100百合百合
そこから10分もせずに桃子は六道宅へとやってきた。
「夜分にお邪魔しますわ」
夜中にやってきた桃子は大層な荷物をメイドに抱えさせて登場した。
わがままお嬢様ではあるが、そこは礼節をわきまえて祖父に頭をさげるとメイドに指示をして粗品を渡している。
「とりあえず、あがります?」
「お邪魔いたします」
スカートちょいとつまんでご挨拶。
メイドも同様にご挨拶してイヴの部屋へ。
イヴの部屋には似つかない存在が二つ。
一人は南沢桃子。その姿はどこか社交界にでもいくのかというドレス姿。
もう一方のメイドもクラシックなメイド服を身にまとうと桃子に付きっきりである。
「座る場所ないんで、ベッドでも適当に座ってください」
「失礼いたしますわ」
ベッドにちょこんと腰掛ける桃子。
そのいで立ちはまるで西洋人形のように可愛らしい。
ドレス姿は本当に人形に命でも宿ったのではないかと思えるほど。
「で、責任を取れってなにをして欲しいんすか?」
「そうですわね……」
隣にイヴが腰掛ける。
「そうだわ!!! わたくしのことを膝枕なさい!!!」
「どうぞ」
短パンから伸びた太ももをぽんと叩くと、桃子はじゅるり涎を拭い頭を太ももへ。
言わずともついてくるナデナデオプションをされると、桃子はうっとりとした表情で太ももを摩っている。
「あ、それと……わたくし見たいものがあるの」
「なんすか?」
「あなたのパンツが見たいわ」
「はい?」
「黒地に水玉のパンツを持ってらっしゃるんでしょう? それが見たいわ」
(えぇ……)
とりあえず一度桃子の頭を離すと、イヴはクローゼットを漁る。
綺麗に陳列された下着の中から黒地に水玉のパンツを取り出すと、つまんで桃子に見せる。
「こんなん見て何するんすか?」
「違うでしょ!!!!!!!!!!!」
怒鳴り声が響く。
ぽかんとしたイヴは水玉パンツを指先でプラプラさせながら突っ立っている。
「履いている状態のを見たいの!!! さっさとその場で着替えなさい!!!」
「え、やだ」
「先輩の言うことが聞けないの!?!!??!?!?」
「さすがにそれは……」
「だったらわたくしも見せるから貴女も履いてみせなさい!!!! ほら!!!!」
ドレスのスカートをたくしあげると、そこにはイヴと同じような水玉パンツが姿を現す。
メーカーが違うのだろうか、桃子のほうが光沢がありながらも肌触りよさそうな素材である。
「えぇ、パンツ見せあうとかただの変態じゃないすか」
「わたくしのパンツ見たでしょう!!! ほら!!!! はやく見せて!!!!」
「えぇ……」
一体桃子は何をしたいのだろうかと、イヴは顔が引きつる。
責任を取れとかってに家に押し掛けてきたと思えば、今度は人のパンツを見せろだのと。
おまけに今の桃子ときたら怒りの形相でありながら、スカートを自ら捲りパンツを全開にしている。
「そもそも責任取るほどのことしていないような……」
「わたくしのことを寂しくさせたのだから責任はあるでしょう!!!!!! はやくおパンツ見せなさい!!!!!」
「えぇ……」
「お、お嬢様、もしよろしければわたくしも同じおパンツを!!!」
メイドも何故かスカートをたくし上げようとして、桃子に尻を引っぱたかれる。
スパァンと小気味良い音が響くと、メイドは恍惚した表情に顔を赤らめている。
「お嬢様! もっと!」
「今はあなたのパンツなんて見たくはないの!!! わたくしは六道のおパンツが見たいのよ!!!」
「こいつらやべぇな」
指先でパンツをクルクルしながら二人のやりとりを見る。
お嬢様とメイド。テンプレートな存在ではあるが、その関係性はお嬢様とメイドという垣根を超えている。
というか、見ているとお笑い芸人のコンビのようにも見える。
「六道、はやくおパンツを見せなさい……!!! でないと……!!!」
「でないと?」
逆にこのまま放置したらどうなるのだろうかと、ちょっとした悪戯心が芽生えてしまう。
「こ、この場でお小水をするわよ!!! いいの?!?!??! あなたのお部屋がわたくしの聖水で汚れるのよ!!!!」
「お嬢様!!! そんな汚らしいこといけません!!!! 六道様!!! なにとぞお嬢様のことを拒否してください!!!!」
「拒否したらおしっこするんじゃないの?」
「はい!!!! わたくし、お嬢様の排尿シーンを見たいのです!!!」
「豚は黙ってて!!!!」
スパァン!!!
