103シンデレラ投票
朝、校門の前にはえらい人数のメイドたちが姿を見せていた。
何をやっているのだろうとあっけにとられて見ていると、イヴの元へと一人のメイドがかけよってくる。
「南沢桃子お嬢様に清き一票をお願いいたします」
ぺこり。
なんて頭を下げて一枚の紙を渡してくる。
デカデカと印刷されているのは、桃子がコンテスト様に撮影したであろう写真のビラである。
写真の上には『今年度シンデレラNo1候補』下には『南沢桃子』と書いてある。
「パイセンやること半端ないな」
受け取ったビラの裏面を見てみれば、桃子についてのプロフィールなんかが書いてある。
現役生徒会長で、南沢家がいかにすぐれたお家柄なのか、そうしてその一家に生まれた長女である南沢家がいかに将来を期待されているのか。
ほぼ自慢ばかりが書いてはあるが、文の最後にはもしシンデレラになったならば学園を今よりも充実したもにするなんて書いてある。
「マジに選挙っぽいな」
周囲からはメイドたちの投票をお願いする声がたくさん聞こえてくる。
生徒たち一人ひとりにビラを配り、頭を下げるメイドたち。
「桃子パイセンそんなにマジなのか」
桃子の選挙活動はビラ配りだけに収まらなかった。
教室に入るまでの至る所に桃子の同様のビラが貼られており、どこにいても必ず桃子のビラが目に入るようになっている。
さすがにやりすぎ感がありすぎるが、それだけ本人も本気なのだろう。
教室についても、クラスメイトたちは桃子の話題で持ち切りである。
これから授業が始まる、というのに学園内にはイヴを呼び出す放送が流れた。
『六道イヴさん、六道イヴさん、至急生徒会長室までお越しください』
(なんで?)
たぶん、また桃子が仕掛けてくるのだろうなと思いながらイヴは席を立つ。
廊下に出ればまた桃子のビラが目につく。
シンデレラコンテストまであと数日。これほどに桃子の名前を刷り込まれれば、優勝は間違いない気がする。
(負けたくねーけど、これはなぁ……)
◇ ◇ ◇
もうすでに始業のチャイムはなっているのに、桃子はイヴを返そうとはしなかった。
「六道、シンデレラコンテストまでもう数日――、もう敗北の準備は出来たかしら?」
授業が始まっている時間だというのに、桃子は優雅に茶を楽しんでいる。
イヴも出された紅茶に口をつけながら『授業をサボっている』という背徳的な行為にちょっとだけ楽しさがこみ上げる。
「負ける準備なんてしてないですよ。勝負を受けた以上は勝ちたいと思ってます」
「フン!!!! どうやってわたくしに勝つ気なのかしら!!!!」
「うーん、そうっすねぇ……」
腕組をして考える。しかし、桃子のようにビラ配りなどは出来ないし、学園内をビラで埋める事など出来はしない。
桃子のことだから、コンテスト当日までこの状況は続くだろう。
そう考えた時、イヴには勝利よりも敗北の色が濃くなってしまう。
頭の中では何か策がないかと考えるが、勝てそうな手段は見当たらない。
「フフ……無駄よ。何をしたってわたくしには勝てないわ」
「……」
「ねぇ、六道。あなた、わたくしが優勝したら生徒会に入りなさい」
「俺が生徒会に? なんで?」
「これは勝負よ。勝ったものは何かを得る。負けたものは何かを失う。当然のことでしょう?
だから、わたくしが優勝したら六道は生徒会に入るの。そうしてあなたはわたくしのものになるんですわ!!!」
「えぇ……俺もう図書委員なんですけど」
「そんなもの辞めておしまい!!!!」
ピシャリと桃子の怒声が響く。
桃子は革張りの椅子から立ち上がるとイヴが座っていたソファへと腰掛ける。
くっつく太ももと太もも、触れ合う肩と肩。
桃子の指先がそっとイヴの太ももをなぞる。
「わたくし、あなたが欲しいの」
「はい?」
「今わたくしが一番欲しいものはあなたなんですの。毎日毎日お部屋に飾ったあなたの写真を見て、
毎日毎日あなたとラインをして、わたくしはあなたに夢中ですのよ。
でも、あなたはお金では買えないでしょう? あなたは権力を振りかざしたって靡かないでしょう?
ですから、この勝負に負けたならあなたはわたくしのモノになりなさい」
「嫌です」
「この期に及んでまだそんなことを!!!! あなたはどれだけわたくしに恥をかかせるの!!!
どうしてそんなにわたくしの事を見ないの!!!!」
「見てますよ」
「……!」
「今だってパイセンのこと見てるじゃないですか。それこそ授業サボって」
「でも、それは今だけでしょう!!!」
「まぁそうっすけど」
「そんなんじゃ嫌!!! わたくしは常にあなたを置いておきたいの!!!!
