アルとの出会い
俺の目を眩ませていた光が消えると、俺と赤い少年は屋根の上に座っていた。
「ひゃっ!? た、高い……とこ!」
俺は反射的に身を伏せた。高所恐怖症なのだ。生きてる意味は無くても、死を意識するのは死ぬほど怖い。
「一瞬だけ姿を消して、さっきの入口から真上に飛んできたんだよ。どした? 高いところが苦手なの?」
「いやほんと無理です無理なんで無理です高いの高所恐怖症なんで」
「……んー、どうするか。まだ下はさっきの奴らで盛り上がってるからなぁ。じゃあちょっとだけ移動ね! そのまま目を閉じてて」
震える俺の頭に、ポンと手が置かれた。
「高速飛行魔法」
ふわっと体が浮いた感覚の直後、冷たい風に吹かれる。
話の流れ的に俺、今これ飛んでるんだろうな。
そう考えてしまった瞬間、無いはずのキンタマがヒュンと縮み、下腹部に熱いのか痛いのか判然としない何かが渦巻いた。
俺は失禁していた。ちんちんもパンツも無いのでダイレクトに尿を噴射している。
「……? ねえ、大丈夫?」
意識が戻った時には、俺はボロ布団の上だった。こっちを覗き込んでいた赤い眼から慌てて視線を逸らすと、屋根が吹き飛んだ廃屋のような場所に二人きり。
「え、ここは?」
「まあ隠れ家的なとこさ。誰も住んでいないし、ここならまず見つからないだろう。……それより、きみは体が弱いみたいだな。もう大丈夫? 落ち着いた?」
なんだか気まずそうに話す少年を見て、俺はついさっき自分が尿を撒き散らして失神したことを思い出した。
「いや、あ……」
恥ずかしすぎる。言葉が何も出て来ないンゴ。
そう言えば股のとこ乾いてるけど、この人が何か配慮してくれたんだろうか。消えたい。
空気を読んでくれたのか、赤い少年は咳払いをひとつして、壊れた屋根から見える空を見上げた。
「きみの青みがかったような銀髪は、このあたりの血族には見られないものだね。どこから来たの? 名前を聞いてもいい?」
明るい声でそう言うと、彼は全身を隠している赤い布のうち、フードのようになった部分を脱いでみせた。
「……ぼくはアル。アル・タルヴォキンだ。よろしく」
肌こそ白いが、髪の色まで人間のものとは思えない鮮やかな赤。そして異様なまでの美少年だった。
「あ、ワタシはチーギュ・エルドレッドです」
「エルドレッド? では出身は、川の上流の村あたりか?」
「あ……えー、そ、そうですね。はい」
「ふぅん。そうか、そうなんだね」
美少年は口元に片手を寄せ、少し考えるような仕種を見せた。その耳には高級そうな赤い宝石のイヤリングをしていたので、女の子のようにも見える危うげな美しさだ。
「それで、さっきはどうして案内所なんかに?」
「それはですね。えーと」
さて、困ったぞ。
どこから何から説明したらいいのか全くわからないし、そもそも俺は人に話すのが絶望的にヘタだ。生まれてから15年の間、まともに人と関わってこなかったせいで。
「あの……どう言えばいいか」
「大丈夫! チーギュ。きみが話せる範囲でいい。したくない話は心にしまっておいていいから、ゆっくりでいいから、話してみてくれる?」
あー、この人めっちゃイケメンだわ。心もイケメン。
これなら俺、同性もアリかも知れない。あ、いや今は異性か。くそっ色々ややこしすぎる!
いきなり失禁する山田一郎のメンタルは、やはりクソ雑魚だ!
そしてアルと名乗った美少年はいったい何者なのか!?




