レベルとスキル
お姉さんはカウンターにガランと音を立ててお盆を置くと、うずくまるようにして全身を震わせ始めた。特に耳が羽のようにパタパタと激しく痙攣している。
「あた、あた、あたなとしゅ、こんなことが……うそぉ……」
「あの。大丈夫ですか?」
「んふぅ、あ、あひゅっ」
明らかに様子がおかしい。巨乳でお盆を押しつぶすように体重を預け、白目を剥きかけている。
よく見ると派手に失禁しており、スカートの下からびちゃびちゃと水の流れる音が響いていた。
「にゅっ、こ、こんな坊やにぃっ! ふし、ふし」
なんか怖いな。
「あ、お忙しいとこすいませんでした。俺そろそろ失礼しますね」
カウンターに突っ伏し涎を垂らしているお姉さんに小さく一礼すると、俺は静かにその場を離れようとした。
「ど、どうした!? 何があったんだ!? おーい大変だ!」
「ルナの奴が! どうも新入りの冒険者を測定中に倒れたみたいだ」
カウンターの向こうから異変に気付いた職員が3人ほど駆け寄ってきた。
「おい、しっかりしろルナ!」
「あぅ……しゅ、しゅきるぅ……」
「何だって? スキルがどうしたって言うんだ?」
2人がルナという名前らしいお姉さんを少し奥に運んで寝かせ、その間に一番強そうな犬か馬っぽい顔の大男がカウンターからガラス板を拾い上げ、天井にかざし見た。
「なんだこりゃあ!? レベル74、スキルが14項目……あ、「不死」!? 「統治者の資質」!?」
やれやれ、面倒なことになってきたぞ。
ゲームの主人公みたいな立場でこの世界に来た以上、自分が何らかの「特別」であることは仕方ないのかもしれない。
しかし、それで過剰に持ち上げられてチヤホヤされつつ無双していく……という未来が既にチラついてしまっている。
あの突然おかしくなった高校生活1日目のように。
「……おまえさん、何者なんだ!?」
「それは俺のほうが知りたいですね」
「不死ってことは、本当に不死身なのか?」
不死身?
そういえば、あの青いモヒカン巨人に引き裂かれるたび凄まじいダメージが表示されてたな。とんでもなく痛かったし。あれ、本来なら致命傷だったのか。
なるほど、あの≪スキル発動≫は怪物のじゃなく、俺の不死って意味だったらしいな。
そして本来なら倒せるはずのない奴を丸一日かけて削り倒したから、理不尽なレベルの上がり方をしたんだ。たぶんそういうことだろう。
「あー、ここに来る途中で青い巨人と戦ってきたんですけど、万単位のダメージ食らっても死にませんでしたね」
「青い巨人って、ブルージャイアントのことか!?」
「え? 別にサックスは持ってなかったと思いますけど。あ、いやそういうことか」
「何言ってるかわからんが、もしかして倒しちまったとか言うんじゃねえだろうな?」
「倒しちゃいましたね。まずかったですか?」
「うあああッ!! 大変だ!! この若いのが! ブルージャイアントを討伐したらしいッッ!!!」
獣人のおっさんは唾を飛ばしながら、建物内に響きわたる大声で叫んだ。ウイルスと噂話が飛散するからやめてほしい。
やはり主人公は騒動を起こす! 俺、また何かやっちゃいました!?




