91 大暴れ
残されたシエルとグランは作戦Cを実行する。
「リーダー、作戦Cってなんだっけ?!」
「もう忘れたの?!逃げろって事よ!」
つい先程決めた3つの作戦を覚えきれないグランをシエルは強引に掴むと、一気に城壁へと加速した。
まるで視界から急に消えたかのような加速に兵士達は一瞬その姿を見失う。
「うおっ、はえー!」
「なんだあの女!速いっ!」
「まさか……!カイセンのシエルじゃないか!?」
グランや兵士の驚きを他所にシエルはさらに加速していく。
風を切って進む彼女の速度はもはや身体魔術と風魔術を全力で使ったロイドさえ凌駕する速度だ。
「逃すな!入り口を塞げ!あれがシエルならここでなんとしても捕まえるんだ!」
「”神出鬼没”を倒すチャンスだ!」
革命軍カイセン支部リーダーシエル。
彼女は帝国軍に”神出鬼没”と評され恐れられている。
その由来は何と言ってもその速度にある。
彼女には獣人の血が少ないながら流れている。
その遺伝が脚力という点に受け継がれており、さらには高い魔力を有している事から身体強化も高い効果を持っている。
さらに身体強化を部分強化にする事でさらに脚力を向上させる事で彼女は目にも止まらぬ速度で動く事が可能なのだ。
例え目の前に居たとしても見失ってしまう程の速度から彼女はそう呼ばれるようになった。
先回りしていた兵士達が慌てて城壁の門を閉めようとする。が、シエルはそれを嘲笑うかのように門へと向かわず城壁へと駆け抜けていった。
そもそも門から入っていないのだ。わざわざ兵士の多いルートを選ぶはずがない。
そうしてあっという間に入る際に開いた穴がある城壁へと辿り着いたシエルは、しかし飛び出す事なくブレーキをかけて止まった。
「ではグラン。あとは少しでも兵士を引き寄せて時間を稼ぐわよ」
「おうよ!」
そう、ここで逃げてしまえばロイドへ兵士を割く可能性が高い。
そうなれば作戦の目的自体が達成困難となってしまう。
ならばここで兵士を引きつけておくべきだ。
もっとも、だからといって正面突破でこの人数を相手にする事は難しい。
その為、退路を確保する事。そして壁を背にする事で敵が向かってくる範囲を絞る事にしたのだ。
「グラン、あなたは城壁や地面を使ってとにかく攻撃を仕掛けなさい。こんだけ居れば狙いも絞らなくていいわ」
「だな!魔力尽きるまで暴れてやるぜ!」
グランは城壁に手を当てて魔力を込める。
すると城壁から飛び出すようにして岩の破片が兵士達へと殺到した。
父親であるギランの技を真似たものだ。
「ぐあっ!」
「ちっ!」
それらの破片は直撃するものも居るものの、大多数の兵士達は剣で弾き飛ばしている。
グランやシエルは知らない事だが、サファイが言うように兵士達は対魔法の技術を向上させているのだ。
「この程度で抵抗してるつもりか?!」
「うっせぇばーか!」
勇しく吠える兵士に語彙の無さを感じさせる返しをするグラン。
しかし、返事とともに訪れた攻撃は思わず兵士達も言葉を失うものであった。
「に、逃げろぉお!」
「『ボディープレス』っ!」
『ボディー』じゃないだろ!という声が喧騒から聞こえる中、城壁の一部を切り取って兵士達に向かって倒すグラン。
巨大な城壁がこちらに倒れてくる。
なんとも凶悪な光景に兵士達は慌てて逃げていく。
――ズウウウウゥゥゥン!!
重量感を感じさせる轟音。土煙を巻き上げる城壁だったもの。
その脅威からかろうじて逃げ切った兵士達は、土煙により視界が奪われる中でグランへの怒りを高めていく。
「くそが!あのガキふざけやがって!」
誰がこのあと片付けすると思ってんだコラ!めんどくさいだろうが!という言葉を上官の手前飲み込みつつ吠える兵士。
視界が開けたら即斬り捨ててやる、と息巻く彼は、しかし次の瞬間に地に伏せる事になる。
「おい、誰か風の魔法でこの土煙をーーぐあっ!」
「なんだ?!どうかしたのかーーがっ!」
土煙の中兵士が次々と倒れていく。兵士達に混乱が広がる。
そして混乱にする声があがる度にその声の持ち主は斬られていく。
やっと土煙も消えてきて視界が開けた時にはかなりの兵士が血を流して倒れていた。
「さすが、おっかねぇぜリーダー…」
その光景を目の当たりにして思わず呟くグラン。
そう、辻斬りよろしく斬りまくっていたのはシエル。
瞬足をもって声という音を頼りに手に持つ短剣で手当たり次第斬って回ったのだ。
「ふぅ…だいぶ数は削りましたね」
「でも結構魔力使っちまったぜ…」
兵士の数は目に見えて減ってはいる。
だが、まだまだ脅威と言える数は残っているのに対して、2人の魔力は目に見えて減っていた。
まだ逃げるには早すぎる。であれば、少しずつ厳しい戦いになる。
そう口にはせずとも考えた2人は、冷や汗を流しつつも鋭い目つきで構えた。




