遭遇、モンスター
……気がつくと、俺は川辺で鼻と口から水を吐いていた。
「がぶぁっ、ごぼ」
なんとか上体を持ち上げる。あれで生きてるとは不思議なもんだ、とか思ってる今も水は口から湧き出てくる。
……こんなに水飲んじゃってたら俺、死んでるはずじゃないのか?
髪飾りとかは早速すべて失ってしまったが、衣服は無事だった。いや待てよ。もう乾いてるぞ。どういう世界なんだ?
あ、短剣もある。何だかさっぱりわからないけど、とりあえず武器はあったほうがよさそうだ。
周囲は人気のない森のようだった。
そういえばこの剣、ちゃんと斬れる代物なんだろうな? 俺は鞘からゆっくりと引き抜いてみた。
≪モンスターとの戦闘に入る!≫
「はっ!?」
脳内に直接出力されたかのように浮かび上がる字幕、音声。
「何だよ! 誰? モンスターって?」
「ガボァァッ!!」
背後から、身を震わせる怒声。
驚いて振り向くと、そこには人の形をした青い怪物がいた。
2メートル近い体長、とんでもない筋肉量。盛り上がった頭はモヒカンのような……あれ?
「き、きき鬼岩鉄先生!? なんか青くないですか」
「グァボボォォッ!!」
いきなり襲いかかってきた青い先生 (仮)は、その豪腕で俺の体を袈裟がけに引き裂いた。
≪8836ダメージ≫
あ、死んだ。
俺の口から血が溢れ出る。そしてなんか変な数字も出てきた。
≪スキル発動≫
「雪野……体、ごめん……あ、あれ?」
自分の体を見下ろすと、傷も服も治っている。
今のは幻覚?
目の前には猛り狂う青先生。こいつの仕業なのか?
「くそぉ! 生きてんなら、やるしかないじゃねえかッ」
さっき与えられた、身がちぎれたような激痛の感覚。それは俺の精神を覚醒させていた。いや、心を破壊したというほうが適切かもしれない。
痛みが俺の恐怖を殺した。
「オラァ!」
ビッ。
≪1ダメージ≫
俺の振った短剣は、青先生の脚に跳ね返された。
「1は流石にギャグだな」
「ガアァァッ!!」
ザグォッ!
≪10012ダメージ≫
俺の視界が朱に染まる。5桁はひどいな。
≪スキル発動≫
瞬時の激痛が消えると、切断されたはずの俺の体は再び元に戻る。
このスキルってのは、青先生が見せる「死の幻」のことなのか?
まあいいや。こうなったら、どっちかが本当に死ぬまでやってやらあ。
「らぁっ!」
ガッ。
≪2ダメージ≫
「2が出たァッ!」
「グボボォァ!!」
ザッシャァッッ!!
≪ダメージ9967≫
≪スキル発動≫
痛ってえ! 飛び散り、元に戻る俺の体。
俺は痛みからくる怒りと高揚で青先生の足首にしがみ付き、アイスピックのように持ちかえた短剣でガツガツ刺しまくった。
≪1ダメージ≫
≪1ダメージ≫
≪1ダメージ≫
≪クリティカル4ダメージ≫
≪1ダメージ≫
「グァボォゥアッッ!!」
≪クリティカル39444ダメージ≫
まさに桁違い。そんなやり取りを繰り返しているうちに日は暮れ、また上ってきた。
先生も飽きないな。俺はこういうチクチク内職してるみたいなやつ、そんなに嫌いじゃないけど。まあこれなら技術とか必要無いし。
……
≪1ダメージ≫
≪1ダメージ≫
≪1ダメージ≫
「グゥゥ……アボァ」
ズズゥゥン!
青先生は遂に倒れ、巨体が砂のように散っていった。根気の勝利だ。
≪レベルアップ! 1→74≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
≪スキル習得≫
「ふう……マジで『やれやれ』だな」
謎の≪≫出現! この括弧は何なのかッ!?