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初登校

 やれやれ、狂ってる。


 ……などと肩を(すく)めて苦笑でもしていれば、この世界に俺も馴染めるんだろうか? そんな芝居がかった仕種(しぐさ)、どうにも俺の性分じゃない。


 そう。間違いなく、こんな現実は狂っている。俺は(あぶら)ぎった自身の鼻を手で擦った。くせえ。鼻が。しかも手がべったべたになる。


 俺だけが昨日までと同じだ。相も変わらず、俺は顔から頭皮から脂を噴出する不細工な15歳児で、好きな食べ物は3種のチーズ牛丼。通称「チー牛」。そして万年帰宅部。


 やっぱ現実なんだよな、これ。まったく絶望だ。


 指先のべたべたを、着ているシャツの腹で拭いていたところ、肩をトントン叩かれる。


 (おもむろ)に振り向くと、頬を赤くした銀髪の美少女が、上目遣いで俺をじっと見ていた。いや顔が近すぎる。


「ねえ山田くん。わたし、高校でも山田くんと隣どうしの席になれて嬉しいなっ。なーんて! てへっ」


 そう言い終わると同時に、招き猫とファイティングポーズの中間みたいな姿勢まで両腕を動かした美少女。ハンドボールを制服の下に2個入れてるんじゃないかと思わされる巨乳が、その両(ひじ)の挙動によって挟み込まれる。


 この女の名は雪野(ゆきの)(もえ)といった。


「よかったね。おめでとう」


 俺は棒読みコメントを返すことで、悪夢のような現実に精一杯の抵抗をしてみせる。


「あのっ。そ、それでさ。山田くんさえよかったら、今日……一緒に帰らない?」




 あまりに眼前の世界が狂いすぎていて、いったいどこから整理をつけていくべきか困り果ててしまう。


 確かに、雪野萌は小、中と同じ学校だった。五十音順の都合で何度か隣り合ったこともある。


 しかし、そもそも本来の雪野は銀髪でも巨乳でも美少女でもないし、チー牛は食わずとも俺同様の陰キャオタクで天然パーマだったんだから、俺とはせいぜい事務的な会話を交わしたことが数回ある程度の関係なのだ。


 どうして。どうしてこうなった。




 今年の冬、アジアで発生したらしいアデノウイルスの変異型による新型肺炎の流行。


 日本国内ではそれほど深刻な被害が出たわけじゃなかったが、学校は4月に入学式だけ登校したあと、ゴールデンウィーク明けまで自宅待機が続いていた。これは全国各地の話だ。


 中学校を出たばかりの俺からすれば、これからの不安が半分、とりあえずまだ休日が続いてくれるという怠惰(たいだ)安堵(あんど)があと半分、という思いだった。


 5月。ようやく高校生としての新しい生活が始まる。


 俺のクソみたいな人生も、ここから何かが少しは変わるんだろうか。少しの期待を胸に、門をくぐった。


 そしたらこの(ざま)だ。


 隣の席の雪野だけじゃない。クラスには赤青黄緑紫金といったエグい髪色が並び、女子はみんな美少女で、ほとんどが巨乳で、半数がスカート短すぎて常時パンツが見えている。


 アニメの中でだけ聞いたことがあるような話し声が(あふ)れかえる教室。制服のデザインは各人バラバラで、胸のあたりの素材がラバーか何かで出来てるのか? 服が乳そのままの形に張り付いている。


 男子はもう少し種類が多様であるものの、大半は前髪で顔が半分隠れた超イケメン。そこに身長が2メートル以上ありそうな奴、筋肉ムッキムキの奴、いきなりノートパソコンを開いている奴。


 全てが不自然すぎるんだ。まるで何もかも作り物みたいに。


 俺だけが、何も変わっていないのに。




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