99きみに夢中
日課のトレーニングをする時間が遅くなっていた。
延々と送られてくる桃子からのライン。返事を打てば即座に既読がつくし、1分と経つことなく返事がやってくる。
(もう20時半か……)
あまりだらけすぎていては、今後に響いてしまう。
そう思ったイヴは一度スマホの電源を落とすと、トレーニング着に着替えてルーチンワークを開始する。
(しっかし、桃子パイセンあんなに甘えん坊だと思わなかったな……)
腕立て伏せをしながら考える。
第一印象はわがままお嬢様だったが、中身を見ればそこにいるのは誰よりも純粋な少女である。
聞いて欲しい、見て欲しい、構って欲しい。
私のことを見て欲しい、でいっぱいになっている少女である。
最初のセットを終わらせると、次に腹筋を始める。
(それにパーティーだって何するんだ?)
女子高生のいうパーティーとはどんなものだろうか。
前世の記憶に倣って考えれば、酒が出て騒いだり、もしくはパーティーとは名ばかりでビジネス的な付き合いだったり。
女子高生のいうパーティーはどのようなものか想像する。
酒もなく、仕事をうまくいかせるようなビジネス的なことをすることもない。
なんとなく騒いだりするのは想像出来るが――桃子の場合はどのようなものになるか。
実際にかなり金持ちなのは分かったし、メイドなんかが仕えているのを見れば相当な地位もあるのだろう。
(うーん、スーツもドレスもねーしな。かといって制服も……)
正装には違いないだろうが、それでもちょっと正装というのは気が引ける。
(てきとーでいいか。女の子の付き合いだし。まだパイセンのことわかんねーしな)
腹筋を終えると、今度はダンベルを持ちあげる。
(でも、随分友達増えたなぁ……)
前世の記憶が戻ってからどれほど経ったのだろうか。
目まぐるしい日々を送っているおかげで時間の流れが速く感じていた。
地味ですみっこで本を読んでいた日々のとき。
友達などまるでいなかった。
それが前世の記憶が戻ってからは性格も変わり、女子高生ライフをエンジョイしようと全力になった。
(綾香と仲良くなって……)
おかっぱ頭の綾香を想像する。
綾香も今ではすっかり元気のありあまるキャラだが、昔はもう少し大人しかった気がする。
(凛に手紙もらって……)
黒にゃんこパーカーを想像。
手紙をもらったときはまぁ極々普通の生徒に見えたが、今では人懐っこいそれこそ猫のような人物像になっている。
(ちーちゃんとあって、みーちゃんとあって)
風紀向上ウィークのときに出会った千鶴。
あのときは少しばかりいがみ合っていたような気もする。
美里とは最初にオリエンテーションのグループ決めのときにも会っていたが、仲良くなれたのは最近ことである。
今ではどちらも仲良しグループの大切な一員である。
(ユリカちゃんがきて、桃子パイセンが喧嘩売ってきて……)
年も学校も違うが綾香のよしみでユリカも懐いてくれた。
そのユリカの写真をきっかけに喧嘩を売られる形ではあるが、桃子とも付き合いが出来た。
(二年になったらどうなるんだろう? もっと友達増えるのかな? それとも受験とかで忙しくなってくるのか?)
