格付け
修練場は中庭にあり、陽光が射し込んでいた。バスケットボールが出来そうなくらいの広さがある。
「ルールは……そうね。貴方が『降参の意思表示をする』か、もしくは私が『足の裏以外が地面に着く』のどちらかで勝敗を決める。それでどうかしら?」
先に広場の中央まで歩き、マイコ・ラスが青のポニーテールを靡かせながら振り返った。表情は根拠のない自信に満ちている。
こういうの、つい先日やった気がするんだけど。まあ俺のほうはその後すぐ死んだけどさ。
「流石に条件は揃えましょうよ。両者とも『まいった』と言わせたら勝ちってことで」
「くすっ、ご大層な自信ですことね」
それ完璧にお前のことや。ブーメランにも程がある。
「でも、その自信……」マイコ・ラスの纏う空気が突如、暴れだした。
「なめられたものだわ! さあ、いつでも来なさいッ!! チーギュとかいうクソゴミがよォッ!!!」
美しい青の髪を振り乱し、鞘から剣を引き抜く。その体からは魔力が迸り、華麗な鎧の細工をガチガチ震わせている。
「はーい、じゃ行きます。聖剣双魔竜吼」
ズァボボォォォオッ。
「ひっ!?」
マイコ・ラスは悲鳴をあげかけたが、その前に、聖剣リイグスターから生じた魔竜は彼女の装備すべてを破壊し終えていた。
バラララバッ。
散りぢりになった剣や鎧は、少しの間をおいて地面へ。
マイコ・ラスは肌着だけのような、微妙にエロい露出状態となった。
「く……嘘、こんなことが」
「もう終わりにしときません?」
「誰がッ! この程度、まだ私は何も! 何もしていない!!」
デフォルトの巨乳を揺らしながら吠えるマイコ・ラス。
「必要ですかね? あなたがその『何か』をする余裕」
彼女の背後に回り、耳元で俺は囁いた。
「ひぐぅっ!?」振り返ることも叶わないまま、恐怖を全身で表現するマイコ・ラス。その首筋に汗が流れるのが見えた。
やはり俺のスピードは、人間の眼で追えるレベルを超えているらしいな。
「そ……そんな、私は、私のこれまで積み重ねた努力は……」
「まだやるかい」俺は出来るだけ低く、強い声で言った。
「やだ……負けたくない……こんな……生き恥を」
「じゃあ今、死ぬか?」
「あひゅっ」
脅しが効いたらしく、マイコ・ラスは糸が切れたように崩れ落ち、尿を漏らした。もう失禁もこの世界のデフォみたいな扱いになっちゃってるけどいいのか?
「な、何てこった! マイコが、何もさせてもらえずに負けたッ!!」
「強え! 強えよコイツ!!」
「見ろよ、漏らしてやがるぜ。無様なもんだなァ」
「しかしあのチーギュって奴、強すぎねえか?」
「カパデミア最強の男だぞ! あいつをパーティに入れれば無敵だッッ!!」
これで「転生」についての情報を聞き出せるだろうか。マイコ・ラスのことだから、知らないのにハッタリかましてただけの可能性も無くはないな。
己の尿にまみれた哀れな女を見下ろしつつ、俺は敗者の側だった前世を思い返していた。
その山田一郎という「現実」は遠ざかり、俺はもう随分遠くまで来てしまったらしい。
格付け完了ッッ!!




