109シンデレラコンテスト
今日、シンデレラが決まる――。
6限目、全校生徒たちは体育館に集まるとコンテストの結果発表が行われていた。
壇上にあがっているコンテスト参加者たち。
すでに5位、4位という順位が発表されている。
残された3名の中、特に気合が入っているのは南沢桃子である。
(絶対に絶対に勝ちますわ!!! 勝って見せますわ!!! 見ていなさい六道!!!)
熱い視線をイヴに送る。
当の本人と言えばだるそうにパイプ椅子で伸びると、余裕なのか欠伸までしている。
(あなたのその余裕の面、今に辱めてあげますわ!!!
もしも優勝したら、あなたが言ったようにおうちデートをして、それはもうわたくし無しではいられない身体にしてさしあげるんだから!)
優勝したらデートをしてやる、とイヴはいったがおうちデートとはいっていない。
しかし、もうすでに優勝が決まっているかのように桃子は優勝後のデートを妄想する。
自室にイヴを招待して、自分好みのドレスを着せてベッドに横たわらせて。
『フフフ、六道、あなたの負けよ……』
『申し訳ありまえんでした、桃子先輩、負けを認めます』
ベッドの上、敗北に涙を滲ませるイヴ。
『よっくもわたくしをコケにしてくださいましたわね、さぁ、今度はあなたが乙女になる番ですわ。お尻を出しなさい』
『はい、桃子様……』
イヴの尻を引っぱたく。
引っぱたかれたイヴは喜びの声をあげる。
『おほほほほ! ざまぁないわね! 後輩のくせに調子乗るからよ……』
しかし、それだけに終わらない。
尻を引っぱたかれ続けたイヴは徐々にその顔を怒りに染めて――。
スパァン!
『先輩、それ以上されたらお尻が……』
『黙りなさいこの豚! あんたなんか……』
怒りの眼差し。イヴは引っぱたこうとした手を握ると、桃子のことをベッドに押し倒す。
『な、なにをなさるの!』
『何度も何度もお尻を叩くいけない手……桃子先輩、今度は俺の番ですよ』
『えっ!?』
『桃子先輩のいけないお尻を叩いてあげます。ほら、お尻を出して』
『イ、嫌よ、なんでわたしが!』
そんなことに構わずイヴは桃子に尻を突き出させると、スカートを捲り上げてパンツ越しに尻を引っぱたく。
『ひゃぁん!』
『もっと可愛くないてください』
『か、可愛くなんて! や、やぁ……』
イヴの手が尻を引っぱたく。
イヴの手が尻を揉みしだく。
『ほら、先輩、もっと可愛く鳴いてください。本当は嬉しいんでしょう? お尻を叩かれて喜んじゃう乙女は先輩のほうでしょう?』
『そ、そんなこと……ありませんわ……』
イヴの手に力がこもる。
桃子のお尻にイヴの指が食い込む。
さらに空いたほうの手で桃子の口に指を突っ込むと、指先と舌を絡めさせる。
『ひゃ、ひゃにをふふの(な、なにをするの)』
『ちゃんと鳴けるように躾けてあげます。ほら、もっとお上品に鳴いてください先輩』
『んん……』
『もっと上手に鳴けたらもっといいことしてあげる』
耳元で囁かれる。
嫌がってるのにイヴは無理やりに桃子を乙女に染め上げてしまう。
「えへ、えへへへへ……」
繰り広げられる妄想に桃子はニヤニヤが止まらない。
しかし、その妄想が現実のものになる。それもあと数時間で。
司会役の生徒が他の生徒より、2位決定の通知を受け取る。
「それでは、準優勝の発表です!!!!」
桃子の目が燃える。
することのないイヴが眠り始める。
綾香が、凛が、千鶴が、美里が、座っている生徒側から結果を見守っていた。
体育館の隅、壁際に並んでいた大勢のメイドたちが結果を見守る。
綾香、凛、千鶴、美里がイヴが優勝するように願った。
桃子のために連日ビラ配りをしていたメイドたちが桃子の優勝を願った。
「準優勝は――……!!!」
司会の声に皆が祈る。
己の応援していた立候補者が、己の推しが、己の一票が夢に届くように。
(神様、仏様、どうか、どうか、桃子を勝たせてくださいまし。お願い、シンデレラ!!!
