悪夢
「山田くん……」
聖剣リイグスターが、小さく震えている。俺には核心に触れているという実感があった。
「この世界で、俺だけが『出来損ないの歯車』だったらしいな。こんな、現実から外れた場所でも……同じようなもんだ。なあ雪野」
「山田一郎よ。それは『外側』の話だな?」
「そうですよ。そして、そうなると貴女の『創造主』という立場の正体もわかってきました。さっき貴女自身が挙げた例の通り、貴女は『物書き』に過ぎない。それ以上の何でもない」
乳神は吸っていたキセル状のものを掌の上で回転させた。その瞬間、キセルは煙と一緒に消え去った。
「……我までも、『歯車』であると」
「その通りです。貴女も歯車であり、アナタにも『創造主』が存在する」
俺は光る刀身を見つめ、言った。
「雪野、その『自覚』はあるか? それとも、自分では本当に『わかっていない』のか?」
長い沈黙が、この日常によく似た異次元を通り抜ける。
雪野が質問に答えなかったことで、俺の推論は確信に変わった。
この世界は「雪野萌の意識によって」構成されている。言わば「雪野の夢の中に閉じ込められた」ってこと。
本当の創造主は、雪野自身なんだ。
……どうしてこうなったのかは不明。そして、ライトノベルのテンプレだらけみたいな環境なのに、俺だけは脂ぎった醜男チー牛のまま連れて来られた。
しかし、一度死んでからの異世界転生やアルとの「同化」によって、俺という自己同一性も「上書き」され、消されようとしている。
なぜか? 俺こそが世界の「破壊者」だからだ。
さっき雪野自身が、わざわざ教えてくれていた。「あなたにとっての敵は、『この世界そのもの』なんですよ」という言葉で。
そして「ラスボス」という表現。
「雪野、答えてほしい。雪野の言う『ラスボス』とは誰なんだ?」
聖剣は話さなかった。
「さっき自分で『宇宙の理』を破壊したよな。あれで、この世界そのものが崩れてきてる。そして『ラスボス』と言ったのは、ここにいる『歯車でしかない創造主』を、俺の手によって始末させるため。そうだろう?」
リイグスターは応えない。
「……何も言わないってことは、さ。ねえどう思います?『偽りの神様』」
乳神は、何処を見ているのか判然としない表情だった。
「なるほど。山田一郎、おまえの話す道理に従えば、おまえたちは『似た者同士』ということであるなぁ」
頭を掻くように手を滑らせると、乳神はまた取り出してきたキセルを吸い始める。
「聖剣リイグスター……雪野萌。おまえも、山田一郎と同じく『死にたがり』のようだ」
掴んでいた剣が、急に熱を発した。俺の掌から前腕にかけ、焼け焦げている。それでも俺は離さない。
「……終わらせてほしかったの。この悪夢を」
「雪野。きみも、俺と同じように」
「そうだよ! 何もかも忘れていたかったのに、思い出してしまったの。山田くんが、私に触れた時、全てを……私は……」
その声は泣いているようだった。涙は零さずとも、雪野は確かに泣いていた。
まさかの夢オチ展開なのかッッ!!?