だから、わたくしが優勝したならあなたはわたくしのモノになりなさい!!!!」
イヴの膝の上に乗っかる桃子。
両手でイヴの頬を掴むと、その吸い込まれそうな瞳に視線を合わせる。
イヴの瞳に桃子の姿が映る。桃子の瞳の中にイヴの姿が映る。
「わ、わたくし……今も黒地に水玉のパンツを履いてますのよ」
「……」
「あなたのパンツは何色かしら? ねぇ、教えてくださる……?」
そういって桃子はスカートをめくりあげる。
中には確かに黒地に水玉のパンツが履かれている。
(写真ではない――本人がわたくしのことを見ている――本人がわたくしのパンツを見ている――)
少しばかり頬を紅潮させながら、パンツを晒す桃子。
今までは部屋に飾られた写真のイヴに何度も見せてきた。何度も写真にパンツを晒し、笑いかけてもらった。
写真じゃない、本物のイヴが桃子を見る。
きゅんとする。
でも、イヴは笑うことはない。
ただまっすぐに桃子を見つめたあとに、めくりあげていたスカートをイヴの手が下ろさせた。
「ぇ……」
「パイセン。お嬢様なんだからそんな人前でパンツを見せちゃだめですよ」
「だって……」
「それに今日は違いますけど、履いてきてほしかったら黒地に水玉履いてきますよ。見せないっすけど」
「やだ、見たい。ちゃんと見てお揃いにしたい」
「ダメです。お嬢様なんだから、もっと清楚でいないと」
「あ、あなたが――あなたのせいでわたくしここまで恥ずかしいことをするようになったんですのよ」
「女の子がそんな風に自分からパンツなんて見せるもんじゃないっす。パンツはチラっと見えるからいいもんなんすよ」
「……」
「もし本当にパイセンが優勝したらデートくらいはしてあげます。でも、俺は生徒会には入りません。
パイセンのものにもなりません。もし俺を自分のものにしたいなら、パイセン自身の魅力で勝負してください」
「わたくしの魅力? わたくしには魅力がないっていうの!!!」
「今の桃子パイセンは権力と金で飾っているだけに見えます。そんなことをしなくたってパイセンは魅力的です。
だから――もっと己の内側を。桃子パイセン自身の魅力で勝負してください」
「……言ってることがわからないわ」
「パイセンの女の子の部分で勝負してくださいって言ってるんです」
それでも桃子はやっぱりイヴの言っていることが分からない。
理解しようとしても、理解なんて出来ない。
「何を言ってるかわからないわ! わたくしはもう女の子ですわ!」
「そうですね――」
イヴは桃子の両手首を掴むと、乗っかっていた桃子をソファに押し倒す。
「な、なにをなさるの!」
「パイセンを女の子にしようと思って」
「い、いやよ! 離して!!!」
「離して欲しいなら抵抗すればいいじゃないですか」
「……!」
言われてやっと桃子は身体をくねらせたり、腕を解こうと抵抗してみせる。
しかし華奢な女の子が抵抗したところで、普段からトレーニングをしているイヴに叶うはずもない。
「その程度ですか? ほら、もっと抵抗してください」
「あ、あなたそんな意地悪なお方だったの? は、離して……」
無言のイヴは両手を抑えながら、桃子の耳元に囁く。
「本当は嫌じゃないでしょう?」
「そ、そんなことありませんわ……」
「授業サボって二人きりの生徒会長室。抑えつけられて顔赤くして、パイセン本当に弱いですね」
「よ、弱くなんて……」
「普段はメイドさんの尻引っぱたいてるのに、本当は自分がMじゃないですか」
「ち、ちが……わたくしは……」
潤んだ瞳から涙が零れそうになる。
耳元で囁かれるたびにぞくりとした感覚が背筋に走る。
抵抗しろと言われても、抵抗したくない自分がいることに気付いてしまった。
イヴが身体を起こし、掴んでいた手首を離す。
馬乗りになったまま、桃子を見下す。
「……」
「な、なにかおっしゃってよ……」
潤んだ瞳、紅潮した頬。乙女な桃子。
もう一度イヴは桃子に覆いかぶさると、耳元に囁く。
『桃子可愛い』
どきん。
どきん。
どきん。
イヴが離れていく。
ソファから立ち上がると、そのまま生徒会長室を去ろうとしていく。
「ぁぁ……」
両手で口を押えながら、去ろうとするイヴの背を見る。
いかないで、まだいかないで、もう一度抑えつけて囁いて欲しいと願ってしまう。
一度だけ振り返るイヴ。
その顔は笑ってはいない。
「コンテストで優勝したらデートしてあげる。でも、俺も負けないから」
こくり頷く桃子。
「桃子、せっかく俺ら女子高生なんだ。権力も金もいらねー最高のものもってんだ。
勝負したいならテメェ自身で勝負しな」
バタン。
部屋に一人残される桃子。
手首にはまだ抑えつけられた感覚が残っている。
耳元には囁かれた熱が残っている。
(あぁ……わたくし……)
両手で顔を隠す。
恥ずかしかった。
恥ずかしい分、もっと抑えつけられて囁かれたかった。
(乙女になってしまいましたわ……)
余韻を感じながら、今のことを想い返す。
あの視線を、あの感触を。
(女の子になってしまいましたわ……女の子になったのだから、責任とってくださらないと……わたくし……)
ポイントおなしゃす!
↓↓↓↓↓↓↓




