破壊者は誰だ
「実在しないって……どういうことっすか?」
「山田一郎。雪野萌。おまえたちの記憶を辿る限り、『おまえたちの認識では』ここは『変わり果ててしまった世界』なのだろう。ある日、世界が急におかしくなったというような。そうではないか?」
俺は光る聖剣を見た。
「雪野も…… 元の記憶があるのか?」
「えーと。ま、まあ多少ある、かも」
なんでいきなり動揺してんだこいつ。しかしその弱々しい態度が、陰キャオタク天然パーマ(貧乳)時代の雪野を思い出させた。
「それには二人とも同意できるようじゃな。しかし、だ。先に言っておくと、我は宇宙の『創造主』であり『管理者』であり……『語り部』でもある」
「語り部?」
「おまえたちが存在し、認識するこの世界とは、『我が語ることによって』初めて存在となるのだ」
神なんだからもう少し人間共に理解できる言葉で説明してほしいんだが、それは俺がアホなだけなのか?
「あー、難しいか。じゃあクソ簡単に言うわ。我が小説家、この世界を物語としよけ。ほな我が書いたままのストーリーで進むし、我が書かんと話はそこで終わりやろが。わかるやろ」
「その関西弁みたいな喋り方、威圧感あって怖いんでやめてもらっていいすか?」
「ほなどうせえ言うのよ」
「いや、大体わかった気がするんでもう大丈夫です」
乳神は延々タバコの煙を吐き出し続けている。割と本気でイライラしてそう。
「それで、その神様が言う『実在しない』というのは?」
「おまえたちの記憶の『内容』だ。山田一郎も、雪野萌も最初から『この世界に』生まれ落ちており、『前世』のようなものは何時にも、何処にも存在しないはずなのだよ」
どういうことだ? いや待てよ。
「すいません、じゃあ貴女は俺たちの知る『どの世界から』創り始めたんでしょうか?」
「最初からや」
「最初って?」
「いや、せやから1話から」
こいつ本当に話が通じねえ。何が創造主だよ。
「さっき、おまえたちに殺されたマイコ・ラスという人間が言っておったろう? 『この世界の理から外れた力』だと。おそらく、我すら知らぬ『ここではない宇宙』がある……ということだ」
「それを俺たちは知ってます。ずっとそこで生きてきたし、俺が生きるべき居場所なんです。もし帰れるなら、の話ですけど」
虹色の煙の奥に、神の眼を見る。
「……それが可能かは我にもわからぬ」
「山田くんは、帰りたいの? 元の世界に」
不意に雪野 (聖剣)が問いかけてきた。その声色に、俺は何らかの意思表示を読み取った。
「帰りたくないって言うの? 雪野は」
「だって! 帰ったとしたら、またあんな生活に戻るんだよ」
あんな生活。
チーズ牛丼を好む不細工で脂ぎった男子高校生と、天然パーマ陰キャオタク女子高校生(貧乳)。まるごと無価値に感じられた生。
そこで、俺はひとつの仮説に辿り着く。いや、おそらく俺じゃない。気付かせたのはアルだ。
「……いつからだったか」
俺はアルの記憶の抽斗を開ける。
「この世界をどこか『作りもの』のように感じていたんだ。全てが『神の決め事』なんじゃないかと」
「えっ? 山田くん?」
「俺も、世界の『歯車』のひとつに過ぎないんだろう?」
雪野は、そのことに気付いているはずだ。
「それは……どういう……」
「それでいながら、この世界には『破壊者』が存在してるんだよ。言ってる意味がわかるか? なぁ、雪野」
何かに気付いた山田一郎ッッ!!?




