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継承

 こんなにもあっさりとアルは、カパデミア王子だったアルフォンは死んだ。


「これでカパデミアも内側から崩壊だなァ! 城壁も結界も、中に入られちまえば何の意味も持たねえんだよォバカ共がァッ!!」


 つい今までアルフォンが存在していた場所には、(まと)っていた全身を覆う赤い布と、その中に細身の剣が遺されている。


「その聖剣を手に入れて! 俺様は無敵の支配者になるんだァッ!! そこのおまえ、まさか邪魔するコトなんて考えてないよなァ!?」


 俺はアルを殺した者の声をぼんやりと聞きながら、その剣に触れた。


≪装備不可≫

≪アバターを「アルフォン・カパデミア」に変更します≫


 (ほとばし)り、俺を包む光。


 次の瞬間、俺はその剣と赤い布を装備していた。


「てめェ!? 何しやがったッッ!! さては俺様に逆らうつもりだなァァ!!!」


 聞こえる。


 そこにいる奴のくだらない話じゃなく、アルの声が。アルフォン王子の生きた記憶が、俺の脳に追加されている。


「横取りしやがってェ殺してやるッ! その聖剣リイグスターは俺様のもんだァッ」


 その敵意に満ちた言葉とともに、モンスターの禍々(まがまが)しかった姿は「アルフォン王子のニセモノ」としてギリギリ合格点があげられるくらいまで変化した。


 襲いかかってくるニセアルフォン。


 俺が次の瞬間に望む光景を浮かべると、聖剣は「自動的に」鞘からその刀身をさらけ出していた。


聖剣放衝撃波(プロノタマヤナイ)


 俺は剣先で標的を示すと、アルの記憶を頼りに呪文を呟く。


 ゾッッ!!


 触れることなく、モンスターは切り刻まれた。


「ガァッ……バカな、それを使いこなせるのはカパデミアの……まさかてめェが『ホンモノ』か……」


 口の悪いモンスターは消滅。


 俺だけが、静かな廃屋(はいおく)に残されていた。




 ……カパデミア王子・アルフォンの記憶。


 広大なお城での何不自由ない暮らしと、英才教育と、王位継承者としての重圧。そして、生きるほど学ぶほど膨れあがる「自分は世界の歯車に過ぎない」という確信めいた答え。


 時々は城を抜け出し、「何者でもないアル・タルヴォキン」として街をぶらぶら歩いた。そこに正義とか悪なんてものは無く、ただ人々が精一杯に生きていた。


 川上のペルドモ村に住む予言者・ブラウン長老が15年前に広めた「エルドレッド家の奇跡」の予言は、カパデミア王族の耳にも届いていたのだった。


 アルフォンは「歯車の自分」と「それを(こば)みたがる自分」の間を揺れていた。


 身分を隠して弱き者を助けたり、誰かを笑顔にしたり。それはアルフォンにとって、運命に対するせめてもの抵抗だった。


 そこに現れたのが俺、チーギュ・エルドレッド。「運命そのもの」として登場し、アルフォンに真の名を名乗らせ、絶命に追いやった張本人。




「……全部、俺のせいだっていうのか? なあ。神のクソ野郎!」


 無意識に俺は吐き捨てていた。


 なんで、何もかも俺に背負わせるんだ。




 受け継がれる記憶! そして聖剣リイグスター!!

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