99 御光と風
ジルバ・ディンバー。
彼はこの帝国の皇太子にして最強の戦力と評されている。
身体強化を除き魔法ではなく武力を至高とする帝国において、その武力が秀でている。からではない。
彼には特殊なスキルがあったのだ。
本来、生まれ持ってくるスキルは1つとされており、極稀に後天的に開花させる者も居るがそれは長い歴史でも数える程である。
そんな歴史を嘲笑うかのようなスキルを持つジルバ。だからこその最強たる評価を得ているのである。
そして、事実彼に敵う相手は帝国には居ない。
その情報は敵国エイルリアにさえバレていない。
自国の問題である革命軍という反帝国組織を鎮静化させ、万全を期して攻めるまで伏せていたのだ。
もっとも、実のところエイルリア王国の一部の人間にはバレてはいるのだが。
それはさておき、その敵国の主要防衛能力たるウィンディアの次男が目の前に居る。
噂ではその一族の恥さらしという話だったが、やはり噂は噂。なかなかの戦闘能力を有しているように感じた。
しかし、それでも問題という程ではない。
ジルバは最上階からこちらに飛び出してくる彼を見ながら笑った。
さて、5つのスキル、どれで料理してやろうか、と。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最上階から飛び出し落下する勢い、その運動エネルギーをそのまま伝えるかのようにロイドは両手にかき集めた風をジルバへと叩きつけた。
ジルバはダメージをもらう事を理解してか、今度は受ける事なくサイドステップで躱す。
ロイドは風を放った反動で落下速度を無くすと、今度は風を纏い弾く事で空中でジルバを追うように方向転換、加速した。
「どーした?受け止めるが怖くなったんか?」
「そうだね。僕の”御光”を突き抜けるなんて驚いたよ」
御光。それがこの防御スキルの名前か?とあたりをつけるロイド。言われてみれば確かにほんのり表面に光りのようなものが見えなくもない。
「ふーん。そのしょぼい光がお前のスキルか?」
「しょぼいとは随分だね。君こそ風の魔法なんてしょぼいものを使ってるじゃないか」
ロイドは風の砲弾を放つが、ジルバの御光に弾かれていく。
「四大魔法でもこと威力に欠ける風で僕に挑むなんて無謀だよ」
「その風に吹き飛ばされて地上まで落ちたくせによく言えたな」
「そうだね。そこは本当に驚いてるよ。さすがはウィンディアと言ったところか」
ロイドは馬鹿にしたような口調で返す。少しでも挑発して隙を作りたいが、しかしジルバは冷静だった。
「はっ、そうやってスキルに篭って逃げるだけの皇太子サマに褒められてもな」
「ははっ、君は本当に口が回るね。そこまで言うなら反撃といこう」
更なる挑発に笑顔と地面が隆起して出来た槍が返された。
ロイドはそれを風の高速移動で躱し、すぐにカウンターの要領で風の砲弾を放つ。
「無駄だよ。御光は一度発動すれば破れるまで自動で展開されるからね。隙はないよ」
「………」
その動きにロイドの狙いを読んだのか、ジルバは余裕を感じさせる口調で言う。ロイドは無言ながらも内心舌打ちをした。
ジルバの言う通りだとするなら、大火力の攻撃以外は無意味だという事になる。
だったら速さと連打重視の接近戦は無意味と考えたロイドは一度距離をとる。
「逃げるのかい?」
「誰が」
ジルバの挑発に軽く返しつつ、ロイドは頭を回転させる。
現状、ジルバの攻撃手段は土魔法。
防御を御光でカバーし、あとは最低限の回避を行う程度。
おそらく御光にものを言わせて突撃するスタイルをとるだろうと予想する。
四大でも土魔法は質量を伴う魔法であり、安定した威力を誇る。
物質として最も軽く、火のようなエネルギーもない風では正面衝突するのは厳しい。
魔力にものを言わせてゴリ押しすればいけることは先程証明したものの、何度も繰り返せば魔力が保たないだろう。
ではこちらの風が勝る速さで翻弄して向こうの消費を誘うか、とロイドは体に風を纏い始める。
それを見ていたジルバがふと目を細めて言う。
「……待て、さっきから気になってはいたんだが、君のそれは本当に魔法かい?」
「さぁな」
適当に返しつつロイドは再び高速移動を行う。
今度は迎撃するつもりなのか、ジルバは目で追えないながらも足元から全方位に向けて石の弾丸を無数に放った。
「おっと」
それをロイドは飛び越える事で躱し、そのまま空中で風を破裂させて加速。
上空から迫りつつ、右手の風を圧縮させていく。
「風もな、使い方で威力は上がるんだよ」
ロイドは吐き捨てつつその風を解放した。
解き放たれた暴風が術士の意思により鋭く研ぎ澄まされる。
砲弾は凝縮され、鋭い槍のように姿を変える。
風という性質でありながらも破壊力を伴うそれは、御光越しにもダメージを与えるに十分な威力だった。
「ーーだとしても、僕には届かないよ」
しかし、その風の槍もジルバが翳した左手から放たれた一条の光によって掻き消された。
「……あ?」
そして風の槍を貫いて尚突き進む光は、ロイドの横腹を貫いた。