ぼんやりと将来像を考える。
この高校時代はあっという間に過ぎる。
この楽しい青春の日々はすぐに過去の想いでとなる。
ダンベルを置く。
あらかじめ用意しておいたプロテインを飲み干す。
(大学とか専門とかそれぞれの道にいずれは進むんだろうな)
そう考えると切ない。
今この楽しい日々を無限に続けたいと思うが、現実はそんなこと赦してはくれない。
タオルを持ってお風呂場へ。
長い髪をお団子にすると、浴槽へ浸かる。
(しっかしこうも楽しい女子高生ライフを送れるなんてな。ハチの巣にされて死んだってのに)
ちゃぷん。
己の手を見る。
白く美しいといえる手だろう。
(……ずっと皆といてぇな~~)
◇ ◇ ◇
部屋に戻ってスマホを付けると、そこには100件を超す通知が入っている。
半分はグルチャだが、もう半分は桃子からの通知である。
(50件ちょいも来てら……)
桃子からのラインを開いてみる。
『あなたドレスかスーツは持ってらして?』
『庶民が恥をかかないようにお父様に頼んで用意して頂くことにしたわ』
『わたくしに感謝することね』
『庶民に優しくするなんて、わたくしはなんて心が広いのでしょう』
『誇らしげなスタンプx3』
返事がないことに、桃子は焦ったのかそこから送られてくる文章が変化している。
『返信がないわよ』
『反応なさいよ』
『後輩で庶民で金髪のくせに』
『先輩に返信しないなんてどういうつもりかしら?』
『何故既読もつかないの?』
どんどん沈んでいく桃子。
『もしかしてご立腹かしら?』
『なんで既読されないのかしら』
『もしかしてブロックしてしまわれたの?』
着信通知。
着信通知。
着信通知。
『電話も出ないなんてどういうことなの!!!』
『今何をしてらっしゃるの?』
『何か御用時があるの?』
『怒らせたならごめんなさい』
もう一度着信通知。
『六道、寝てしまいましたの?』
『六道のためにドレス用意してもらいましたのよ』
『六道のために用意しましたのに』
『着てくれないとドレスが可哀想ですわ』
着信通知x5
『六道』
『お返事欲しい』
『生きてますの?』
『わたくしのこと嫌い?』
『別に銀賞とったことそこまで怒っていませんわよ』
『シンデレラコンテストの写真はもう決まりましたの?』
(超絶構ってちゃんだな、パイセン……)
『六道』
『りく』
『お返事して』
『電話出てくださらないの?』
『別に寂しくなんてありませんことよ』
『勘違いなさらないでね』
『わたくし友達は大勢いますの』
(強がりか?)
『でも、今は六道とお話したいんですの』
『お返事まだですの?』
『お返事……』
まだまだ桃子からのメッセージは途切れてはいない。
あまりにも独りよがりなメッセージが続いているが、段々と沈んでいる桃子をみるとちょっとだけ可哀想になる。
構ってちゃんで、寂しがり屋で、甘えん坊さんなのだなと思う。
『すんません』
『トレーニングして風呂入ってました』
送信。
既読は送った瞬間につく。
そうすれば、次の瞬間には電話がかかってくる。
「もしも……」
「ちょっと六道!!!!! 何故わたくしのメッセージに既読も返事もしてくださらないの!!!!!」
「いや、だからあの……」
「わたくしがどれだけ寂しい想いをしたと思っているの!!!!!! いえ、寂しくなんてありませんことよ!!!!
あなたはまた先輩の顔に泥を塗ったのよ!!!! どうしてくれるの!!!!
ここまで恥をかかされたことったらないわ!!!!」
大音量で響く声に、思わずスマホを遠ざける。
「だから、筋トレしてお風呂入ってたんですって」
「わたくしより筋トレとお風呂が大事ですの!?!??!?!??!?! わたくしは二の次ってわけ!?!!?!!?!?
もっとわたくしのこと考えてくださる?!!??!!?!」
「いや、これが日々のルーチンだし……」
「なら、そのルーチンの中にわたくしのことを組み込みなさい!!!!!!!! わたくしはもうずっとあなたのことを考えていましてよ!!?!!?
あ、勘違いなさらないでね!!! あくまで憎き後輩として恨んでいたのよ!!!
決して寂しいとか何かあったのかとか、嫌われたのかとかブロックされたのかとか思ってなんてなくてよ!!!!!」
「パイセン、声でかいっす」
「大きくもなりますわ!!!!!! わたくしがどれだけ心を痛めたことか!?!!??!!?!?!
お分かり!?!!?!?!? ここまで心が痛んだことはありませんわ!!!!! 責任とってくださる?!?!?!!?!?!」
「えぇ……」
「今からそっちに行くから!!!!!!!! 責任取りなさい!!!!!!!!!!!!!」
「え? 今から? もう夜中だし……パイセン、俺んち知らないでしょ」
「もうとっくに調査済みですわ!!!11 もう向かってるから首を洗って待っていなさい!!!!!
あと何か必要なものがあったら言って頂戴!!!! 買っていくわ!!!!!」
「あ、じゃぁアイス食いたいっす」
「任せなさい!!!!!!1 あと10分で着くわ!!!!!!!
あ、御爺様に夜分にお邪魔する旨を伝えておきなさい!!!!! あとで直接言うけれど、一応六道からも言っておきなさい!!!!」
「なんでじーちゃんいるの知ってるんすか……」
「気になる方のことくらいすぐに調査しますわ!!!!!! 気になるって別に恋愛的とか、好意的なものではなくてよ!!!!
勘違いしないで!!!!! いい加減にして!!!!!」
ポイントを!!!!下からお願いします!!!!!
あと一言でもいいので!!!!
感想が!!!!
ほちいです!!!
↓↓↓↓↓↓↓↓