初授業・体育
俺達は高校敷地内の離れにある、だだっ広い道場で正座させられていた。
ホームルーム後がいきなり柔道の授業、というスケジュールなのだ。
ごわごわの真新しい道着。帯の結び方もイマイチしっくりこない。あれ? 着物は左が前でよかったんだっけ?
「俺がァ! 体育の授業と! 生徒指導を担当するゥ! 鬼岩鉄厳象だァッッ!!」
モヒカンに髭に身長190センチメートル超、体重は……想像もつかないが150キロくらいか? とんでもない怪物がこの授業の先生らしい。本当に帰りたい。
「よォし! 早速だがウサギ跳びだァ!! 全員、道場を30周ゥゥ!!」
「えーっ!?」
俺たち生徒の悲鳴が響く。
このモヒカン髭、いつの時代の人類だよ。たしかウサギ跳びって膝によくないとか言われてるんじゃないのか?
「先生! ウサギ跳びは非科学的です! そのような指導は間違っています!」
「なんだとぉ貴様ァ!? 名乗れェい!!」
「私は指野見! 指野見茶池子ッ!!」
二人ともどんな名字だよ。そう思いつつ、俺はモヒカン髭の後ろに位置する道場の窓から、高校の敷地に広がる緑を眺めていた。4月はこんなテーマパークみたいな学校じゃなかったぞ絶対。
「ほう? 俺様に逆らうというんだなァッ!? では貴様らの中から代表を選ぶがいい。俺様に柔道で勝てたら、ウサギ跳びは免除してやるゥ!! ついでに単位もくれてやろう!!」
あー。じゃあ誰か、頑張ってね。あと教員が「俺様」とか「貴様」って言うのダメでしょ。知らんけど。
「やってやろうじゃねえか! 俺は中学時代、柔道で県代表! 馬流戸角竜ッ!!」
「ホウ! 少しは楽しませてくれよォッ!!」
突然叫びながら前に出た馬流戸って、こいつさっき俺に足を引っ掛けてきたモヒカンじゃないか。その性格で、その名前で、その髪型で、柔道の県代表なのか。
畳に引かれた四角いラインの中央で、モヒカン二人が対峙。先生には及ばないものの、馬流戸もかなりデカい。
「先生、開始の合図はいいのかいッ?」
「そんなもの要らぬわァッ!! ヨーイドンでしか闘えぬ者は! 武道家とは呼べぬ!!」
「へッ、そうかい」
そう呟いたかと思うと、仁王立ちの先生に馬流戸がいきなりタックルを仕掛けた。速い。レスリングのような動きだ。
ドッ。
「な……何だとォ」
かなりの勢いで激突されたにも関わらず、微動だにしないモヒカン髭先生。
「どうした? それで意表を突いたつもりかァ? では見せてやろう、これが『後ノ先』だ」
そう言い放つと、先生は脚に張り付いていた馬流戸の頭部を掴み、引き剥がし、野球のピッチャーみたいにブン投げた。
ズォァッ──ドゴォッッ。
水平に飛んでいき、道場の壁に突き刺さった馬流戸。そのままピクリとも動かなくなった。
いや柔道でそんな投げ方したらダメだろ。
「がははははッ勝負アリィィィィッ!!」
「あら先生、ヨーイドンですわよ?」
「何ィ!?」
驚いたのは、その場に居合わせた全員だったろう。
声のほうに視線を向けると、先生のバカげた巨体がするりと持ち上がり、今まさに叩き付けられようとしていたのだから。
それも小柄な美少女、指野見茶池子の手によって。
いきなり濃い奴らが出てきましたァッッ!!