豪快な一振りがヒットする。
「お嬢様ぁ!!!」
「なんだろう、おうちにいるはずなのに帰りたいって思えてきたぞ」
「さぁ、六道!!! は、早くおぱんつを見せなさい!!! でないと……」
恥ずかしいのか桃子の顔は食いしばりながらも真っ赤になってしまっている。
もしこのまま放置したら本当にどうなってしまうのだろうか。
イヴは考えた末に、答えを出した。
それは。
座。
ただ、その場に座ることである。
桃子の発言、そして心情を理解した上で、座って待つ。
その場に胡坐を掻くと、イヴはまっすぐに桃子を見つめている。
その視線は『自分は一切動かないぞ』という気迫のあるものだ。
ようは我慢比べ。
どちらが先に折れるかという根競べである。
「な!!?!?!?!??!」
「俺はこの場から一歩も動きません。桃子パイセン、おしっこするんですか?」
「ほ、本当にするわよ!!!」
「えぇ、どうぞ。パイセンにその勇気があるのなら」
「あなたのお部屋をびちゃびちゃにしてしまうわよ!!!!」
「やってみてください。いくらでも掃除してやります。
それにこの部屋にはベッドとトレーニング道具くらいしからありません。
掃除はずいぶんとしやすい部屋なので」
「あ、あなた正気!?!??」
「勿論。パイセン。これは俺と桃子パイセンの根競べです」
「な、なんですってぇ……!?!?!? わたくしにこれ以上恥をかかせる気なの!?!?!?」
「いいえ、違います。恥をかかせるためではありません。これは俺のプライドを護るため、面子を保つためです」
「プライド!?!?!? 面子!?!?!?? そんなものがなんだっていうのよ!!!!」
「ようは、俺はパイセンであろうと舐められたくないので。
あまりにパイセンの言うことを聞いていれば、俺は都合のいい存在になってしまう。
それは御免です」
美しく可愛らしい少女なのに、その腹の座った態度はまるで任侠である。
どっしりと構え、自分の信じるものはぶれない。根のはった人間であるというのが分かる。
「ぐぬぬぬぬぬ!!!!」
「俺の部屋におしっこをぶちまけたいというのならどうぞ。ただ俺は動きませんし、水玉パンツも見せません」
「い、いいわよ!!!! やってやるわよ!!!!!」
桃子もやけくそになるとイヴの目の前で女の子座りする。
もうどうなってしまうのかと今にも悲鳴をあげそうなメイド。
「さぁ、桃子パイセン。好きなだけ俺の部屋を汚してください」
「うぅ……」
スカートをぎゅっと握ると、涙目になってイヴを睨む。
それでもイヴは動じることがない。むしろこれから桃子に起こることを見届けようとその視線も態度も一切ぶれさせることがない。
(お、おしっこなんて……本当に出来るわけないでしょう!!!!)
「はわわわわ、お嬢様……」
「どうしたんですか、パイセン。出来ないですか?」
「い、今するわよ!!!!」
下唇をきゅっと噛むと、桃子はわなわなと震えながらイヴを見つめる。
逃すことのない視線が桃子に刺さる。逃すことのない視線が桃子の足の付け根付近を見ている。
「うぅ……」
「パイセン」
「ぅ……」
「さぁ」
「ひっく……」
「泣かないでください。見てますから」
「うぅぅ……」
何故こんなことになってしまったのか、桃子は自身に問う。
寂しかったから、構って欲しかったから。気になる存在に気になって欲しかったから。
もっと自分に振り向いて欲しかったから。もっと言うことを聞いて欲しかったから。
「パイセン」
「はぃ……」
「相手に言うことを聞かせたいのなら、脅しや権力だけでなく、先ずは自分を磨くことです。
自分が信頼されるように努力すべきです」
「はい……」
「もう俺らも高校生です。わがままが通るだけの年齢じゃないですよ」
「わ、分かってるわよ」
「いいえ、分かっていません。分かっていないから、今こうやって俺の前で涙を零しているんです」
しゅんとして、視線が床に落ちる。
腕組したイヴはそれでもまだ桃子を見据え続けると、言葉を紡いだ。
「桃子パイセン。もしパイセンに愚痴があったり、何かあったら聞きましょう。
ですが、されたのなら、自分も同じことをしなけりゃなりません。
何かにすがったり、何かに頼り続けていると、やがて身の回り全てを失います」
「わ、わたくしにそんなお説教?」
「桃子パイセン。あなたが私の話を聞いてくれないのなら、俺ももう話を聞きませんよ」
「は、はい……」
腕組をほどき、桃子の顎を持つと視線を交わらせる。
「もう、わがままばっかり言いませんか?」
刺さるような漢の視線だった。
「は、はい……」
「もうおしっこするなんて言いませんか?」
「言いません……」
「もうわがまま言っちゃダメですよ。パイセン」
「ごめんなさい……」
やっとごめんなさいが聞けると、イヴは笑顔になって桃子の頭を撫でた。
「そうです。ちゃんとごめんなさい言わないと駄目ですよ。桃子パイセン可愛いんだからもっと素直になればいいんです」
「う、うん……なるべく、努力するわ」
「よろしい!!!」
イヴのお説教が終わると、桃子はスカートを抑えたまま立ち上がる。
恥ずかしそうにしながら、涙を少しだけ流しながら、桃子は扉を開く。
「ちょっと……おトイレ、お借りしますわ」
「どうぞ。もしかして、パイセン……」
「あ、あの、六道……パンツを一枚……お借りしたいのだけれども」




