表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/27

そして異世界へ……

「やーまーだーくんっ!」


軽やかな声と同時に、徒歩で下校する俺の肩を叩く女子。振り向くと銀髪が舞っている。雪野(ゆきの)(もえ)だった。


「ああ、同じ方向だったっけ」


「どうしたの? なんだか今日、元気ないみたいに見えたから。ちょっと心配」


 まず俺が元気よく登下校してることなんて中学以降あったか? まあ、それは雪野も同じだな。この狂った世界では陰キャも皆、陽キャに変貌している。俺だけを除いて。


「いや……初日だし。これから高校生活に馴染むのも難しそうだったし」


「そんなことないよ! 今日の山田くん、すごくカッコ良かったよ!!」


 まるで話が通じない。チー牛の俺に「カッコ良かった」などという感想を言った奴は今日まで俺の母以外にいなかったぞ。


「なあ。雪野は、昔の俺を覚えてる?」


「当たり前じゃん! 昔から……ちょっとクールな第一印象だけど、やる時はバッチリ決める! って感じで」


 そうか、「昔」まで改変されてるのか。


 思考が暗澹(あんたん)としてくる。もう全てが終わっているのかもしれない。


「……こんなはずじゃなかった」


「えっ? 山田くん、本当に大丈夫?」




 その少し不安げな声を聞いたとき、ふと俺は、この銀髪美少女・雪野萌に何かが「残っている」可能性を考えた。


 というのも、雪野は魅香華(みかげ)鬼岩鉄(きがんてつ)馬流戸(ばると)指野見(さしのみ)なんていう唐突に生成されたクリーチャーではない。


 姿や性格は違っているけれども、こいつは昔から確かに存在した人間のはずなんだ。少なくとも名前だけは。




「雪野はさ、『ヒーロー』ってどんな人間だと思う?」


「ヒーロー? 山田くんみたいな人っ!」


「……じゃあ、カッコいい人とブサイクな人、どっちがヒーローっぽい?」


「カッコいい人!」


「努力してる人と、努力してない人ではどっち?」


「もちろん努力してる人!」


 そうだよな。俺もそう思ってるよ。当たり前だけど。そして雪野、早く自身の間違いに気付いてくれ。


「もうひとつ質問。今度はちょっと違うのを。雪野は、もし『自分の(かばん)を開けたら自分のじゃない100万円が入っていた』としたら、どうする?」


「えー!? それはびっくりだねー!! でも、やっぱり交番に届けるよ」


「せっかくの大金なのに?」


「うん。だって『それは私のものじゃない』から」


 その答えを聞いた時、俺はほんの少しだけ、雪野とわかり合えたような気がした。


「そうだよな。そして、この力も『俺のものじゃない』んだよな……」


「山田くん。その力は」


 グワッシャアアアッ!!


「え?」




 何だ、今の爆音。


 驚いて振り返った瞬間、もう大型トラックが目前に迫っていた。


 その一瞬が、とんでもなくスローになる。


 交差点で車どうしが衝突、その勢いで突っ込んできたらしい。


 ほとんど止まっているように見える、驚いた表情の雪野。


 こいつだけでも助けなきゃ! しかし無情にもトラックは異常な速度で向かってきている!


「ギガ止まれェェェッ!!」


 あ、ダメだ。どう足掻(あが)いてもタイミングが悪すぎた。


 俺はせめて少しくらい緩衝作用を生むかと思い、雪野を抱きしめるようにして(かば)う。


 ちなみに「ギガ止まれ」は、思わずトラックのエンブレムを読んでしまっただけだ。


 無音で俺は()ねられた。


 体が、脳が、飛び散る感覚。


 死んだな。


 こんなチート能力を得ても、それさえ超える力には一瞬で殺されるみたいだ。


 雪野。助けられなくてごめん。




──────




「ま……やま……山田……一郎よ。おまえは、まだ死ぬ時ではない」


 衝撃で真っ赤になったまま止まっていた視界に、俺の意識が帰ってきていた。誰かの声が聞こえる。


「山田一郎、おまえは生まれ変わるのだ」




 ……俺の悪夢は、まだ死んでくれていなかったらしい。




 まさかの唐突な転生! 狂った世界から、さらに狂った世界へ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