夢は夢で終われない!!!!)
鳴り響くBGM。
チラリ桃子が横目を見れば、イヴも目を覚ましたようで腕組をしながら生徒たちを見ている。
「準優勝は――……」
プロジェクターが作動し、立候補者たちの写真が流れる。
残るはイヴと桃子のみ。
モニターに現れた写真は――。
「223票獲得!!! 六道イヴさんです!!!!」
「まじか!」
優勝を目指していたイヴから声が漏れる。
勝利を確信した桃子がガッツポーズを決める。
「あぁ!?!?!? なんでイヴが二位なんだよ!!!! ふざけんな!!!!!!」
「イーちゃんが負けるわけないでしょ!!!!!! 投票やり直せコラぁ!!!!」
座っていた生徒たちの中から二人の声があがる。
もちろん、綾香と凛である。
優勝を願っていた二人の想いは、今、ここに敗れていた。
「落ち着いてください。投票に間違いはありません。数回の確認を行って同じ結果でしたので……」
たじろぐ司会に、凛と綾香の恨めしい視線が突き刺さる。
しかし結果は結果。イヴの元には盛大な拍手が巻き起こり、イヴは立ち上がると一礼する。
「そして、優勝は南沢桃子さんです!!!! 優勝おめでとうございます!!!!!」
紙吹雪が舞い、盛大な得賞歌が流れ始める。
司会によって立たされた桃子の元にはシンデレラコンテスト優勝のガラスの靴のトロフィーが送られる。
「南沢桃子さんの投票数はなんと1票差の224票でした! わずが一票という差で南沢さんが今年度のシンデレラに決定です!」
「1票……」
桃子はマイクを握るとイヴにほうへと歩いていく。
「六道、あなたにお聞きしたいことがありますわ」
「え、なんすか」
「あなた、投票は誰にしましたの?」
「え? そりゃもちろん」
桃子は――なんとなく分かっていた気がした。
だから、イヴにそんなことを訪ねてみた。
もちろん自分自身の一票も自分に入れることが出来る。
桃子が自分に投票したように、イヴも自分に投票することが出来たのだ。
「桃子パイセンに」
「……だろうと思ったわ」
「イヴー!!!!!! なんで相手に投票してんだよバカー!!!!!」
「負けちゃったけどそんな男勝りなイーちゃんがしゅきいいいいいいいいいいい♡♡♡」
会場から声があがる。
「でも、優勝は優勝。このシンデレラコンテストはわたくしの勝ちですわよ!」
「うん、分かってる。優勝おめでとう、桃子パイセン」
盛大な拍手も、盛大なBGMも桃子には聞こえていない。
祝ってくれるメイドたちも、祝福をしてくれる生徒や教師陣なんか視界には入っていなかった。
「どうして、自分に入れなかったの? 1票さですってよ。自分にいれていれば勝てたのに」
「だってさ」
「?」
「桃子パイセン可愛かったから。だから桃子パイセンに入れたんだよ」
「あ、あなたって人は……」
本当に――。
相手を女の子にするのが上手な人だなと思う。
同じ女なのに、どうしてこんなに相手を女の子にさせるのだろう。
「約束、覚えてらっしゃる?」
「うん。デートでしょ。桃子パイセン何がしたい?」
もう決まっている。
先にもした妄想。寝る前にしていた妄想。なんども夢見た妄想が今、現実に出来る。
「放課後、わたくしと一緒に帰りましょう。わたくしのおうちにいらっしゃい」
「うん。分かった」
「今度はわたくしが――あなたを女の子にしてさしあげますわ」