「ちょっとだけね」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
♡
目の前に広がる白い砂浜、コバルトブルーの海には波の音が心地よく響く。
照りつける太陽はこれ以上なく夏らしくて、山から聞こえてくるセミたちの声は夏のオーケストラになって耳に残る。
別荘はまさに海辺の目の前にあった。
普通の一軒家だが、しばらく使っていなかったのか雨戸が全て閉まっている。
後ろから追いかけていてマイクがさっそく別荘を開けると、雨戸をあけて荷物を運びこんでいる。
「あああああああああああああ!!!!!! 海だああああああああああああ!!!」
ずっと車にのっていて縮こまった身体を伸ばしながらイヴが叫ぶ。
両手をあげて脇が全開になっているところを、ユリカがさっそくパシャリ。
「お嬢さんたちも中に入りな」
別荘二階のベランダからマイクが声をあげる。
マイクもすでに別荘を楽しんでいるようでアロハシャツに短パン、サングラスといういで立ちで親指を立てている。
「そういえばさ」
イヴが綾香に声をかける。
「うん?」
「あのマイクって人どういう関係なの?」
「ママの昔の職場の友達だよ。だよね? ママ」
綾香が母に声をかけると、母は昔を懐かしむような顔をしながら親指を立てる白人ナイスガイを見上げる。
「友達――というか戦友かねぇ」
「だってさ」
「綾香のママ謎すぎるな」
浜辺のほうを見ればマイクがビーチパラソルを立てており、傍に設置された椅子で小林母が優雅にビールをやっている。
それをみるとイヴも少しばかり羨ましさがこみあげる。
自分も成人していれば、この素晴らしき景色を眺めながら一杯やれるのに。
「さぁさぁ! 皆のもの! 目の前に海があるよ!!!」
綾香が無駄に張りきった声をあげる。
腰に当てた手には――水着が握られている。
「海、とくれば当然ヒロインたちの水着タイムだよ!!!! おらさっさと水着に着替えやがれ!!!」
「ゎ、わたし恥ずかしいから……と、トイレで……」
その大きすぎるダイナマイトおっぱいを晒すことなど美里には出来はしない。
以前イヴたちと買った水着を手にトイレへと行こうとしたが、綾香がトイレの前に立ちふさがると血眼になって制止している。
「女同士なんだからよおおおおおおおおおおお、気にすることじゃないよぉ、美里さああああああああああん」
「ひぃぃ……」
「ほら、そのデカすぎる乳を早く晒して!!! イツメン1デカい乳を早く見せて!!!!」
「い、いやああああああああ!!」
涙目になる美里を脱がしていく綾香。
ぶるんと弾けるダイナマイトは、思わず見慣れた皆も視線を送ってしまっていた。
レビューほちいなぁ!!!!!!!!!!!!




