86 ギランの切り札
「バカな!俺の水流瀑布を土魔法で防げるはずがない!」
唾を散らす勢いで怒鳴りたてる魔法師団副長サファイ。
その周りの兵士や魔法師団員も驚いているのか、体を硬直させて動けずにいる。
「土魔法ならなぁ。つぅか最近は帝国も魔法にも力を入れだしたのかぁ?久々に使うハメになっちまったな、これ」
しかしギランは呑気ささえ感じさせる口調で返す。
どこか楽しそうにも見える様子で水流瀑布を受け止めた壁にポンと触れる。
「まぁいい。しっかりと見せてやるからその内分かるだろ。んじゃいくぞぉ!」
叫びつつ魔力を昂らせる。
それに呼応するように金属の壁が一瞬鼓動するかのように揺れ、次の瞬間。
「なっ!?」
「ぐあっ!」
壁から弾かれるように飛び出した破片が兵士や魔法師団員に殺到する。
彼らも咄嗟に対応して持っている武器に魔力を纏わせて弾こうとするが、その武器ごとへし折り次々と帝国軍を蹴散らしていった。
「なんだこの威力は…?!土魔法ではないのか?!」
たまたま回避を選択した事で凌いだサファイは、しかしその光景に驚愕を隠せない。
「おらおらぁ!」
「くっ…!」
次々と破片を発射するギランを睨みながら魔法師団副長は考えを巡らせる。
ギランが言った魔法に力を入れている、というのは正解だった。
そもそも武力という体術や剣技、それを支える身体強化魔法をより高い水準で備える帝国ディンバーは、魔法での攻撃に疎かった。
それは翻せば魔法に対抗する術も貧しいという事である。
それはそうだろう、戦争を仕掛けた際にエイルリアから魔法を受ける事はあれど、自国での鍛錬において魔法がろくに使われていなければ対抗する術も磨かれない。
しかしそれをより高い武力で上回ろうとしていたのが近代までの帝国軍だった。
兵士をより磨かれた戦闘能力に鍛えて備え、エイルリアの魔法を打ち砕かんと考えていた。
だがそうも言っていられない事情が出来た。それが、
(ギラン…やつに対抗する為に魔法やその対策を強化してきたというのに!)
そう、ギランである。
内部での諍いは昔からありはしたが、問題なく沈静、弾圧してきた。
しかしある日現れた革命軍を名乗る彼らのリーダー、ギランが帝国兵士を大きく上回る戦闘力を見せたのである。
接近戦も上級兵士に匹敵、あるいは勝ち越すレベルに加えて強力な魔法を行使する。
そんなギランの登場に、帝国軍はエイルリアに向けて兵士を鍛えるどころかその兵士を次々に失っていく事態に陥る事になってしまったのだ。
そして皇族や帝国軍上層部が話し合った結果、その脅威の排除と対策を優先する事になる。
その対抗策として、魔法には魔法を、と魔法師団の強化。
並びに強化された魔法を練習台として兵士の魔法対策の訓練をすることとなった。
それにより兵士達は魔法を魔力を纏わせた武器で弾く技術を開発、普及していった。
中には四大魔法の中級までなら武器ひとつで抵抗出来る実力者も出る程となった。
そして今回の作戦にはそのレベルの兵士も混じっている。
それなのにこうも易々と薙ぎ倒されていくのは不可解である。
「くそっ!一体どうなっているというのだ!」
必死に回避しながら考えるも混乱している頭では冷静に考えることも出来ず、思わずといった風に叫ぶサファイ。
体力も限界に近いのか攻撃が捌き切れなくなってきた。
回避が間に合わなくなり、身体を掠める場面も増えてくる。
(くそっ!ギランめ!)
このままでは、と焦る彼。
そしてついに飛来する破片が彼の腕を捉えた。
「ぐぅっ!」
重く硬い衝撃。あまりの痛みに意識が遠のきそうになる。
どうにか意識を保とうとするも、そんな隙を逃してくれる相手ではない。
今だと言わんばかりに殺到する破片。避けようもない攻撃に彼は目を閉じようとしてーー
「させん!」
大柄な男が割って入り、手に持つ大盾で破片を受け止める。
「ぬううぅっ!」
だがその大盾さえも敵ではないと言わんばかりに破片は激しく衝突する。
太い腕が衝撃でたわみ、100キロはあろう体が後退させられる。
「リード!」
「サファイ!呆けるな!ここでやつを討つのだ!」
大柄な男――リード騎士団副長は額に脂汗を浮かべながら叫ぶ。
その声にサファイはなんとか気持ちを持ち直した。そして慌てながらも魔法を発動する。
「『水砲』!」
リードを迂回するように放たれた水の砲弾。
圧縮された水は破片を弾き、あるいは水により土の硬度を下げて攻撃力を下げる事が出来る。
しかし、待っていた結果は水砲を蹴散らしてなおも衰えぬ破壊力に晒され続けるリードが居るだけであった。
「何故だ!?一体あれは何なんだ!」
まるで万策尽きたサファイは喚くように叫ぶ。
ギランも哀れに思ったのか、それとも作業のように消化していく状態に飽きたのかそれに言葉を返す。
「あー、まぁいいや、教えてやるよぉ…これはな」
しかしその言葉を聞き終えるのを待つ事なく大盾に亀裂が入った。
それを起点に一気に大盾が崩されていく。
今にも突破されそうな状態。だが、結果から言えばサファイは無事その言葉を聞く事が出来た。
――ズガガガガン!!
耳をつんざく轟音に目を焼く光。その先に、二つの声が被る。
「「――金属魔法」」
だろう?と、二つの内聴き慣れた声が聞こえた。
慌てて振り返ると、そこには右手を突き出して立つ赤い髪の女性が居た。
「ルビィ魔法師団長!」
「すまない、助けるのが遅くなってしまった」
彼女、ルビィは左手に丸めた用紙を持ち、少し息切れした様子で部下に謝罪の言葉を送る。
そして衝突により発生した煙の隙間からギランを睨み、高まる魔力を体に滲ませながら右手を向けて言う。
「ギラン、貴様はここで討つ」
その言葉を受け、煙の向こうに立つギランはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。




